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ジョシュアは観念した、というように頭を掻いて大きく息を吐いた。
覚悟を決めた顔つきでアリシアを見つめる。
「アリシア」
ジョシュアの瞳は限りなく優しい。優しいというより甘くて蕩けそうなシロップのようだ。赤い虹彩がとろりと潤む。
「アリシア……好きだよ」
ジョシュアの端整な顔立ちがうっとりと緩むと、驚くほどの色香が発せられることに気がついてアリシアの心臓が飛び跳ねた。
(ジョシュア様が初めて好きだと言ってくれた!)
喜びで心臓が早鐘を打ち始める。そして、きちんと自分の気持ちも伝えたい。
「私も……私もジョシュア様が好きです」
アリシアも真っ直ぐに彼の目を見ながら告白した。
すると、ジョシュアは荒い息を吐きながら自分の胸に手を当てる。
「……すまない。心臓が止まったかと思った」
ふふっと笑うアリシアを見て、ジョシュアの顔も耳も真っ赤になった。
「兵器だ……」
意味が分からずキョトンとするアリシアに向かってジョシュアはもじもじと尋ねた。
「てててててて、手を繋いでもいいか?」
「は、はい」
おずおずと手を差し出すと、ジョシュアの骨ばった大きな手が彼女の小さな手を包み込んだ。
「はぁぁぁぁぁ。なんて華奢で……可愛らしくて……白くて……柔らかい」
ギュッと握ったジョシュアの熱を受けて、アリシアは自分の手のひらが緊張で汗ばんでくるのを感じた。
「じょっ、ジョシュア様。あの、その、申し訳ありません。私の、手汗が……」
恥ずかしくなったアリシアが手を引っ込めようとするのをジョシュアは止めた。
「汗ばんでいるのは俺も同じだ。嬉しいよ……でもアリシアは……嫌ではないか?」
覗き込むジョシュアの瞳の奥が赤い溶岩のような熱を帯びて、その熱にあてられて体が火照るようだ。
「……私も嬉しいです。ただ、ずっと気になっていたことがあります。私の日記をお読みになったのでしょう? あんな不平不満ばかり書いてある日記を読んで、私に幻滅してしまったのではないかと心配で……」
それを聞いてジョシュアの表情が真剣になった。
「それは、本当に申し訳なかったと思う。大切な日記を無断で読んで本当に悪かった。俺の人間性を疑われても仕方がない。すまなかった」
深々と頭を下げる。
「い、いいえ。状況は分かりますし、怒ってはいません。でも、あんな風に私の欠点をさらけ出してしまって、恥ずかしいとは思っています」
アリシアは頬を赤らめて小さくなった。
ジョシュアは可愛くて堪らないというように甘くアリシアに笑いかける。
「全然欠点なんかじゃない。むしろもっとさらけ出して欲しいと思っている。俺は君の全てを知りたい。たとえ人に言えないような醜い部分でも俺は心から愛することができる。どんな君でも愛してる。ドロドロに甘やかしたい。俺無しで生きていけないようにしたい。もし、嫌なことがあって誰かに八つ当たりしたいなら俺にすればいい。何があっても俺は君を愛し続ける」
「だ、ダメです。そんな風に甘やかしたらいけません。私はダメ人間になってしまいます」
「俺は君にダメ人間になってほしい。そうしたら君の傍にいるのは俺だけになるだろう? 君が何であっても、どんな風になっても、何があっても現在未来永劫、君の味方だ。絶対に君を愛して離さない」
ジョシュアの自信満々の口調にアリシアは『これは真性だ!?』と内心動揺した。
本人も愛が重いと言っていたが、確かに予想以上だ。
しかし、それが嫌だという感覚はない。
それだけ愛されているのだ、と嬉しい気持ちが勝ってしまう。
「私も……ジョシュア様に離して欲しくありません」
はにかみながら言うと、ジョシュアの鼻からぶーっと鼻血が噴き出した。
慌ててハンカチを取り出して彼の顔を拭うが、焦りまくるジョシュアの顔を見ていたら、つい笑ってしまった。
「ジョシュア様。私はダメ人間にはなりませんよ。あなたの隣にいるのに相応しい人間でいるように自分を律したいと思っています」
何故かジョシュアは残念そうに口を尖らせた。
「ま、それがアリシアのいいところだ!」
そして、ニカッと少年のような笑顔を見せた。




