10:転生幼女(破戒僧)、薬¢師になる
「でもあぶないから、炎系の魔法がつかえる職業を選んでも当分使っちゃダメよ」
「(魔術師としての術の行使にも、1・8メートル……六尺程度の杖が必要になります)」
ええい! 身長と筋力が、ぜんぜん足んねえ!
「じゃあ僧侶はねえのか? むかしやってたことがあんだが――」
「あっははははははははっ♪ むかしやってたって、どういうことなの。ぷふふっ ……えーっと、残念ながら選べないわねー♪」
たしかに、光る板に『僧侶』の文字がねえ。
「次のページまで待ってみる?」
「ぺえじ? ――――「(先ほど話にでた〝次の表に切りかわる〟という意味です。よりマスターの特性に見合うものがあらわれるようです……一か八かですが)」――――博打ってことか。おもしれえ!」
右したの丸い形が、小石のようになり針になって消えた。
音もなくあらわれたのは、やたらと★が付いたのがふたつ。
『暗殺者★★★★ /暗視強化/会心率上昇/静音補正』
『薬¢師★★★★★ /状態異常無効/生産数最大/女神ゅ加護』
「あらぁー、僧侶なかったわねー。でも星の数が凄いことになってるから、好きな方を選んだら良いわよ」
「ふむ……暗殺てのは穏やかじゃねえな」
「(ジョブ……職業としての暗殺者は、〝隠密〟です)」
「(忍びの者か……靴があるから壁は走れても、短え忍び刀すら振りまわせねえんじゃ……)」
「暗殺者ていうのは技能の話で、人を殺すわけじゃないわよ。魔物相手にはすごく強いけど……レベルが上がるまではちょっと苦労するかもしれないわ」
「刀をふりまわせたとしても、なんか別に苦労すんのか……難儀だな子供わぁ」
「こっちの薬師ってのはどうだ?」
「あら? はじめのページにも、あった気がするけど……そうね、この町を拠点にして冒険者を始めるにはうってつけよ」
「よし(おい、★の横の技能てのをおしえろ)」
「(はい。〝状態異常無効〟は……病気にかかりません)」
「そいつぁいいな」
「(毒を喰らうこともなく、まやかしの術にもかかりません)」
「(すげえな。じゃあ次のは?)」
「(〝生産数最大〟は……物を作ったり、生きものを育てたときの収穫がとても増えます)」
「(こいつぁ、よくわからねえ……じゃ最後のは?)」
「(上位権限により非公開……お伝えする術がありません)」
「(なんだそりゃ? 〝女神の加護〟てぇと〝五百乃大角〟がらみか……役に立つとは思えんが)」
「(〝イオノファラー〟です。マスター)」
「(うーん。病気にかからねえってのは、まえの世界で考えたら相当なもんだぜ?)」
「どうするシガミー。そろそろ決めないと、また最初からで、お金かかるけど?」
「そりゃいけねえ、〝薬師〟で!」
「けっこう頭を使うけど、だいじょうぶ?」
人の怪我や病気をやわらげりゃ良いってこったろ?
多少のこころえはある。まえの世界じゃ般若湯さえありゃどうにかなった。
おれは大きくうなづく。
「じゃ、ここ押して」
尖った指先で『薬師』をさす、鬼娘。
「おらぁ!」
ちから一杯、その文字を押した。
パリィィン――――リィンゴォォォォン♪
びーどろが割れ、鐘の音が鳴りひびく。
かしゃりと音を立てて、板っぺらがとびだした。
§
「シガミーちゃん、おかえりなさい。どうだった!? やっぱり盗賊? それとも上級職の暗殺者?」
「薬師にしたぜ。最初っから役に立つって話だしよ」
狐耳が板っぺらに、きれいな朱色の紐をとおし、首にかけてくれる。
高貴な瞳が見開かれた。
「ちょっと!? これ――――!!!」
板っぺらに顔を寄せた狐耳の狐耳がピンと立った。
「これ〝薬師〟じゃなくて、〝薬草師〟よ!?」
般若湯/僧侶が言う酒の事。