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翌朝、ミリーが朝食の支度ができたと呼びにきた時には、アリシアはすっかり身支度を整えていた。


実はほとんど眠っていない。


アイが残してくれた手紙や日記を全て読み大体の事情は把握できたが、あまりの情報量の多さに頭がパンパンになって知恵熱が出そうだ。


スウィフト伯爵邸からアリシアと古参の使用人たちを助け出した二人の手腕には感心したし、これまでジョシュアに相談しなかった自分はバカだったと反省した。


それに、彼らは継母に取り上げられた大切な母の形見を全て取り戻してくれた。一つ一つの形見を手に取りながら、嬉しくて目頭が熱くなった。


顔を見るだけで鳥肌がブツブツできていたトンプソン子爵も逮捕された。自分が抱えていた問題を彼らは一つ一つ解決してくれたのだ。


アイとジョシュアには感謝してもしきれない。


……ただ、どうしても、どうしても考えてしまうことがある。


自分の心の弱さだと打ち消しても、どうしても考えてしまう。


アイはジョシュアと打ち解けて毎日一緒に過ごしていたらしい。彼が発した言葉やどこに行って何をしたかも事細かに書いてある。


そして、そこに記されているジョシュアはアリシアが知る彼とは大きく違っているのだ。


ジョシュアは寡黙で、アリシアとはほとんど喋らない。


それなのにアイと一緒にいる時は、大声で笑い、喋り、楽しく過ごしている様子が伝わってくる。


(ジョシュア様はアイさんのことが好きになったのかもしれない。私ではなくて……)


想像しただけで胸が痛くてどうしようもない。息を吸うのも辛くなる。


(私に嫉妬する資格なんてないけれど……)


アリシアの心はどんどん沈んでいった。


*****


食堂に行くと、ジョシュアと一緒に何故かブレイクも待っていた。


ブレイクは屈託のない笑顔でアリシアに手を振っている。


「おはよう! アリシア、今日も綺麗だ!」


対照的にジョシュアは仏頂面でアリシアの方を見ようともしない。アリシアはできるだけ気にしない振りをして笑顔を浮かべた。


「おはようございます。ブレイク殿下、ジョシュア様」


挨拶をしてテーブルにつくと、ブレイクが嬉しそうに彼女に話しかける。


「おかえり、アリシア。君が帰ってくるのを待っていたよ」


ブレイクに優しく言われて、アリシアは曖昧に微笑んだ。


アイの日記を読んだので、ブレイクも秘密を知る仲間になった経緯は理解している。


アイは、ジョシュアが婚約を破棄することになった切っ掛けはブレイクなのかもしれない、とも書いていた。


意味がよく分からないが、アイの手記には『詳細は不明』とあった。何か誤解や行き違いがあったのかもしれない。


いずれにしてもジョシュアとの婚約破棄はなくなった、と聞いてアリシアはホッとした。


アイによると、ジョシュアもアリシアとの結婚を望んでいるとのことだが、アリシアの気持ちは晴れない。


(ジョシュア様は、私の中身がアイさんだったから結婚したくなっただけで……。元に戻ってしまった私との結婚はやっぱり嫌なのではないかしら?)


自分の考えに思い切り凹むアリシアのダメージは計り知れない。


密かに落ち込んでいるアリシアにブレイクが明るく話しかける。


「それで、あちらの世界はどんな感じだったの?」


ブレイクに聞かれて、アリシアは目を輝かせた。


信じられないような奇跡的な経験をしたのだ。誰かに話したくて堪らないのは当然だろう。


ブレイクの瞳は好奇心に満ちていて、純粋に話を聞きたいという気持ちが現れている。アリシアは嬉しくなった。


「はい。この世界とは全く違っていて……」


さらにブレイクは涼にそっくりなので、王族だということを忘れてしまう。つい口調も砕けたものになった。


アリシアとブレイクが異世界の話で盛り上がっている間中、ジョシュアは無表情で一言も喋らない。


「すごいなぁ。特にその……携帯電話? 遥か遠くの人たちとも話ができるのか。でも、魔法が使える訳ではないんだろう?」


「そうなんです。でも、魔法のような機能が沢山ありました。メッセージや写真なんかも瞬時に送れるし、情報収集も簡単です。ビデオ通話といって顔を見ながら話すことも出来ます。本当に素晴らしい道具でした!」


「魔法も使わずに……すごいな。もっと話を聞きたい」


ブレイクが感嘆して呻く。


「はい! 私も是非お伝えしたいと思っていました!」


「大昔に異世界から来た人間は不思議な力を使い、多くの有益な情報をもたらしたと伝えられている。きっと、君の情報も将来この国の役に立つだろう!」


二人で楽しく喋る様子をジョシュアはニコリともせずに聞いていたが、アリシアたちは彼の様子に全く気がつかなかった。


突然、ガタンと大きな音を立ててジョシュアが立ち上がる。


「……私はお邪魔なようなので、これで失礼します。食事も終わりましたので……」


ジョシュアは不機嫌さを隠そうともしない。


アリシアは焦った。


「大変申し訳ありません。余計なお喋りをし過ぎてしまいました!」


「いや、僕が聞いたんだから、君のせいじゃない。ジョシュア。僕はアリシアに尋ねたいことがあるから、わざわざサイクス侯爵邸に滞在させてもらったんだ。君にも聞いて欲しい。すまないがちょっと待っててくれ。急いで食べるから」


アリシアとブレイクが急いで朝食を終えると、ジョシュアは別室に二人を案内した。


相変わらずムスッとした顔のジョシュアはアリシアの方には視線も向けない。


(やっぱり、日記を読んで失望させてしまったのかしら? それとも、アイさんが居なくなって悲しいの?)


自分は戻ってこない方が良かったのだろうか、とまで考えていたアリシアだったが、ブレイクの言葉にハッと我に返った。


「グレースの生家ギャレット侯爵家からアリシアに刺客が送られたという情報があるんだ……。まぁ、トンプソン子爵が勝手に喚いていたことかもしれんが。君がスウィフト伯爵家で虐待されて井戸に身投げしたのは分かっている。だが、それ以外で身の危険を感じたことはあるかい?」


「えっ!? 身投げ? ……あの、私が井戸に落ちたのは知らない男に攫われて、突き落とされたんです。恐らく薬か何かで体の動きを封じられていました」


「「なんだって!?」」


アリシアの言葉に、ブレイクとジョシュアは顔を見合わせた。

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