111:伝説の職人(シガミー)、そうび修繕クエスト?
「うぉるぁぁっ――!」
――ガシャン!
いちばん体格の良い精悍な顔つきの男(ギルド長)が、手にしていた抜き身の無骨な大剣を、とつぜん放りだした!
「それから、これも――!」
ガシャガシャガシャガシャ、外される手甲。
ゴトンゴトン、胸当てに腰当ても床に落とされる。
最後に、あきれ顔の受付嬢から手渡されたのは――やたらと格好の良い、角が三本も生えた兜。
黒い甲冑一式が――グワラン♪
せまい通路に積みあがった。
「ええと――何してるんだい?」
薄着になったギルド長に、聞いてみる。
――返事はない。
ごがしゃがしゃごどどどごん、ぐわらぐわらわらこん、ころろん♪
ギルド長の背後につき従っていた、屈強な冒険者達も次々と、武器や防具を床に重ねていく。
通路に積みあげられた、刀剣や甲冑の数々。
「ねえ!? ほんとうに――何してるんだいっ!?」
怖くなってきたので、もう一度聞いてみる。
――やっぱり返事はない。
――受付嬢が、にが笑いをしただけだ。
「(じ、迅雷クン! ど、どういうコトだろ?)」
ぼくを攻撃するために、剣を抜いたわけじゃないのはわかったけど――
「――まだ、推測の域を出ませんが……城塞都市ならではの、土着信仰の可能性があります――」
とつぜんの武装蜂起――からの武装放棄。
……いくさ場でこんなことをしたら、一方的な降伏だ。
一族郎党……殺されかねない――この〝女神が飯を食うためだけの世界〟は、そこまで戦国じみた様相を呈してないけど――
「ここに有る、すべての武器や防具にほどこされた強化を、貴殿にやりなおしていただくわけには、いかないだろうか?」
ガムラン町のギルド長(細身)とは似ても似付かない厳つい体格が、カクンと折れ曲がる。
まっすぐ向けられた、その眼差しは真剣そのものだ。
「えーっと、ひょっとして……クエスト依頼?」
「そうなるかな? フムンッ」
ピクリッ――なんでか、胸板の筋肉が動いた。
返事のつもりなのかも。
「ふへぇへぇ~~ぃ」
お、脅かさないで欲しい。
§
「貴殿は、魔物境界線の先鋒ガムラン町から来たとのこと。先日の遠征隊遭難の件は聞きおよんでいると思う」
冒険者たちが大がかりな作戦をおこなうときに集まる、長机がならんだ部屋。
こんな部屋がガムラン町のギルドにもあったけど、コッチのは大きさが倍の倍くらいあって調度品も見たことがないくらいに立派だった。
「うん。捜索隊を出そーって言ってたら、全員無事に帰ってきてホッとしたよ?」
ということにしておく。
ふっかふかの椅子。
からだが埋まって、身うごきが取れない。
「――良イ調子でス、シガみー。こコは徹底的にシラを切りまシょう――」
一介の冒険者が、くわしい話を知りすぎてても、不自然だからなー。
「ああ。なんでも居あわせた旅の修行者が、異常発生した変異種を葬ったと言うではないか」
「それ、ぼくです。天狗がやりました」
――なんて、言えるわけがない。
「へ、へぇー、そーだったのか。てっきり、いつもみたくリカルルさまが、真っ二つにしたと思ってたー」
「そう、そうなのだ! なにせ、かの悪名――じゃなかった、比類無き最恐の邪剣――でもなくて、とにかく……こう、なんというか、とても恐ろしい剣の腕前のコントゥル伯爵令嬢でさえ、一刀にできなかった強力な魔物が出たらしいという」
やっぱり、姫さんの〝ぶった切り〟は相当恐れられてる。
「城塞都市からも、いそぎ捜索隊を出したいが、それほどの強敵を前にして、我々の持つ普通の武器では心許ない」
わかる。姫さんが倒せない相手に、雑兵がいくら束になっても、かなうものではない。
ぼくだって金剛力がなかったら、あの〝化けウサギ〟を倒せていたか怪しい。
「そんな見解に達した我々は、ある策を講じたのだ」
話はつづく。
ギルド長(筋骨隆々)の精悍な顔つきが曇る。
「これは、私の〝天角の兜〟だが、上級鑑定をしてみてほしい」
しめしめフヒヒ――ぼくは、悪い顔で〝兜〟を見た。
§
――――ぽこん♪
空中に文字が書かれた板が、あらわれる。
これは上級鑑定をつかった、ぼくにしか見えない。
『天角の兜【漆黒・付け焼き刃】
防御力72(+30)。最強の頭部防具。
追加効果/STR+5/ATK+5/VIT+5
/INT-5/DEF+30/LUK-5
条件効果/【付け焼き刃】上級職人による一時的な性能強化中。
ただし、効果が切れる際に破壊される可能性あり。
その確率はアイテムのレア度に比例。
【強化残り時間 02:01:57】
装備条件/STR45、DEF25』
「――シガみー。彼らがアわてる理由が、判明しましタ――」
「(どういうコと、なんダい?)」
「――リカルル越えノ強敵にタち向かウため、貴重な装備ヲ破壊さレる危険をかえりミず、いちかバちかの一時的強化をおこなったようデす――」
「(けど、その必要がなくなったから――)伝説の職人スキルを持ったぼくに、なんとかしてほしいってわけか――」
「そういうことになる! フムンッ」
ピクリッ――胸板の筋肉が、また動いた。