表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/76

食堂に入ってきた継母グレースと継姉イザベラはそこにジョシュアが立っているのを見て、ギョッと目を剥いた。


「な、なぜジョシュア様がこんなところに!?」

「居てはいけないですか? 私はアリシアの婚約者ですが? 執事に通していただきました」

「でも、事前に連絡くらいいただかないとこちらにも支度がありますから……。ほほ、執事はもう年ですから、まったく気が利かないのですわっ!」


グレースは、傍らに静かに立っていた品のある老執事を睨みつける。


苛立ちを隠すように大きく息を吐くと、彼女は大袈裟な笑顔を浮かべてジョシュアに近づいた。


ジョシュアは薄い笑みを浮かべているが、その笑みが怖い。


「支度? アリシアを虐待して働かせているのを隠すための支度ですか?」

「な、なにを仰ってるんですか?」


継母は明らかに動揺した。


「床に皿を置いて、そこから食べろと言ったこともあるそうですね? 俺のアリシアに何してくれやがんだ、あ!?」

「ジョシュア様! それは全てアリシアの嘘です。その子は生まれついての大ウソつきなんです! そんな事実はありません! 信じてください!」


必死の形相でイザベラが言い募る。


「それに、アリシアとの婚約を破棄したのは、わたくしとの結婚を望んでおられるからでしょう?」


上目遣いでパチパチと瞬きをして媚びるイザベラの度胸にアリシアは感心した。


(今のジョシュアにアピールできるってのは心臓に毛が生えてるに違いない。スゲーな)


しかし、ジョシュアは眉を顰めて断言した。


「俺は君との婚約なんてこれっぽっちも望んでいない! 好意の欠片も感じていないからな!」


彼は呆然自失のイザベラを完全に無視して話を続ける。


「先ほどアリシアの部屋を拝見しました。これまで案内されていた部屋とは別の酷く質素な部屋で暮らしているようですね?」


「そ、それはその……一時的なもので……」


「じゃあ、あのボロっちい部屋は彼女の部屋ではないと?」


「も、もちろんですわ。そ、そうです! 補修が必要なのでその間だけの一時的な……」


「信用できん! それとこの二人のメイドたちはあるじであるアリシアに暴言を吐いた。俺ははっきりと聞かせてもらった。しかも、彼女に朝食も出さずに働かせようとしたんだ。どういうことですか?!」


それを聞いたグレースはメイドたちをキッと睨みつけた。二人がひぃっと震え上がる。


「まぁ、それは本当なの!? 伯爵令嬢に対する無礼! 許せませんわ。この二人は即刻、解雇クビにします!」

「「そ、そんな、奥様……」」


情けない声を出すが、グレースは二人を無視して猫なで声でジョシュアに近づいた。


「ジョシュア様。大変申し訳ありません。でも、どうか今はお引き取りいただけないでしょうか? アリシアも病み上がりですし……」

「アリシアがこの屋敷で娘扱いされず、虐待されているのを放っておけるか!」


ジョシュアが凄むと迫力があるが、グレースはそれに怖気づくような人間ではない。


「あらん、ほほほ。アリシアがジョシュア様に何を言ったか存じませんが、わたくしたちは彼女を娘として適切に扱っておりますわ。虐待なんて縁起でもない。アリシアは空想で物を言うことがあって、わたくしたちも困っておりますの」


大袈裟に溜息をつくと、困ったように眉根を寄せて手を頬にあて首を傾げた。


カチカチに固定された長い睫毛の下の潤んだ瞳がヒシッとジョシュアを見上げる。可視化されたらきっとお色気ビームが出ていることであろう。


その時、アリシアが魔道具の再生ボタンを押した。


+++++


『誰の許可を得てここに来たのです?! 汚らわしい!』


『朝食をいただきに参りました。私はここの娘ですから食堂で食べても構わないですよね?』


『は!? 何を厚かましいことを言っているの? あんたと一緒に食事なんて汚らわしい! 空気が汚れたわ! もう食べる気失くした!』


『この家の娘はイザベラだけよ! 本当にいけ図々しい! 行くわよ! イザベラ! ミリー、あんたも付いていらっしゃい!』


++++


自分たちの声を聞いてグレースとイザベラは言葉を失った。


「あ……あ……」


口ごもる二人をジョシュアは睨みつけた。


「こんなところにアリシアを置いてはおけない。彼女は今からサイクス侯爵家で引き取る。それからお前たちが嘘をついて俺たちの婚約を解消させようとしたことも分かっている。婚約解消はしない。後ほど自分たちがしでかした罪の大きさを思い知るがいい。このままで済むと思うな!」


ジョシュアは、アリシアだけでなく専属侍女としてミリーも連れていくと宣言した。


さらにアリシアを陰ながら支えてきた古参の使用人も希望者は全員連れていく、と断言すると、流石にグレースの顔色が変わった。


「ジョシュア様、それは理不尽なお話ですわ。貴方様に我が家の使用人をどうこうする資格はございませんでしょう?」


しかし、それを聞いていた最古参の執事が前に出る。


「奥様。先日、私が年老いて働きが悪いから給与を下げると仰いましたね。不満なら解雇するとも。どうか解雇してください。正当なスウィフト伯爵の血統であるアリシア様にお仕えすることが喜びですから、私はアリシア様についてまいります」


「そ、そんなことが許される訳ないでしょう! 貴方がいなくなったら伯爵家の品格が……他の若い執事なんて何もできない……」


「そんな私を気が利かない年寄りだと仰ったのは奥様ですが……」


絶句するグレースに向かって、執事は完璧な所作で美しい微笑みを浮かべる。


そして他の古参の使用人も全員辞職することを希望した。


ジョシュアは満足そうに頷いた。


「大丈夫だ。全員サイクス侯爵邸で面倒をみよう」


彼らは意気揚々とスウィフト伯爵邸を後にした。


呆然と立ち尽くすグレースとイザベラを置いて……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ