101:烏天狗(シガミー)、4シガミーのはやさ
がちゃり、がちゃがちゃぱきん!
動かない手甲と、支えがない下駄。
ぼくは拾ったソレを、さっそく手足につける。
「身長はほとんど、かわらないな」
ちかくの岩を、なぐってみる――ガガゴン!
「痛くない。かるくて頑丈だ」
靴につけた下駄も、かるくて頑丈――ゴパキャ!
岩が割れた。
「よし。軽業には向かないけど、なにかを蹴り倒すのには、じゅうぶん使える」
「おぉおぉいぃぃ――――」
ぼくが落ちたことに気づいた、ルコルが引きかえしてきた。
コツコツコツ――ルコルの方へ歩きだす。
下駄でも、ちゃんと歩ける。
スタタ――――トタタタタ……?
けど、走りだした途端に――
「――あれ? からだが……重い?」
まるでさびた甲冑を着て、重い荷物を背負ったような。
なんだ、この足のおそさは?
「まさか、もう筋肉痛……けど痛くない?」
「――シガミー。日の本の生活で、早馬に乗ったことはありましたか?――」
「(どうしたの急に……馬? なんどか伝令の護衛をするのに、誰かの後ろに乗ったことがあるな)」
「――では、そのあと馬を下りて自分の足であるいたときに、おそいとかんじたことは?――」
「(おぼえてないけど、それがコレに関係あるのかい?)」
トタタ――トタトタタ――
どれだけ手足をはやく動かしても――ぜんぜん前にすすまない。
まるで流れが急な川を、渡ってるみたいだ。
「――はい、その現象は〝脳の可塑性〟によるものです――」
「(納涼歌僧失……わからないよ?)」
「――金剛力のはやさになれたせいで、自分の足で歩くとおそくかんじるのです――」
「(おそくかんじる? けど実際に金剛力がないと、ぼくはかなりおそいよね?)」
「――金剛力使用時のノ平均時速は86㎞/h。対シて生身のシガミーの速度は約22㎞/hです――」
「(細かい数字を聞かされても、わからないよ)」
「――いまのシガミーは、四分の一の速度しか出マせん。その状況に 頭がついていかないのデす――」
「(例の言いかただと、〝4シガミー〟ってことだよね……そう聞くと、それほどじゃない気もしてくるな……金剛力)」
「――そうでスね。では金剛力にかワる――足を手に入れルというのは?――」
キュキキキキィィィィィッ――――!
「ごめんごめん、やっぱり二人乗るのは無理があったコォン」
ギルドの椅子と、まるで同じかたちの――魔法の杖。
「――アレなど手頃でハ、ありまセんか?――」
アレはだめだ。
あんな面白いもんに乗ってたら――かならずレイダに笑われる。
ゴツリ。岩土を下駄で小突く。
「この硬い土っていうか、岩みたいな地面を――はやくうごく乗りもの?」
ゴツリ。そびえ立つ断崖絶壁を、駆けおりた一本歯の――
「――下駄の歯を横にするアレなら――どうかな?」
ぼくが椅子の背もたれをつかんで、からだを引っぱってもらうのだ。
「じゃぁ、いくコォン」
ゴザザザザァ――――!
腰をひねって横にした下駄の歯。
馬車の轍みたいな跡もつけずに――地面をすべりだした。
少しザザザーって引っかかるけど、そびえ立つ断崖絶壁を全速力で駆けおりるのを考えたら、ぜんぜん平気だった。
§
「段差になった……先に……生えた木……」
ここは卵の地図に描かれた小さな森。
「これかな?」
狐耳を振りかえり、ぺちりと太い幹をたたく。
「うん、その左に伸びた太枝の、付け根あたりに巣があるコォン」
少年は、1パケタの地図を風に飛ばされないように、しっかりとつかんでいる。
ガシリ、ガシリ!
手甲についたかぎ爪は、樹皮をしっかりとつかむことができた。
ごん、ごごん、ごん!
下駄の歯も突きたてると、木を登るのは簡単だった。
「よっと、あった!」
枝に飛び乗ると、ぼくとルコルが、ごろ寝できるくらいの大きな巣があった。
「(迅雷、この卵、収納できるか?」
「――そうデすね、また落とシたら大変ですかラね――」
ヴ――すぽん♪
「おおきな卵を、ひとつ回収したよ」
くるくる、すたん♪
「ココまでは順調にいくのさ……問題はさ、この後なんだコォン」
上空を見上げると――――いた。
クケケケェェェェェェェェッ――――――――!
クケケケェェェェェェェェッ――――――――!
四匹の二首大鷲。
つまり、八首の大鷲が、急降下!
ガチガチガチガチガチガチガチガチ――――!
「うぉわっ――!?」
「コォォン――!」
たしかにこの頭数の多さじゃ、さばききれない。
ぼくたちは、岩土にふせた。
「我の帽子がぁ――――!?」
ゴッォウ――ばさばさばさっ――ルコルのつば付きの帽子が、さらわれた!
ん、大事な物なのか――ひっしだな?
「ぼ、帽子をなくしただなんて知られたら――折檻されちゃうコォン!?」
あの怯えよう……〝かぁふぇ〟の給仕は――姫さん並みに怖いらしい。
ヴッ――じゃりぃん♪
ゴッゴッガッガンッ――――下駄の歯でかたい岩土をはしる。
ぬぉりゃぁ――――(2秒)!
定めなくても、あのおおきな的を後ろからねらうなら――はずさない。
ごっひゅぅん――――かるく投げただけだから、あとから吹き飛ぶヤツは出ない――――ばごん!
「ギャケッ――――!」
フッ――じゃりぃん♪
もどった錫杖と、遅延回収した物を取りだす。
どさどさごろん――ぱさり。
「ほら、取りかえせたよ」
回収した物の中から、帽子をひろってわたしてやる。
「あ、ありがとう――――コォン!?」
「ありゃりゃ、おっきな穴があいちゃったね……ごめんね?」
「――――コォン!?」
帽子にあいた穴の向こうから、コッチを見つめる貴族さま。
そのつぶらな瞳から、涙がこぼれた。
装備品に厳しい……〝かぁふぇ〟の給仕は――白いのみたいに静かな怖さを秘めているのかもしれない。