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*ジョシュア視点続きます。

翌日の早朝、慌ただしくサイクス領から出発したブレイク王子一行は、その後の旅路で想定外の困難に遭遇した。


スウィフト領に入るには必ずギャレット領を通らなくてはならないが、そこに足を踏み入れてから得体のしれない集団に襲撃されるようになったのだ。


ブレイクの勘とジョシュアの腕力のおかげで怪我人を出さずに済んでいるが、ギャレット侯爵家の謀反が裏書きされるようで一行は陰鬱な雰囲気に包まれた。


ようやくスウィフト領に入った時、彼らは領内の異変に気がついた。


領の境界に居るはずの兵がいない。


村や町にも全く人気ひとけがない。


ガランとした町や村を幾つも通り抜けスウィフト領の城に辿り着くと、城の周囲に物々しいバリケードが設置されていた。


その前に屈強な兵士が並んでいて、ブレイク達を見ると剣や弓を構えた。彼らの眼差しは追い詰められた野生動物のように警戒心に溢れている。


焦ったジョシュアが両手をあげながら叫んだ。


「おい! 俺たちは味方だ! 王都からやってきた! ここで何が起こっているかを知りたい!」


それを聞いた瞬間に城の反対側の森からうぉぉぉぉっという雄叫びが聞こえてきた。


慌てて振り返ると、森の中から大きな軍勢が城に向かって押し寄せてきている。


先頭を走る兵は青地に白い十字架の旗を掲げていた。


(スコット王国の旗だ! 奴らが我が国に侵攻してきたのか!?)


多くの敵兵が襲いかかってくる中、ジョシュアと騎士たちは城を守るように立ち、敵の前線と真っ向からぶつかった。


さすがジョシュアと近衛騎士団は強い。


圧倒的な腕力で敵をぶん投げながらジョシュアはブレイクに向かって叫んだ。


「殿下は城の中に退避して下さい!!!」


「そうです! 殿下を安全な場所へ!!!」


聞き覚えのない声がして振り返ると、馬に乗った騎士がブレイクを城内に案内するよう他の騎士らに指示している。


さらに城の中から騎士だけでなく、大勢の兵士も溢れだし敵の軍勢と戦い始めた。


「味方かっ!?」


ジョシュアが馬に乗った騎士に尋ねる。


「はいっ! スウィフト領の騎士団の団長ですっ! ジョシュア様の顔は存じています。先ほどは警護の者が大変な失礼を致しました!」


物凄い勢いで敵兵を薙ぎ払いながらジョシュアに向かって謝罪する。


「話は後だ。今は敵を撃退するぞ!」

「はい!」


その後、人数で負けているのにも関わらずスウィフト側は徐々に敵を押し始めた。


その理由の一つはスウィフト側の興味深い武器にある。


ワインの瓶に何か液体が詰めてある。


栓の代わりに布が詰められていて、そこに魔法で火をつけ敵に投げつけるのだ。


他にも不思議な球体の物体を使っている。


球体からヒョロリンと紐が出ていて、そこに火をつけて敵に投げつけると大きな爆発を引き起こす。


その瓶や球体による敵の被害は大きく、敵は次第に後退していった。


戦いが長く続いて、空が薄暗くなり日が暮れ始めた。


敵兵たちの士気が大きく落ちている一方、スウィフト側の兵士たちはまだ意気軒高だ。


(勝てるっ!)


味方がそう確信した時に、敵の背後から獣の呻き声のようなものが聞こえた。


敵陣に四~五人ほどの狼や犬の顔をした人間が立っている。


(まさかっ!? 獣人かっ?)


怯んだすきに獣人たちが襲いかかってきた。



『獣人が人間の戦に関与することはない』



これまでの常識が覆された瞬間であった。


獣人を初めて見る兵士も多い。異常なまでに強く残虐なイメージがあるため最前線の兵士が恐怖で後ずさった。


(まずい! ここで士気を下げてはいけない)


「怯むなっ!!! 俺に続けーーー!!!」


味方を鼓舞しながら、ジョシュアは獣人に突撃し激しい戦闘を繰り広げた。


両者のスピードが速すぎて周囲の人間には何が起こっているのか分からない。


ジョシュアの勢いにスウィフト側も力を得て、なんとか踏みとどまることができた。


しかし、評判通り獣人の強さは並みはずれている。


さすがのジョシュアも苦戦していたが、周囲が暗くなり敵と味方の判別も難しくなっていくにつれて、敵軍が撤退を始めた。


獣人も自軍の撤退に合わせて引いていく。


「後追いはしない方がいい」


敵の撤退を見送った後、スウィフトの騎士団長の台詞に続いて、ジョシュアたちも城に戻る準備を始めた。

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