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*一日二回投稿予定です。毎朝7時と夕方7時に予約投稿するつもりです(忘れたりしたらすみません・・汗)

「なんですって!? 病気?」


グレース・スウィフト伯爵夫人は眉を顰めた。おまけにチッと悔しそうに舌打ちする。


侍女頭のミリーからアリシアが病気で寝込んでいると報告を受けて、グレースはイライラしながら爪を噛んだ。


「はい。奥様。ですからお医者様を呼んで頂いて……」

「あんな娘のために医者なんて呼べるわけないでしょ! お金がもったいないわ!」

「でも、万が一のことがあったら……記憶にも障害があるみたいで……」

「記憶が? ……そう」


グレースが考え込む。


「ま、いいわ。あんな娘、どうせなら死んでくれた方が有難いし」


何の思いやりもないグレースの言葉にミリーはギリッと奥歯を噛んだ。


彼女は既にアリシアのことから興味を失ったらしい


「私は忙しいのよ。仕事もできない娘に食事を与えたりしちゃダメよ。まぁ、しばらく寝ていれば勝手に直るでしょ」


そう言い放つとミリーを置いて出て行った。


ミリーは悲しそうに眉毛を下げ肩を落とすと、厨房で食事を貰いアリシアの部屋に持っていった。


厨房の料理長は古参でアリシアの味方であることが救いだ。


ミリーがアリシアの部屋に行くと、彼女は既に目を覚ましていた。


夕べは迷子になった幼子おさなごのように混乱していたが、今朝は大分落ち着いたようだ。


(やっぱりお休みになられたのが良かったのね)


ミリーはホッと安堵の息を吐いた。


「お嬢様。お食事でございます」

「か、かたじけない。そこに置いといて……くださいざーます。それより聞きたいことがあるの……でございまーす」


(言葉遣いは相変わらず変だけど……。でも、不思議とお嬢様の瞳にはこれまでになかった力強さがある)


ミリーは食事をテーブルに置くと「なんでございましょう?」と問いかけた。


「ジョシュア・サイクスってどこに住んでんの?」

「は!? な、なにを仰っているのですか?」

「ここから歩ける? ジョシュアって奴に会いにいきたいんだ」

「ジョシュア様はお忙しい方ですので事前にお約束もなしにはお会いできないかと……」

「え? でも、あたしの婚約者なんだよね? ……でございますわよね? それなのにそんなに会うのが大変なの? 何様?」

「え、いえ、あの、もしお嬢様がジョシュア様にお会いになりたいのでしたら、お手紙を書かれたらいかがでしょう? すぐに使いの者を遣ります。テッドに頼みますから」

「手紙……ね」


アイは考えた。


(筆跡はアリシアの筆跡になるんだろうか?)


「ねぇ、アリシアはこんな感じの筆跡だった……でございますか?」

「は?」


ミリーは戸惑ったもののアイがサラサラと紙に書いた筆跡を注意深く見つめた。


「お嬢様、筆跡は以前と変わりませんわ!」


安堵したようなとても嬉しそうな声をあげる。


「そっか。じゃあ、言葉遣いも意識しなければ自然にできるのかな……? うーん」


アイは悩んでいる。でも、悩んでも無駄なことにすぐ気がついた。


「ま、いっか」


引き出しから便箋と封筒を取り出すと、アイは手紙を書き始めた。


***


ジョシュア様


突然の不躾な手紙をお許し下さい。緊急に二人きりでお話ししたいことがございます。とても大切なことです。どうか今宵人目につかないように私の部屋に来ていただけませんでしょうか? この手紙をお届けするテッドが手引きを致します。何卒よろしくお願い申しあげます。


かしこ


アリシア


***


その手紙をミリーに見せると、彼女の顔色が急速に悪くなった。


「お、お嬢様……? この……今夜、テッドが手引きをするって……?」


「うん。テッドに頼んでもらえる? テッドはあたしを助けてくれたし、ミリーの息子だから信用できるんだろ……ざまーす? 問題が起こったらあたしのせいにしてくれて構わないから」


「そ、そりゃもちろんテッドは信用できます。でも、ジョシュア様が今夜、奥様に無断で忍び込むということですよね……?」


ミリーの顔は不安でいっぱいだ。


「マジでヤバすぎる話なん……でございます。頼む……でござる! ジョシュアに会えたらあたしはもう死ぬなんてことは考えねー……ざまーす」


アイはミリーに拝み倒し、暗にもし彼に会えなかったらまた井戸に飛び込むかもしれないと脅迫し、何とか手紙をテッドに届けさせることに成功した。


すぐに戻ってきたテッドによると、アリシアの使いだと知ってジョシュアが直接手紙を受け取りに出てきたらしい。


そして、手紙を読むと真っ赤な顔になり、テッドの言う通りにするので今夜案内して欲しいと言われたそうだ。


「まぁ、ジョシュア様がいらして下さるのね。テッド、ミリー、ありがとう!」


つい素で喜ぶと言葉遣いが自然になった。


「ああ、お嬢様。ようやく昔のようなお嬢さまに戻られました!」


ミリーが顔をほころばせる。


(なるほど、意識しないでいるとアリシアとしての言葉遣いが自然に出てくるんだな。どうすればいいかコツが分かってきたかも)


手紙を書く時のように、アイとしての自己を主張するのではなく、アリシアの意識に委ねるようにすると自然にアリシアのように身体が動き、言葉遣いも変わる。


変な言葉遣いで迷う必要がなくなるのは有難い。


アイはホッと息を吐いた。



そして、ややこしいので今後アイの意識を持ったアリシアのことはアリシアと表記することにする。

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