103:烏天狗(シガミー)、深夜のとなりまちへ到着
ズザザザザァァァァ――――やんわりと止まる魔法の杖。
「うわぁぁ――――でかい……おおきいねぇー」
渓谷を抜けたら、ソコも断崖絶壁で――
「ようこそコォン♪ 〝城塞都市オルァグラム〟へ」
正面を塞いでる断崖絶壁には、光る魔法具や窓がたくさん付いていた。
ふぉん♪
『城塞都市オルァグラムへ到達。オートマッピング更新』
なんかでたけど、すぐ消えたから放っておく、
「オルァグラム……隣町の名前か――オルコトリアみたいだな」
「〝オル〟っていうのは、〝天〟をしめす言葉だコォン?」
「へぇー、〝鬼族〟の知り合いに、そんな名前のがいてさ」
「そうなんだ。あ、ちょっとまって、杖をしまうコォン――ぎゅむぎゅむ――こいつめっ!」
地面に置いた、大きなカバン。
そこへ、抱えたギルド椅子(なぜか走る)を押しこもうとする、狐耳。
じたばたじたばた――どたんばたん――ぎゅむぎゅむぎゅむむっ!
「はぁはぁはぁはぁ――」
ギシギシギシシ――!
にらみあう狐耳と魔法の杖。
どうやら、椅子がしまわれたくなくて、足をひろげて抵抗してるみたいだ。
「ちょっと、やってみてもいいかい?」
肩で息をするルコルから、ギルド椅子をかりて――
背もたれの方から、カバンへ放りこんだ――すぽん♪
椅子はジタバタする暇もなく、カバンに飲みこまれた。
「コォン!? どうやったんだコォン?」
「頭っていうか、背もたれの方は動かないみたいだから、そっちから入れると暴れられなくて済むよ」
「それは良いことを、聞いたコォン! カラテェは頭が良いコォォォォォォン」
カバンを首に掛け、一目散に駆けていくルコル少年。
巨大な城門……の横。
ちいさな物置小屋みたいな建物に入っていく。
……これは呼ばれるまで、待ってた方が良いかな?
「――シガみー――」
「(なんだい、迅雷?)」
「――ニゲル青年のマネが、とテも上手になりまシたね――」
「(えー、そうかな。けど、さすがに〝ニゲル口調〟をレイダの前でやれる度胸はねぇけどな。絶対笑われるに決まってるし、なによりしゃらくさくていけねぇ……いけないよね)」
「なにしてるの、カラテェ? はやくおいでコォン」
ルコルが小屋から顔を出した。
烏天狗の〝カラテェ〟読みには慣れないけど、名乗ってしまった以上は仕方がない。
「(そういや、アレは要らないのかな、冒険者カード)」
「――そうですね。シガミーのカードを烏天狗仕様にしますか?」
ふぉふぉふぉん♪
『カラステング LV:14
防具鍛冶職人★★★★ /上級修復/体力増強/上級鑑定
/上級解体/伝説の職人
――所属:』
「(いいんじゃないかな。コレにしよう)」
ごそり――取り出したカードは、銀でも金でも真っ黒でもなくて、最初の木のヤツにもどってた。
「あ、やっぱりちょっとまって。カラテェはその真っ黒のしか、服を持っていないコォン?」
小屋から出てきて、ぼくをじろじろ見定める。
上級鑑定の鐘が鳴らないから、物を調べてるわけじゃなくて――
「ええと、魔物に見つからないためには、目立たない黒が良いかなと思って……ダメかな?」
「――シガみー。衛兵に怪しまレても面倒でスので、隠れ蓑だけデも外しまシょうか?――」
うん。そうしてくれる?
ヴ――しゅるぽん♪
黒づくめの格好が、いつもの給仕服に変わる。
「おろろ!? はや変わりだ! カラテェは奇術師コォン?」
「ちがうよ、ぼくは薬草師だよ。いまのは外に羽織っていた黒布を外しただけだよ」
「そうコォン? けど、そのほうが良いコォン。真っ黒いままだと〝真っ黒のカラテェ〟って呼ばれちゃうコォン」
怪しく見えるからという理由で、呼び止めたわけじゃなかったみたいだ。
ふぉふぉふぉん♪
『カラステング LV:14
防具鍛冶職人★★★★ /上級修復/体力増強/上級鑑定
/上級解体/伝説の職人/薬草採取/収穫量倍化/植物図鑑
――所属:』
追加スキルに薬草採取関連が、何個か足された。
「(あ、薬草師だって、言っちゃったか!)」
「――つじツまが合うように、ダミースキルを設定。15SPを使用しまシた――」
ふぉん♪
『SPのこり 145,342』
「(ごめん。気をつける)」
女将の〝木さじ食堂〟でもらった給仕服。
リオレイニアからもらった、革製の胸当て。
レイダにもらった緑布を首に巻いて、ガムラン町の衛兵からもらった外套をはおってる。
顔に巻いたままの黒布は、いまさら外すのもへんな気がして、そのままだ。
小屋に入ると小窓があって、ソコで冒険者カードを見せれば良いみたいだ。
「我はルコラコルコォン」
差し出したカードの名前とLVが、白くひかった。
ひらいたドアの向こうに、歩いて行く狐耳。
ドアが閉じて、ぼくの番になった。
「ぼくはシ……じゃなかった、カラステングだよ」
ドアがひらいて、ルコルが手招きをしている。
「――スキル隠蔽、LV詐称、人名詐称スキルの効果は、ちゃんと効いているようです――」
「ふぅー(よかったー)」
せまい通路をすすむと、城壁の中に出た。
「わぁ、明るい!」
ひかる魔法具が所せましと並んでいた。
一瞬明るくなってから――昼間みたいに見えるやつが――ヴュザザッと弱まる。
がやがや。
深夜だというのに、町には人通りがあった。
「ようこそコォン♪ 〝城塞都市オルァグラム〟へ」
ルコルが城壁のまえで言ったのと、同じ言葉を繰りかえした。