108:烏天狗(シガミー)、ケモ耳バンダナを開発しよう
「できた――けどこれだと耳穴が空いてるから、冬とか……寒くないかな」
「さむいけど獣人向けのバンダナは、そういうものだコン」
「耳のかたちは種族によって違うニャ。だから種族向けの帽子や兜は、すこしお高くなるニャ」
「――汎用性が無いモのは買い手ガ限られルため、価格に反映さレます――」
商いの話ってやつだね。
「汎用性……誰にでも使えるバンダナ。ルコルとニャミカは耳の場所が……ちがう」
「――どうしマしたか、シガみー?――」
「(うんっとねー。いろんなヤツ……いろんな人が使える物でしょ? なんかやり方がありそうでさ」
それこそ着物だって一本の反物から出来てるわけだしさ。
「――なニか思いつキましたか?――」
「(いろんな首の太さの人が着物をちゃんと着られるのは、開いた形の着物をあわせ方で加減してるからでさ)」
「――そうデすね――」
「(だからさ、〝獣耳〟を着物を着る人の〝首〟に、見立てられないかなと)」
「――なルほど。日の本、出身なラではの発想でス。シガみー――」
「(けど、帯はどうしようか? 細く黒布を切って作っても良いけど)」
「――つマり、空イた耳穴に着物の〝襟〟ヲ、付けタいわけですよね……デは耳の後ろニ面スる部分に襟を縫いつケて――」
ふぉふぉふぉふぉん♪
ルコルとニャミカの前と横の顔が、ビードロにあらわれた。
ヴュューーッ。
大写しにされるひたりの耳。
ふぉん♪
黄色い線が、バンダナの絵を描いて、狐耳に重なる。
ふぉふぉん♪
たぶん〝襟〟を表す絵が描かれて――
「(やたらと太い鬼の角みたいに、なっちゃったけど――)」
バンダナの両端をしばるときに、長い襟先を一緒にしばる感じにすると、縫い閉じてない耳穴も綺麗にふさがる。
ふぉふぉふぉん♪
同じかたちが、猫耳側にもあらわれ、きゅっと絞られた。
「――こうシて低イ位置でバンダナを締めレば、猫族にモ対応でキます――」
バンダナに長めの〝耳襟〟を乗せた。
「これを修復でつなぎ合わせて、スキルで補強する」
ポォウ――♪
一瞬ひかるバンダナ。開いた耳穴から魔法の神髄がニュルンと生えた。
生えたソレが先端を、左右に振りはじめた。
「――縫い合わせタい箇所は、念話の要領で指示してください――」
ぼくが頭の中で考えるだけなら、ルコルの護身術を刺激することはない。
縫って欲しいところに先端がきたときに「ソコの縁を〝置いた感じのまま〟、したの穴の〝縁に〟縫い付けてくれる?」
そう〝ソコ〟。あと反対側も、〝同じかんじ〟で頼むよ。
境目を縫いあわせるように、光の筋がものすごいはやさで蠢く。
ぱぁぁ――ひかりが強くなって消えた。
ことん――長机に黒筆がおかれる。
「ルコルは何か、好きな柄は有るかい?」
「柄? じゃあもちろんキツネが良いコォォン♪」
狐ね。はいはい。
『狐』
さらり。
「――達筆でスね、シガみー――」
「(おう、おれぁ坊主でぇ――だったからね)」
字を書くだけじゃ芸がないから全体の形を、いつだかどこかの祭りでみた狐の面に似せて描いた。
「よしできたっ!」
コォォォォォン!
即座に強奪され、頭に巻かれるバンダナ。
「ニャぁにその、素敵ニャ模様!? ず・る・いっ!」
ニョキン♪
爪を伸ばし、また店主のバンダナを、ぶんどろうとする店員。
「すぐ、もう一個つくるよ。ニャミカはなんの柄が――」
「ネコニャ♪」
はずした黒手ぬぐいを、やわらかいネコ手でムギュギュと押しつけられた。
『猫』
すらり。
「――またも達筆でスね、シガみー――」
「(えへへ、ぼくは坊主だったからねー)」
こっちは猫の根付みたいな、まるっこい形に書いてみた。
「コォォォォォォォォン! なんだか元気が、わいてくるコォォォォォン!」
騒がしいけど大人しい、ルコルの声がうるさい。
「ど、どうしたの!?」
「――シガみー、上級鑑定を――」
しめしめフヒヒ。悪い顔で狐耳を見た。
――――ぽこん♪
空中に文字が書かれた板が、あらわれる。
『ケモ耳バンダナ【鈍い黒色・狐】
防御力22。獣人向けの頭部防具。
追加効果/LUK+20
条件効果/【狐】族の血により最大で100%自然回復力がUP』
「(筆書きノ文字が、効果ヲ発揮してしまったヨうです)」
「フッギャァァァァッ! 右に同じく、血がたぎるニャァァァァッ!」
「…………」「――――」
しめしめ、うっひっひ――――ぽこん♪
『ケモ耳バンダナ【鈍い黒色・猫】
防御力22。獣人向けの頭部防具。
追加効果/LUK+20
条件効果/【猫】族の血により最大で100%自然回復力がUP』
「…………まあ、装備できたから、良いよね?」
「――はイ、上出来でス。シガみー――」
反物/一反(成人一人分)に仕上げた織物。長くて丸まってる。
根付/物が落ちないように紐端に付ける細工。ストラップ。キーホルダー。