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「……っ! 王宮に!? なんでそんな!?」


ジョシュアの声に焦りが滲む。


「それが最善なんじゃないかな? 知っての通り、アリシアには新しい魔道具の開発に協力してもらっている。王宮に居てくれると助かるんだ。それに、王都のスウィフト伯爵邸は安全とは言えない」


ブレイクの言葉は尤もなのでジョシュアも頷いた。


「そうです、スウィフト邸は危険だ。だから、この屋敷に好きなだけ居てもらって構わないんです。いずれ領地に行くにしても、それまでの間はここに滞在して……」


ブレイクは必死に言い募るジョシュアを遮った。


「僕はアリシアに肩身の狭い思いをして欲しくない。それに、アリシアの使用人は経験豊富で素晴らしい人材ばかりだ。だが、ここだとその能力を活かしきれていないだろう? もちろん、サイクス家で良い待遇を受けていると思うが、彼らの才能が勿体ないと思うんだ」


(確かに……)


アリシアは心の中で同意した。


例えば、スウィフト伯爵家の元料理長は、ここでは一介の料理人として働いている。アリシアも一流の腕が勿体ないと思っていた。


「彼らに王宮で新人研修をして貰えたら助かる。王宮の使用人は皆忙しくて新人の研修や訓練を指導する人材が不足していると兄上から相談されたばかりなんだ。それにアリシアの異世界での知識は大きな財産だ。僕はもっとアリシアから話を聞きたい。王宮に居る方が合理的だと思わないかい?」


ブレイクの話はとても魅力的だ。それにアリシアは、ミリーの瞳が一瞬輝いたのを見逃さなかった。


スウィフト伯爵家では古参の使用人がここでは新人と同様の扱いになってしまうのは仕方がない。


決して悪い扱いを受けている訳ではないのだが、これまで自分たちがしてきた仕事に誇りを持っているミリーたちにとっては物足りない部分もあるだろう。


魔道具の開発のことを考えても確かに王宮に居る方が合理的な気がする。


それに、ここに居てもジョシュアと交流がある訳ではない。顔を合わせることすら滅多にないのにここでの存在意義はなんだろう?とアリシア自身も感じていたのだ。


「うん。じゃあ、そういうことで考えておいて」


ブレイクは爽やかな笑顔で手を振りながら帰っていった。


***


残されたアリシアとジョシュアの間に気まずい沈黙が流れた。


お互いの顔をまともに見ることもできない。アリシアがそっと盗み見ると、ジョシュアの眉間には今まで見たこともないような深い皺ができていて、不機嫌そうに腕を組んでいる。


(こんな時でも、きっとアイさんとだったら和やかに話をしていたんだろうけど……)


アリシアはどうやっても凹みたくなる気持ちを押し殺して話しかけた。


「ジョシュア様には苦境を助けてくださって、心から感謝しております。でも、アイさんではない私では物足りないでしょうから、やはりブレイク殿下のご提案についてミリー達と話し合って決めたいと思います」


それを聞いたジョシュアは何故か泣きそうな顔になる。


「それはっ、やっぱりブレイク殿下と一緒に居たいからか? そんなに俺が嫌いか? どうしてそんなに残酷なことができるんだ?」


思いがけないことを言われて、アリシアは呆気に取られた。


「…………は? どうしてそういうことになるんです?」


(ずっと一方的に避け続けられた挙句になんでそんなことを言われなきゃいけないの?!)


泣きたいのはアリシアの方だ。


昔のアリシアだったら何も言わずに黙って口をつぐんでいただろう。


しかし、今のアリシアは違う。


「ジョシュア様の方が私をお嫌いなんでしょう? アイさんとは随分仲良くされていたようですのに、私とは目も合わせない、話もしない。王宮や舞踏会に連れ立って行ったことなんて一度もありませんでしたわね。私の日記をご覧になって、きっと愛想を尽かされたのだと思います。顔も見たくないほど目障りなようですから、やはりこのお屋敷にこれ以上滞在させて頂くのは申し訳ないですわ。失礼します!」


ジョシュアが何か言おうとしていたが、アリシアはそれを振り切って走り去った。


オロオロするミリーが後ろから「お嬢さま! お嬢さま!」と叫びながら付いてくる。


自室に戻るともう我慢ができなくなって、涙がポロポロと溢れてしまった。


号泣するアリシアをミリーがそっと抱きしめる。


「……お嬢さま。きっと何か行き違いがあるのです。どうか、ジョシュア様とちゃんとお話ししてください」

「……っ。もうダメよ。絶対に嫌われてしまったわ」


(日記を読んで私の嫌な部分もすっかり知られてしまったし……今の一言がダメ押しだった。恩人のジョシュア様に酷いことを言ってしまったわ)


もう完全にジョシュアとの関係が終わったと思うと悲しくて涙が止まらなくなる。


(きっと婚約を破棄したいと言われるだろう。その時にはちゃんと受け止めないと……)


「お嬢さま……。もしかしたら、少し距離を置かれた方が宜しいかもしれませんね」


ミリーも哀しそうに呟いた。

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