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*あともう一話で完結です!

アリシアは鏡の中の自分の姿を見て『信じられない』と思う。


婚礼衣装は眩しいくらい真っ白だ。アリシアの色白な肌は光沢のあるシルクに良く似合う。


ミリーは涙ながらに花嫁支度を手伝ってくれている。


「お嬢さま……お美しいです。こんなに華やかな結婚式が迎えられるなんて夢のようです」


(本当にこんなに幸せな日が来るなんて……)


アリシアの胸は喜びで一杯に膨らんだ。



今日はジョシュアとアリシアの結婚式である。



***


ジョシュアは、約二年前アリシアから学校に通いたいと聞いた時、心の中では大反対だった。


(俺の知らないところで他の男と過ごすなんて……)


要らぬ妄想が掻き立てられ密かに懊悩していた。


しかし、彼女が勉強したいと熱心に語るのを見て、惚れた女の希望を叶えることが男の甲斐性だと自分に言い聞かせた。


魔法学院に入学したアリシアは日々勉学、魔法、鍛錬に励み、充実した毎日を送るようになった。


彼女のクラスメートの男どもを呪い殺したいとまで思ったジョシュアだったが、幸せそうな彼女の笑顔を見て『これで良かった』と心から思うようになった。


但し、折に触れてアリシアの学校を訪ねては、周囲の男子生徒に目で脅しをかけることは忘れない。


(思春期の男なんて何を考えているか分かったもんじゃない!)


という偏見が正しいかどうかは『神のみぞ知る』だが、アリシアが多くの男子生徒の心をかき乱したことは事実である。尤も、本人は何も気づいていなかったが。


ジョシュアにとって結婚までの道のりは平坦ではなかった。


しかし、ついに!よくぞこの日まで辿り着いた!と全身に震えが走る。


武者震いだ。


いざ!結婚式!


ジョシュアは自分の丹田たんでんに力を入れた。


***


結婚式を挙げる教会でアリシアの到着を待つ間、ジョシュアは招待客と歓談していた。


今日のために宮廷楽団は胸が弾むような明るい音楽を奏でている。


ジョシュアは緊張と幸福の入り混じった複雑な感情を抱えつつ、周囲を見渡した。



ブレイクは相変わらずの麗しさで周囲の令嬢たちの目をハートにしているが、最近彼はメアリに求婚しているらしい。


年齢なんて関係ない、どうか隣にいて欲しいと口説いているがなかなか良い返事がもらえないと、つい最近もぼやいていた。


それでも今日は華やかなドレスを纏ったメアリのエスコートをしている。


羨ましそうな視線をものともせずに二人の世界に入っている姿を見ると、希望がない訳ではなさそうだ。



ウィローとその家族も参列してくれている。ギャレット侯爵が何をするか分からなかったので再婚せずにひっそりと生涯を終えるつもりだったが、元夫が失脚し後顧の憂いがなくなったので、正式に再婚したそうだ。


ジョージとキャサリンの間には子供がいなかったので、ウィローの息子がギャレット侯爵家を継ぐことになったが、彼が最初にしたことは王都の屋敷を全て取り壊すことだったという。


大変なこともあるに違いないが、結婚式に参列する様子は幸せに包まれた家族以外の何者でもない。



従妹のレイリは最近できたボーイフレンドと一緒に参列している。



コリンは本日リングボーイを務めることになっている。


コリンの家族もスーツ姿でスウィフト領の騎士たちと談笑している。獣人を見たことがない人間は多く、好奇の目を向ける参列客もいるが意地悪な視線ではない。それに、彼らは人間の視線など意に介していないようだ。



スカーレットは法務の家庭教師をしてくれているチャールズと一緒だ。幸せそうに瞳が輝いている。


その周囲にスカーレットやアリシアのクラスメートらしき集団がいる。男子生徒の何人かがジョシュアの視線を感じてビクッと目を逸らした。


(しまった、怖がらせすぎたか……)


少々気まずい思いで反省するジョシュア。



「ジョシュアッ!!! やったな!!! おめでとうっ!!!」


後ろから首に腕を回してきたのは近衛騎士団の仲間たちだ。


スウィフト領で一緒に戦った騎士団長や将校たちも顔を揃えている。


「やっぱりお前は男前だな! そういう姿もカッコいいぜ!!!」

「そ、そうか……?」


ジョシュアは、美しい金糸で丹念に刺繍の施された漆黒の礼服を身に纏っている。ハッと息を飲むほど野性味溢れた色香が漂い、鋭い目つきには圧倒的な力を宿している。


そんなジョシュアに密かに憧れる令嬢は案外多いのだが、彼がそれに気づくことはないだろう。


*****


司祭の合図で厳かな式が始まった。


全員が席につき、静寂さが教会を包む。


ジョシュアの心臓はうるさいくらいに高鳴っていた。


教会の扉が開く。



マシュー・ゴードンと共に現れたアリシアの姿に参列客はほぅっと溜息をついた。



「天使のような……」

「なんて愛らしい」

「花婿が羨ましい」


羨望をこめた騒めきが静かに広がる。


アリシアの顔にはまだあどけなさが残っているが、端整な美貌と花のような笑顔に誰もが心を奪われた。


ジョシュアは言葉を失った。


なんて可愛いんだとか、愛しいとか、愛しているとか、自分だけのものにしたいとか、そんな簡単な言葉で表現できる気持ちではない。


(これも獣人の血なのだろうか……?)


獣人というのは愛情が濃く、生涯一人の連れあいを愛しぬくと言われている。


一生でたった一人の相手を選ぶのだと。


自分の重すぎる愛情に不安になったこともあった。


重すぎて逃げられるんじゃないかと怖かった。


でも、アリシアは常に自分の重い愛情を受け止めて、花びらのような愛くるしい微笑みで包み込んでくれる。



(君は俺のすべてだ……)



アリシアはレースのヴェール越しにジョシュアを見て幸せそうに微笑んだ。


      ◇◇◇


ジョシュアが熱のこもった眼で自分を見つめている。


隣に立つ司祭よりも頭一つ以上背の高い花婿がアリシアに手を差し伸べた。


マシューに軽く微笑むと、アリシアはジョシュアの手を取って一歩踏み出した。


あの日、井戸に突き落とされた時から人生が大きく変わった。


透き通った水面にくっきりと映る満月を見て、幼い頃に母親が教えてくれたおとぎ話が脳裏をよぎったのを思い出す。


あれから多くの出会いがあり、それまでの価値観を根こそぎひっくり返すような経験をした。ジョシュアとハッピーエンドを迎えられるなんて想像もできなかった。



(本当におとぎ話みたい……)



アリシアはジョシュアの誓いの口づけを受けながら、おとぎ話の最後のフレーズを思い出していた。



『二人はそれからずっと幸せに暮らしましたとさ』



そして、その通りになったのである。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最終話はアイの話かな? 元の身体に戻ってから、現代、アイの方の話が全くなかったし。
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