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ブレイクは顔を引きつらせた。


アリシアとの打ち合わせにジョシュアも来るとは聞いていたが、彼はアリシアの隣に隙間がないくらいピッタリとくっついて座っている。


「……ジョシュア。君は極端だな。あんなにアリシアに冷たかったのに」

「今その償いをしている最中です」


平然と宣うジョシュアにブレイクは諦めたように、女官のメアリに目で合図を送る。


彼女は無の表情で調査報告書をブレイク、アリシア、ジョシュアに手渡した。


「ありがとう」


受け取りながらブレイクが言い、ジョシュアは黙って会釈をする。


「ありがとうございます!」


アリシアがお辞儀をすると、メアリもニッコリと笑って会釈を返す。


アリシアはメアリが大好きだ。嬉しそうに顔を上気させて、花のような笑顔をメアリに向ける。


ジョシュアが面白くなさそうにアリシアの手をギュッと握った。


「アリシア……俺以外の人間にその微笑みを向けて欲しくない」

「え!? メアリは女性ですよ!?」


アリシアが言い返すが、それはジョシュアの機嫌を良くするものではなかった。


「アリシア、俺は君を独占したいんだ。本音を言うと俺以外の人間に会って欲しくない。ましてや、君の笑顔を見せたくないんだ」


ジョシュアの台詞にブレイクが目を丸くして、メアリの片方の眉が上がった。


「おい、ジョシュア、それはいくらなんでも極端過ぎる。お前がそんなんだとアリシアは普通の生活を送れないだろう」


「それは分かってる……だけど、どうしようもないんだ。俺の愛情が重すぎるのは分かっている。でも、アリシアの心に俺以外の人間が入るのは許せない。アリシアの全ては俺のものだ。俺以外の人間を彼女の視界に入れたくない。…………ドン引いているだろう?」


「ま……まぁな」


ブレイクだけでなく、メアリですら腰が引けているのが感じられる。


アリシアは溜息をついてジョシュアの顔を見据えた。


「ジョシュア様はどんな私でも愛して下さると仰いましたね? 男に二言はございませんね?」


「ああ。無論だ」


「でしたら、他の人に笑顔を振りまく私でも愛して下さるということですよね? メアリに笑いかける私でもお好きなんですよね?」


「ぐっ……」


「私が他の殿方と、例えばブレイク殿下と仲良くしていても、それでも愛してくださるということですよね?」


「うっ……」


「いいですか? 私が何をしても愛していると仰るのでしたら、私の行動に制限を加えること自体が矛盾しているのですよ。愛情とは相手から自由を奪うものであってはなりません。逆に相手を信じて自由を与えるべきものなのです!」


ここぞとばかりに、アリシアは毅然と言い聞かせた。諭した。説諭した。


正論で打ち負かされて涙目になるジョシュア。


「勿論、あなたを裏切るようなことは決していたしません。心の中でも裏切るようなことはしません。だから、私を信じて自由にさせて頂けませんか? 束縛されるのは嫌いです。大体一方的にああしろ、こうしろと言うのは時代錯誤ですわ。何か異論はございまして?」


「…………ない。…………分かった」


完全にアリシアの勝利であった。


「アリシア、さすがだな」


ブレイクが感心したように呟き、メアリが思わず、というように小さく拍手をした。


ジョシュアは若干恨めしそうにアリシアを見つめているが、彼女は気にしない。


既に未来の力関係は決まったのである。


それよりも大切な話がある。ブレイクは本題に入った。


「アーロン・スミスの家族の行方なんだが……」


アリシアとジョシュアの顔つきが真剣になる。


「アーロン・スミスの家には誰もいなかった。家族は妻と幼い息子だけで、息子には先天性の疾患があることも確認した。薬代は高価で、騎士の給与だけで補うのは無理だろう。彼の証言に嘘はないようだ」


「そうですか……。やはりどこかに監禁されているのでしょうか? お子さんの体調が心配ですね」


「アーロンもそれを一番心配していた。早く救出したい。ギャレット侯爵邸に監禁されている可能性が高いのだが、僕の諜報も屋敷の中の様子はまったく掴めていない状況だ。確たる証拠もないのに家宅捜索する訳にはいかない」


「それにギャレット侯爵邸の内部は迷宮のようになっているそうですものね。忍び込んでも見つけるのは苦労するでしょう」


「……アリシア、なんでそんなことを知っているんだ?」


ブレイクが驚いた顔をしている。


「え……っと、今日スカーレットから聞きました。彼女は子供の頃にギャレット侯爵邸の中に入ったことがあるそうです」


「スカーレット・ギルモア侯爵令嬢、だったな? なるほど。そうか、ギルモア侯爵は……」


ブレイクが腕を組んで考え込んだ。


しばらくの沈黙の後、ブレイクが顔を上げた。


「スカーレット嬢のおかげで良いことを思いついた。ギャレット侯爵邸の中を良く知る人物がいる。そして、ギャレット侯爵やグレース夫人の味方でないことは間違いない。長いこと消息不明なんだが……当てはある。早速調査してみよう」


ブレイクは立ち上がると、さっさと部屋を出て行った。相変わらず行動が早い。


メアリはアリシアとジョシュアに会釈をすると、急いでブレイクの後を追った。

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