107:烏天狗(シガミー)、ケモノ向けバンダナ作成の手引き
「そう言われても、かわりになるような立派な物は、持ってないよ?」
「そういうことでもないんだコォン」「そうニャ、つまらない物なら、ソレはソレで話の種になるニャ」
にひひひとわらう獣人たち。
これは……商魂がたくましいだけじゃなくて――それよりも、もっとタチが悪いかもしれない。
「――そうでスね。下手な物を渡すト、何かしラの遺恨をのコす可能性が――」
「(じゃ、なにか作れ……ないな。金剛力がつかえないってことは、酢蛸もつかえないわけだろう?)」
「――そうでスね。元とナるアイテムさエ有れバ、シガミーのスキルでソレを強化するこトは可能でスが――」
元となるアイテム。頭につけられる物なんて――
「この顔に巻いてる頭巾……「――バンダナです――」――ばんだなぁ、くらいしかないよ」
「それでもいいコォン!」
「黒いのもステキニャ!」
「でもなあ。覆面とっちゃうと――」
もう素顔をだしちゃってもいいかな、別にそこまで困らないっていうか――
「――いイえ、困りまスよ。深夜に隣町まデ往復していルのがバレたら、まず監視が付クと思われマす――」
「(監視? なんで?)」
「――心配したリオレイニアがリカルル邸を退去し、シガミー邸に常駐スる確率が83%――」
「(あー、有りそうだなー……この布は迅雷式隠れ蓑と、同じものなんだっけ?)」
「――はイ、そウです――」
ソイツを切って、この頭巾と同じ物を作れるか?
「――そレならば、可能でス――」
§
「――伝説の職人スキルにハ、布・皮・木・石・魔物カら取れタ石・宝石・金属・ソの他の魔物素材を、なめシたり正確に切りわけタりする汎用スキルが内包されていマす――」
「(へー、ソレで?)」
「――じゃア、基本的な装備品の作り方にソって、作業しマしょう。そうすレばシガミーにも、最低限の物は作れるハずです――」
長机のいちばん大きなのを借りる。
なんか期待した目で、コッチを見つめてくるふたり。
「こほん。じゃーまずは、黒い布を出すよ」
ヴッ――――ぶわっさ。
「わ、大きな布だコォン」
「ニャニャ、真っ黒ニャ」
「(迅雷クン。ルコルとニャミカが装備できる、最高の頭防具……えっと、バンダナだっけ? ソレを作るぞ――大急ぎで)」
「――はい、そロそろゴーブリン石を売っテ、ガムラン町にもどらないといケませんし。ではコの特殊な網状の生地を――」
ふぉふぉん♪
『獣人向けバンダナ作成の手引き
1:適当に隠れ蓑を切る
2:適当に切断面を縫製し補強する
3:適当に耳穴部分を切る
4:適当に切断面を縫製し補強する
5:スキルを使い修復補強、追加効果を付与する
6:かんたんな意匠を生地上にスタイラス筆で描く
推定作業時間 00:05:00』
「(なんだか、大変そうなんだけど……本当に5分で出来るのかい?)」
「――はイ。コチラのハサミを使ってくダさい。テーブルを傷つけズに済みマす――」
「(はさみ? 藁とか布とか切るヤツだよね)」
ヴッ――かしゃん!
迅雷の機械腕の先に付いてたような、黒く折りたたまれた刃物がテーブルのうえに現れた。
手に取るとかるくて、持ち手をひらくと――シャリンと音がした。
「なんかでたコォン」
「はさみニャ」
びーどろの中の黒布にスッと引かれたのは黄色い線。
「――ソのガイドライン……目印どオりに切ってくダさい――」
「じゃぁー、ザッと切り分けるよ」
ひらいたハサミをあてがい、黄色線にそってとじる。
――シャキィィン♪
はらり――――一太刀で手ぬぐいの大きさに――勝手に切れた。
「――お見事でス、シガミー――」
「(いやいや、裁縫ていうのも、なかなか難しいモンでさ、そうそう一発で出来あがりは――――)」
「――――できた?」
耳穴の空いた厚手の黒手ぬぐいが、一本できあがった。
「(5分もかからなかったな)」
「――はイ、所要時間は1分強でス――」
「もうできたコォン!?」
「神業ニャ!」
「これで良いの?」
ぼくは手にした黒手ぬぐいを――しめしめと睨みつけた。
――――ぽこん♪
空中に文字が書かれた板が、あらわれる。
『獣人向けバンダナ【鈍い黒色】
防御力12。獣人向けの頭部防具。
追加効果/LUK+10』
これは、ぼくにしかみえない。
黒手ぬぐいをひったくる狐耳。
さっそく頭に巻いて――「わっ、なんか――すごく収まりが良いコォン♪」
「私にも、貸して貸してニャン!」
店員に蹴りとばされ、バンダナを奪われる店主。
「ひどいコォン! それは我のだコォン!」
「ケンカしないでよ。それで良かったら何個でも、すぐ作れるから」
「ほんとコォン!?」
「(じや、さっきのヤツ。もう一回やるよ)」
「――ではこンどは手引キとガイドなしデ、作成しテみてください――」
ん? できるかな。けど大して難しくはなかったから――やってみる。