121:カブキ者(シガミー)、コントゥル母娘とカーソル
「「しゅ、淑女たるもの、みだりに人前で――剣を――魔法杖を――抜くものではありませんでしてよ――」」
企画会議参加者を蹴散らす――淑女未満たち。
「――リ・カ・ル・ル・ちゃぁん?」
「――お・母・さ・まぁ?」
ガツガツガツッ――ギリギリギリィィィィィィィン――――――――ッ!!!
細身の剣先を、宙に浮く巨大魔法杖がからめとる。
あー、アレをやるから、あの魔法杖の内側に小さいキズが出来てたんだな。
「ぴぃやぁぁぁぁっ――――!?」
ごろん――獲物が、手を上げたまま――うしろに転がった。
くるん――すぽん♪
五百乃大角は、荒事ができる風じゃないからなぁ。
いままでは、神の神通力かなにかで、まわりが避けてくれてたが――御神体っていう現し身を手に入れた以上、そうはいかなくなった。
こうしてコントゥル母娘に、〝二つにされる覚悟〟も必要になる。
ぽこん――消えた五百乃大角が、ビードロの中に現れた♪
元々居た小さな餅鏡――よくみたら板ぺらみたいな厚さしかなかった――が消えて、ちゃんと厚みがあるいつもの和菓子か梅干しみたいになってる。
「(これは……収納魔法のなかに、五百乃大角の御神体の姿と、梅干しの姿がふたつ出入りできるって考えりゃ良い……のか?)」
けど、いまはひとつに戻ってるし……どういうことだろ?
さすがに、コレはややこしくて、むずかしい話だぞ。
「――さきほどまで収納魔法の中に居た、板状の方は――カーソル……分け身とお考えください――」
そもそもの御神体が、分け身だから――そうとうややこしい。
けど――ヴッ――ぽこん♪
簪がわりの迅雷がふるえ、目のまえに姿をあらわした。
「おい、五百乃大角さま」
「なぁにぃよ? あーっごわがっだー!?」
長机の上を小さい足で駆けぬけ、よこに居た給仕服姿にとびつく。
「っきゃっ、危ないですよ、イオノファラーさま!」
がしり。しっかりと受け止められ、抱えられる〝鏡餅の逆さま〟。
仮にも宛鋳符悪党っぽい御神体だから――落ちたくらいじゃ壊れないだろうけど。
「まあ、そういうわけだから――(狐耳連中のまえで、念話は使わないでヤッてくれ)」
「そーね、そ-するわ!」
がたぶるがたぶるる。
よし、青い顔してるから、言うことを聞いてくれそうだ。
§
「その、おかわいらしい、お姿からは想像もできませんが――」
「わ、私も、つい反射的に斬りかかったりして――」
「「――誠にもうしわけ、ありませんでしたぁわぁー!」」
ぼくとリオの前。長机の上にむかって、あたまを下げる母娘。
こういう所は、前世とはやっぱり違うんだなあと、感心する。
「つきましては謝罪の意味もこめまして、ご入り用の物がございましたら、なんでもおっしゃってくださいませ」
ヒラヒラした町娘の服。
その裾を摘まんで、腰を落とす伯爵夫人さま。
それにならう、細身のドレスと給仕服。
「えー、コホン♪」
ちいさな座布団(なんかずいぶんと立派なヤツ)に鎮座する御神体さまが、うやうやしく小さな口をひらく。
ちなみに、この美の女神である五百乃大角が置かれた状況は、さっき迅雷が簡単に説明した。
「――神ノ国へ渡るタめの神ノ船が故障しマした。つきましテは、神の信徒でアるシガミー邸へ身を寄せている次第であります。みなサん、仲良くしてあげてくダさい――」
猪蟹屋の客なら、知ってることだ。
なんせ、店先に『美の女神に会えるお店』って看板までだしてるからな。
「いえいえ、いーのよ? お気になさらぁずー? けどでもー、どうしてもーとおっしゃられるので・し・た・らぁ・ばぁ――――」
おい、おまえ。何を言うつもりだ?
「――――えっと、なんだったかしるぁー? あの木さじの食堂のぉ、ピリッと辛くてサッパリした貝のお料理?」
やいコラ。領主の奥方さまに、出会って早々、飯をねだるんじゃねぇ――命がいくつあっても足りねぇーっ!
ごちん――ちから一杯叩いてやった!
「痛って――!」「――痛った!」
なんて石頭だ、マジ硬ぇー!
コイツ壊れねぇんじゃねーか、迅雷みてぇにさっ!
「――そうですね。AOSで動いているわけではないので、厳密にはアーティファクトとは違いますが、理論上、破壊不可能とお考えください――」
「なんてことすんのさっ! ばかシガミー!」
「バカとは何でぇい!? この大飯ぐらいの――惡神めっ!」
「そんなこと言うと、折角かんがえた〝変異種対策〟――教えてあげないんだからね!?」
「いらないもんねーだ! そんなもん無くたって、おれと迅雷が居りゃ――――」
ぎゅっ――むが、もが!?
いつの間にか背後にまわったリオレイニアに、口を塞がれた。
「いま、変異種対策とおっしゃいましたか? その話、是非ともくわしく、おきかせ願いたく」
もみ手のギルド長が、女神をうやまう列にならんだ。