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マシューの衝撃的な昔話の後、戦況分析が報告され今後の戦略や戦術に関する詳細な話し合いが行われた。
その時に獣人に関する話題が出た。
「……まさか獣人が人間の争いに関与するなんて、いまだかつて聞いたことがありません」
スウィフト騎士団の団長が溜息をついた。
「獣人一人で人間百人は相手にできるだろう。今日は何とか撃退できたが、次はどうなるか分からない」
「父上……いや国王陛下とつい先ほど通話したところによると、獣人は薬を使って操られている可能性があるそうだ」
ブレイクの台詞に全員が動揺して顔を強張らせた。血相を変えて立ち上がった者もいる。
「薬……!?」
「ああ、陛下によると獣人の子供が誘拐されて王宮に献上される事件があったそうだ。子供は安全に保護されているが、その子供の両親と兄は調味料に偽装した薬を口にして何者かに操られるようになったらしい」
「薬ということは解毒も可能だということですか?」
マシューが熱心に尋ねる。
「ここにもポーションに詳しい者がおります。ありとあらゆる可能性を考えて備えろ、と旦那様から言われておりましたから」
「ああ、陛下によると王宮のポーションマスターが解毒の方法を発見したと言っていた。後で陛下と通信する時にその人物にも同席して欲しい。ポーションマスターと直接話をして貰った方がいいだろう?」
「はい。殿下。ありがとうございます! それは素晴らしいお考えです」
マシューも安堵したようだ。何らかの獣人対策ができることは有難い。
「そして、陛下は速やかに援軍を送ると言ってくださった。しかし、それでも最低七日間はかかる。一週間持ちこたえれば援軍が来る。これからの一週間が勝負だ」
ブレイクの言葉にその場の全員が力強く頷いた。
会議の後、ジョシュアは仲間の騎士たちに指示を伝達し、今後の作戦について綿密に話し合った。
騎士たちのジョシュアの見る目に迷いはない。
『副団長についていけば絶対に大丈夫』という信頼を裏切らないようにしなければ、とジョシュアは自分を奮い立たせた。
***
その後一週間に渡り、スウィフト領では激しい戦闘が繰り広げられたが、スコット王国の軍勢は徐々に勢いを失っていった。
結界が閉じられて援軍が投入できないことも要因の一つに数えられる。
また、民間人の避難が完璧で、略奪されそうな物資を残さなかったために敵の補給が滞ったことも大きい。民間被害がほぼゼロであったことは奇跡に近い。
さらに解毒剤を獣人に向けて大量に噴射すると、彼らはキョトンとした顔つきで戦闘から離れていってしまい、敵兵の士気もおおいに下がった。
スウィフト側の武器は革新的なものが多いうえに、ジョシュアがまさに戦神というべき活躍を見せた結果、援軍が到着する前にスコット王国軍は全面降伏したのである。




