104:烏天狗(シガミー)、カフェ『ノーナノルン』
夜の町をあるく。所々に夜店が出ていて、活気がある。
ルコルの茶店があるらしい、町の中央へ向かう。
「なんだか町をあるいている人が、みんなルコルや姫さんみたいな上等な服を着ているね」
「そうコォン? 夜中にあるいている奴なんて、たいてい貴族か変わり者だからそうみえるんだコォン」
違うって言ってたけど、たぶんルコルは貴族だし、おそらく相当な変わり者だとおもう。
「でもたしかに、こんな鮮やかな服の中に、ぼくみたいな真っ黒が居たら〝真っ黒のカラテェ〟って言われてたよね」
「まあね、黒いのは黒いので、格好良いけどコォン」
とても太い木の幹を、くりぬいて建てたような家。
その扉の鍵穴へ、がちゃりと鍵をさすルコル。
「ここが我の店だよ、気兼ねなく入ってくれコォン」
どうやら、このこぢんまりとした建物……大木が彼の店のようだ。
木の幹に打ち付けられた変なかたちの看板。
「(まだ、しゃらあしゃらした字は、読めない)」
「――カフェ……茶店の名前は『ノーナのルン』といウようですね――」
「喃名告る……ン?」
「〝ひるね〟をしめす言葉だコォン」
足を踏み入れる、がたん――何かにぶつかった。
ピチチッ♪
「ぉわぁ、鳥だ!」
ドアを開けてすぐに、まるい形の鳥かごが吊されてた。
「あんまり、脅かさないであげてコン」
それは小さくて、まるい目の小鳥。
「(ごぉ~めぇ~ん~ねぇ~)」
「べつに声は、ひそめなくていーよ」
どーぞと、手のひらを店の奥へ向ける店主。
何かの図形を写す、色あざやかな魔法具。
あまい香りのする箱なんかが、あちこちに置かれている。
「(迅雷クン。ここは……何だと思う?)」
「――ずいブんと先進的な店構えでスが、喫茶店……茶店とイうのは本当のようデす――」
よくみれば奥の板場にある棚に、いろんな色形の皿や器が並べられていた。
そして壁にぶら下がっているのは、飾りじゃなくて大小様々な杯だった。
「じゃあ、おじゃまします――」
店内の彩りとは逆に、客席は質素なつくり。
長机が数脚置いてあるだけで、椅子も普通のしっかりした木製。
「これは、動かないよね?」
そのうちのひとつに腰を下ろすと、店の調度品がなぜそこに置いてあるのかがわかった。
女将の店でも、猪蟹屋でもない、居心地の良さ。
これは店を営む者として、見過ごせない〝考え方〟だった。
「うわぁー(迅雷クン)」
「――なんでスかシガみー――」
「(店に来るお客の居心地の良さを推しはかるような、お店向きのスキルをぼくは持ってたっけ?)」
ふぉふぉふぉぉぉん♪
『シガミー LV:100 ☆:0
薬草師★★★★★ /状態異常無効/生産数最大/女神に加護/七天抜刀根術免許皆伝/星間陸路開拓者
追加スキル /遅延回収/自動回収/即死回避/自動回復/体力増強/上級鑑定/自爆耐性/上級解体/スキル隠蔽
/LV詐称/人名詐称/石窟加工/炸薬生成/初級造形/木工彫刻/石礫破砕/防具修復/高速修復/上級修復
/頭部防具強化/防具筋力強化付与/防具体力強化付与/防具攻撃力強化付与/防具知恵強化付与/防具防御力付与/幸運効果付与/幸運効果永続/幸運効果増大/幸運倍化
/幸運リミットブレイク/強運行使/防具幸運強化付与/耐性強化付与/耐性強化永続/耐性強化/耐性倍化/伝説の職人/不壊付与/不壊永続
/植物図鑑
――所属:シガミー御一行様』
「――情感を数値化し計測するスキルは、まダ所持しておりマせん――」
「(だよねー――うわ、追加スキルだけで5列も有る!)」
あらためてみせられたけど、どう考えてもスキルが多すぎる。
「――シガミーは最強の冒険者と言って、相違ないト思わレます――」
「(それでも、ついさっきLV12の大鷲相手に、死ぬとこだったけどな)」
「――LVもスキルもツかう者次第です。現にシガミーは格上のエリアボスであるリカルルをLV7で制圧しましタし――」
「(あれは、金剛力のおかげじゃんか)」
「――そうデすね、私たち二人の勝利でス――」
「(まあ、そうなんだけどさ。なんかさ……ズルくないかな?)」
大きなカバンを壁に掛け、板場で手を洗う狐耳を見る。
彼は、ひとりで大鷲のたまごを取りに、果敢に挑んだのだ。
「――私、INTタレットは、イオノファラーにより使わさレた、正式なアーティファクトです。イオノファラーに随時、美食を提供するコと……ひイては世界の命運を強いラれるシガミーに対する支給装備とシて、過不足はナいと自己評価しまス――」
「(うーん? まあ、下手したら最初の岩場で、おっ死んでたかも……しれなかったしなあ)」
「――はイ。シガミーには一切の気兼ねナく、順風満帆の今世を生きて頂きたいとイうのが私の考えでス。……浮かバれない前世を忘れるクらいに――」
ちょっとまて。別におれぁ、前世にソコまで未練はねぇぞ?
酒も女も戦場も、ぜんぶてめぇの力でつかんだしよ――――ふぁっさぁ。
目のまえで、ふさふさした狐耳がゆれてる。
「わわっ――ど、どうしたんでぇい!?」
ルコルが目のまえに腰掛けて、コッチを見つめていた。
そうだ、いま念話はコッチからしか使えねぇんだった。
迅雷側からのがないと、あたりはほとんど止まらない。
「でぇい――?」
「――シがミー、ニゲル口調が元にもドっています――」
おっといけないいけない。




