表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/743

120:カブキ者(シガミー)、うわさをしたらやっぱり出た

「では、(もよお)(もの)大枠(おおわく)が決まりましたが――食べ(もの)ばかりですね」

 (くろ)壁板(かべいた)に書かれた、(しろ)文字(もじ)――ギュィィン!

 今日(きょう)眼鏡(めがね)調子(ちょうし)は、良さそうだ。


『焼いた(にく)(さかな)

『干した(にく)(かい)

『揚げ(もん)各種(かくしゅ)

(かた)くて(あま)いお菓子(かし)

 たしかに、(とお)りにならぶ(みせ)猪蟹屋(ししがにや)の、売り(もの)ばかりが書かれてる。


「――ちょっと、お(かー)さま! シガミーは(わたくし)のですのよ?」

「えー、リカルルちゃんの(もの)は、あたしの(もの)でしょお?」

 なんでかおれ……ぼくの(りょう)となりに陣取(じんど)る、狐耳親子(きつねみみおやこ)


 (みぎ)(ひだり)に引っぱられるから、壁板(かべいた)文字(もじ)が読み(づら)い。


「――奥方(おくがた)さま、お(じょう)さまも――コホン♪」

 そうだ、リオ。いってやってくれ。

 背後(はいご)(ひか)えていたリオレイニアが、やっと(くち)(ひら)いてくれた。

 引っ張られる手が、千切(ちぎ)れそうだ。


「――シガミーはもう、ウチの子(・・・・)ですので、お(あきら)めくださいませ」

 ぎゅっと椅子(いす)ごと、抱きしめられた。

 (たす)(ぶね)ではなく――火に(あぶら)だった。


 ぴしり――――(しず)まりかえる倉庫の一角(さくせんかいぎしつ)

 地方政治(ちほうせいじ)LV(レベル)冒険者(ぼうけんしゃ)ランク(てき)に、〝濁流(だくりゅう)〟と化したその長机(ながつくえ)

 その中央(なんなか)――まるで踏まれたパンか、ひっくり(かえ)った鏡餅(かがみもち)のようなフォルム。


「えぇっとねぇー、出し(もの)ならぁねぇー……ぺちぃ……ゲーム大会(たいかい)なんてどーぉう?」

 そんな(ちい)さな(ゆび)じゃ、(おと)なんか鳴らんだろう。


「かぁーっ! 出てきちまった(・・・・・・・)――どっから湧いた?」

 あたりを見回(みまわ)したら、階段(かいだん)(かげ)にレイダの(しり)が……(かく)れてなかった。

 おおかた、せがまれて連れてきたら――(あや)しげな(じゅつ)言動(げんどう)で、逃げ出されたって(ところ)か。


「よいしょっと♪」

 どこかから出した自分用(じぶんよう)のはしごを、ポキュポキュポキュムとよじ(のぼ)る――美の女神(めがみ)にして『猪蟹屋(ししがにや)専属(せんぞく)(めし)(かみ)


「ちょっと、シガミー。聞こえてますよ? あたくしさまこそは――商売(しょうばい)の……じゃなかった、美の女神(めがみ)でぇすぅよぉぅ?」


「これはこれは、御神体(ごしんたい)さま。ゲームというのは……?」

 ギュギュギュギュギュィィィィィィン――――♪

 壁板近(かべいたちか)くに居た、ギルド(ちょう)応対(おうたい)してくれている。


「ソッチはあとで、(おし)えてあげるけど……レムゾーちゃんさぁー? この『フェスタ……かいさいちゅうの……バリアントたいさく……について』――っていうのは、なぁに?」

 餅鏡(もちかがみ)美の女神(イオノファラー))が、壁板(かべいた)文字(もじ)を読みあげる。


「はい。今回(こんかい)はテェーング殿(どの)のご尽力(じんりょく)により、ことなきを得ましたが、その発生原因(はっせいげんいん)はいまだ判明(はんめい)しておりません。ですので、その対策(たいさく)(こう)じなければ大規模(だいきぼ)(もよお)(もの)開催(かいさい)するわけには(まい)りませんから――」

 ギュギュィィィィン――――!


「えー、折角(せっかく)の〝ごはんフェス〟が無くなっては――一生の不覚(いっしょうのふかく)! 迅雷(ジンライ)――変異種(バリアント)出現(しゅつげん)原因(げんいん)ってわかったぁ?」

 ヴュ――チチッ♪

 迅雷(ジンライ)(ふる)えて、(ちい)さな細腕(かいな)目尻(めじり)まで伸びた。

 目の(はじ)がチカチカ(ひか)ると――ビードロが目の(まえ)(あらわ)れる。


 これはおれ……ぼくと迅雷(ジンライ)にしか見えない――ぽこん♪

 和菓子(わがし)梅干(うめぼ)しみたいな(ちい)さいのが、ビードロの(なか)(あらわ)れた。

 あー、この目にはいる(ひかり)(とお)した、ビードロ――透明(とうめい)壁板(かべいた)を見られるヤツが、もう一人居(ひとりい)た。


「――イオノふァラー。物理空間(ぶつりくウかん)ストレージ・ファイリンぐシステムに、内部から(・・・・)侵入(しんニゅう)するのハお(ヒか)えくダさい。事象(じシょう)ライブラリの保全(ほぜン)支障(しシょう)が出なイとも(かギ)りませンの()――。」


 視界(しかい)(すみ)

 和菓子(いおのはら)が『変異種(バリアント)』に(かん)する図鑑(ずかん)を、引っかき(まわ)し――


 視界(しかい)(おく)長机(ながつくえ)(うえ)では――

 ギルド長(レムゾー)と、身振(みぶ)りを(まじ)えた議論(ぎろん)(はじ)めた。


 和菓子の体(うめぼし)と、餅鏡(ねがみめんど)(からだ)

 両方(りょうほう)をいっぺんに、(あやつ)ってるのか。

 ずいぶんと……器用(きよう)なモンだね。

 ――イオノファラーの居る世界(せかい)では、マルチタスク、マルチウィンドウが推奨(すいしょう)されておりますの()――。

 うん、まるでわからん。


「リカルルちゃぁん――あれぇわぁなぁに?」

「あ、アレはその、なんと言いますか、ねぇレーニア――?」

「――は、はい、奥方(おくがた)さま。アチラはその、大変(たいへん)おかわいらしいですが……正真正銘(しょうしんしょうめい)、美の女神(めがみ)・イオノファラーさまの顕現(けんげん)なされたお姿(すがた)にございます」


 なんか、まわりで(さわ)いでるけど――ソレどころじゃねぇな。

「(変異種(バリアント)がでたり、ゴーブリンの群れが大量発生(たいりょうはっせい)した原因(げんいん)って、アレだろ?)」


「――はイ。龍脈(りゅウみゃく)まワりの仕組(しク)み――龍穴(りゅうけツ)によるものと(かんガ)えていマ()――。」

「――ええっと、枝分(えだわ)かれした龍脈(りゅうみゃく)が、地上(ちじょう)に飛びだしたのを、龍穴(りゅうけツ)っていうのよねぇ()――」

 和菓子(うめぼし)が、真面目(まじめ)(かお)(かんが)えこんでる。


「――はイ。活力溜(かつりょくだ)まり……(ぞく)に言う〝パワースポット〟とお(かんが)えくださ()――。」

「(あー、魔物(まもの)とか動物(どうぶつ)が寄ってきて、植物(しょくぶつ)もよく生えるんだったか?)」


「――はイ、そうデす。どウやら、こノ(まチ)の人たチは、〝神力(しんりょク)変異種(バリアント)関連性(かんけいせイ)〟に、まダ気がついていないよウで()――。」


「――ならいいわ。変異種(バリアント)(かん)して知ってる(こと)や、対策(たいさく)があるならぜーんぶ、(おし)えてあげてちょうだい()――」


「(そうだな。また、あんなの(・・・・)が出たら、猪蟹屋(ししがにや)(いとな)んでる(どころ)じゃなくなりそうだぜ……だからね?)」


「――ところでさぁー――なぁーんで念話(ねんわ)使(つか)わないで、カナル(がた)イヤホン越しに(はな)してるの? つられて、あたくしさまも音声(おんせい)チャンネルに(はな)してたけ()――――(どぉーいうことかしらぁー()。)」


 ――――ィィィィィィィィン!

 ――――ィィィィィィィィン!

 おれ……ぼくの(りょう)どなりの椅子(いす)が、もぬけの(から)になった。


 (しり)もちをついたレイダ・クエーサー(ギルド(ちょう))。

 そのとなり。

 ちいさな、お(むす)びくらいの御神体(ごしんたい)


 その真横(まよこ)首筋(くびすじ)添えられている(・・・・・・・)のは――伯爵令嬢(リカルル)豪奢(ごうしゃ)(けん)

 そして直上(ちょくじょう)(かさ)ねられる、〝巨大(きょだい)魔法杖(まほうつえ)〟。


「(そうなる(・・・・)からだよ)」

 視界(しかい)(すみ)(おく)で、五百乃大角(いおのはら)両手(りょうて)を挙げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ