表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/76

76

*アイが元の世界に戻った瞬間から始まります。

アイは、自分を冷たい水の中から引き上げてくれた逞しい腕の持ち主を見上げた。


水面に映る満月が乱れて歪む。


「おい! アイか? 久しぶりだな!」


聞き覚えのある声にビクッと肩が揺れる。彼女の肩にタオルがフワッと掛けられた。


(涼!? なんでここに!? うわ……一番苦手な奴だ。ずっと避けてたのに……)


その時……


「アイッ!!!!」


懐かしい声と共に温かいものに抱きしめられた。


「……おかあさん?」


マナミはボロボロ涙を流している。


「良かった……無事に戻ってきてくれて……良かった……良かった」


(私が戻ってきたことを喜んでくれている?)


そう自覚した瞬間に胸一杯に温かいものが広がっていく。


「アイちゃん、お帰り。無事で良かった」


穏やかな声が聞こえて顔を上げると、マナミの再婚相手のマコトが妹のマイを抱きながら嬉しそうに、でも若干不安そうにアイを見つめている。


アイは異世界でのアリシアの境遇を考えた。


意地悪そうなグレースやイザベラの顔を思い出すと、自分がいかに恵まれていたかを痛感する。自分のこれまでの態度が恥ずかしくなった。


父親は死んだけど、母親は生きている。再婚したけど邪険にされている訳じゃない。


妹が生まれたから私はもう用済みだ、なんて思いこんでしまったのは、自分の甘えが根底にあったんだと反省した。


心配して助けようとしてくれる人は沢山いた。


自分が見ようとしていなかっただけで。


幼馴染の涼だってそうだ。


涼は顔を合わせるとお説教しか言わない時期があって、嫌になって距離を置くようになった。


子供の頃はあんなに仲が良かったのに、と寂しい気持ちになったが、どうしても自分の気持ちをコントロールできなかった。


「あのね、お母さん、今まで我儘言ってごめんなさい。マコトさんも……心配して来てくださったんですね。ありがとうございます」


自分の耳が信じられないというように呆然としたマナミとマコトが、滝のように涙を流し始めた。


涼も驚いた顔でアイの顔をガン見しているが、アイは敢えてそれを無視した。


「と、とりあえず、家に帰ろう?」


アイはタオルで髪を拭きながら立ちあがった。


*****


アイは一人暮らしのアパートを引き払って家に戻ることに決めた。


そして、アリシアが残してくれた日記や授業ノートを必死で読んだ。


学校にも真面目に通おうと思った。


アリシアみたいに勉強したくて堪らない子が学校に行かせてもらえなかったんだ。


教育を得られる機会があることに感謝しなくてはいけない。


久しぶりにアイが学校に行くと世界が変わっていた。


アリシアは友達を沢山作っていてくれたらしい。彼女の日記のおかげでそれほど訝しがられることもなく学校生活に溶け込むことができた。


涼もさりげなくアイをサポートしてくれる。


アリシアが残してくれた日記によると、涼はずっと親身になって助けてくれていたらしい。


(子供の頃から面倒見が良い性格だったけど……)


アイは複雑な心境だった。


涼と一緒に歩いて帰宅する時も少しずつ会話が弾むようになっていた。


でも、アリシアのことを話したことはあまりない。


(涼は、アリシアのことをどう思っていたんだろう……?)


涼の横顔を見つめていると、涼がアイの方を向いてバチッと目が合った。


ぎこちない沈黙が降ってきた


「アリシアは……いい子だったでしょ?」


ようやく言葉を絞り出すアイ。


「ああ、そうだな。逆境にも負けない根性があったし、性格がいい子だったな」


「ふ~ん」


つい拗ねてしまうアイを見て涼は噴き出した。


「なにいじけてんだ!」


「だって……涼はアリシアにすっごく優しかったよね? アリシアはあたしとしてここに居る間のことを毎日事細かに日記に書いてくれたの。勉強も授業で習ったことを丁寧に書いてくれていた。私が戻ってきてからも困らないようにって。涼のことも沢山、そりゃもう沢山書いてあった」


「良かったな。やっぱ彼女はいい子だ」


「あ、あたしだって同じように細かく日記を書いてきたよ!」


ムキになって告げると再び涼が笑う。


「じゃ、お前もいい子だってことでいいんじゃね?」


その言葉にアイの顔が真っ赤に染まった。


「でも! あんたが女の子にあんなに優しいなんて知らなかった! 絶対にアリシアのことを特別扱いしてたでしょ!?」


「まぁなぁ、正直、彼女は可愛いと思ったよ。外見じゃなくて、性格が」


「そ、そりゃ……確かにアリシアはすごくいい子だって、向こうの世界でもみんな言ってたよ。苦労しているのにみんなに優しくて……それに外見も天使みたいに超絶美少女だし……」


「まじか!? 超絶美少女見てみて~」


「でもね! 彼女にはジョシュアっていう婚約者がいるの! 両想いなんだから、涼が入る隙間なんて全然ないからね!!!」


堪えきれなくなったように涼がクスクス笑った。


「なんかさー、お前、ヤキモチ焼いてるみたいだな」


図星をさされたアイは悔しくなった。


「そうだよ! 悪い!?」


これまでのアイでは考えられない素直な言葉に、涼の顔が呆気にとられる。まん丸く見開かれた瞳を見る勇気がないので、アイはそっぽを向いたまま早口で捲し立てた。


「あっちの世界で、あたしはここでどれだけ恵まれていたか良く分かったよ。アリシアは酷い境遇なのに愚痴一つこぼさずに頑張ってた。私は……わがままで甘ったれで……情けなかった。だから今度は真面目に頑張ろうって思ってる。お母さんにもお、おおおおおとうさんにも感謝してるし、妹の舞のこともちゃんと可愛がるつもり」


「おお、スゲー心境の変化だな」


「うん……」


そう言ってアイは俯いた。


「そういうことは、涼が昔からずっと言ってくれていたよね。あたしが聞く耳持たなかっただけで……。涼があたしのためを思って言ってくれていたことを素直に取れなかった。本当にごめん!」


深くお辞儀をするアイに涼が慌てた。


「え、いや、そんな……俺は大したこと言ってないぜ」


「あたしはね。大切な人は大切にしなくちゃいけないって学んだの。甘えてぞんざいに扱ったら罰が当たる。そして、大切に思っていてもそれを言葉に出さないと伝わらないっていうことも。だから、涼に会ったら、ちゃんと、ちゃんと謝って御礼を言おうって。涼、本当にありがとう。あたしのこともアリシアのことも守ってくれてありがとう! 心から感謝してる。」


涼は眩しそうにアイを見つめた。


「……そうだな。ちゃんと言葉に出さないと伝わらないっていうのは本当だな」


そう言って涼はアイの耳元で囁いた。


「好きだよ。子供の頃からずっと」


アイはその場でカチーンと固まった。


「へ、は、はぁぁぁぁぁあ????? も、も一回言って!!!」


真っ赤になって叫ぶアイに涼は悪戯っぽく笑いかけた。


「一生に一度しか言わない」

「ケ、ケチーーーーー!!!」


二人の声がどこまでも続く雲一つない真っ青な空に吸い込まれていく。


幸せそうな笑い声が青空に響いた。

*これで完結です。読んで下さった皆様、ブクマ、評価、感想、いいね、誤字脱字チェックを下さった皆様、本当にありがとうございました!


*新作『男嫌いの私がR18の乙女ゲームのヒロインに転生してしまい貞操を守るために戦う物語 ~ そして「お前なんて大嫌いだ!」と言われた幼馴染になぜか溺愛されています』を投稿しました。実は一度ボツにしたアイデアです(汗)。不定期更新になりますが、こちらも読んで頂けたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ハッピーエンドありがとうございます!
[良い点] 最終話まで読ませていただきました 大変面白かったです とても良い映画を観たような感じで、お腹いっぱいでもう何も食べられません(え?チーズケーキ?…もちろん食べますけど、何か?) アイさんと…
[一言] 楽しませていただきました。 ありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ