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*更新を再開します。お休み頂いて、すみませんでした。
毎日一回~二回の投稿をするつもりです(*^-^*)。また読んで頂けたら嬉しいです!
「アリシア様。今日のドレスはお古じゃないんですね?」
「あら!? そう言われれば。いつもみたいに色褪せた古びたドレスじゃないわ!」
「ようやく新しいドレスを買ってもらえたんですね? 良かったですわね! いつもサイズが合ってなかったようでしたから、心配しておりましたのよ!」
お茶会の席で、ほほほほ~と笑顔で嗤う令嬢たちの悪意をヒシヒシと感じる。
(なるほど。貴族令嬢とは陰険なものだ)
アリシアは内心ウンザリした。
日記には、お茶会で悪口や嫌味を言われ続けたことも記されていた。いつも大人しくて強い後ろ盾もないアリシアは恰好のターゲットだったんだろう。
(はっ! いつもみたいにアリシアが大人しく言われっぱなしだと思ったら大間違いだからね!)
アリシアは落ち着いてお茶を一口飲むと笑顔で周囲の令嬢たちの顔を見回した。
その堂々とした態度や彼女の凛とした美しさに全員が一瞬息をのむ。
「皆さん、私のドレスにそれほど注目されていらしたなんて……。貴族令嬢ってよっぽどヒマなんですね! ドレスのことしか考えられない頭のカラッポな令嬢って物語の中だけの存在かと思っていましたわ! おほほほ~」
アリシアの言葉に全員が呆気に取られた。口をポカンと開けて、中にはお茶のカップを取り落とした令嬢もいる。
「は……な、なにを仰っているのかしら? そんな品のないことを仰るなんて、慎みに欠けますわね。だから、家族にも婚約者のジョシュア様にも嫌われるんですわ」
テーブルの中心に座っていたド派手な令嬢が硬い表情で言い返した。
「まぁ、慎みの欠片もない方にそんなことを言われるなんて……。自分のことを棚に上げてよく仰いますこと。化粧だけでなく面の皮も厚いんですのね。さすがですわ! ほほほ~」
朗らかに言い放つアリシアに、ド派手令嬢の顔色が変わった。
「なんて無礼な! 私が誰か分かって言っているの?」
ド派手令嬢は震える指でカップをソーサーに戻しながらアリシアを睨みつける。
「あら~、最初に無礼なことを言い始めたのはそちらですわよね~? 人のドレスが古いとか、サイズが合っていないとか、私が嫌われているとか。余計なお世話ですわ。それに、私は貴女様を存知あげませんわ。この世の人間が全員自分のことを知っていると思うなんて、この星は貴女を中心に回っていると思っていらっしゃるのかしら? まさかのガリレオもびっくりですわね~! ほほほ~」
ガリレオなんて知らないだろうと思いながらも口が止まらない。
ド派手令嬢が怒りに全身を震わせて立ち上がる。その勢いでテーブルにあったお茶やお菓子が地面に落ちた。
「あら、食べ物を粗末になさらないで下さいね。もったいない」
そこは本気で言うと、ド派手令嬢が拳を振り上げた。
「なんて生意気な! 私はスカーレット・ギルモア侯爵令嬢よ! あんたなんかと格が違うのよ! 覚えてらっしゃい。このままで済むと思ったら大間違いだからね! 絶対に後悔させてやる!」
「あら、怖い! 鬼のような形相! 私、まるで脅迫されているようですわね」
「この!!! バカにして!!! よくも……よくも……」
拳を振りあげて怒鳴りつけようとしたスカーレット嬢の視線が一瞬泳いだ。そして、アリシアの背後の一点を見つめた後、突如凍りつく。
スカーレット嬢はこれまでのことがまるでなかったかのように、瞬時に表情を変えてスチャッと腰を下ろした。
「あら、アリシア様。冗談が過ぎましてよ。私、ちょっと驚いてしまって、少し乱暴な言葉遣いをしてしまったわ。てへっ。大変申し訳ありませんでした」
とっておきの笑顔を顔に張りつけて、深く頭を下げるスカーレット嬢。
「え!? なに? 突然改心したの? あんた、出家でもする気?」
あまりの変わり身の早さにアリシアは衝撃を受けた。何があった?!
すると背後からぶほっと誰かが噴き出した音が聞こえた。
振り返るとそこには完璧な彫刻のような美青年が立っていた。漆黒の髪に黒曜石のような瞳が煌めいている。
(あれ……? アイツに似てる?)
一瞬アリシアはアイの意識に戻って混乱した。元の世界で似た男を知っている。やたらと顔が良くて、説教臭くて、いけ好かない奴だった。
でも、別人だ。当たり前か。
美青年は「あ、失礼」と言いながら口を押さえているが、笑いを堪えて肩が震えているのが分かる。
「ブレイク殿下……」
溜息をつくように令嬢たちが呟いた。
全員が彼に向かって熱視線を送りウットリと見惚れている。
(まぁ、こんだけ顔面が良ければモテるのも当然か。ってか、誰? ブレイクでんか? でんかってなに? 家電? ま、あたしには関係ないけど)
アリシアは彼の存在をガン無視してテーブルの上の焼き菓子に手を伸ばした。
(口中の水分が取られるな)
飲み物はお茶だけか?と思いながら乾いた菓子をモクモク食べる。
「アリシア、君に話があるんだ」
美形に声を掛けられて、思わずゴホッと咳込んだ。
(む、むせる、むせる……なに?!)
顔を上げると端整な美貌が笑みを浮かべてアリシアをじっと見つめている。
その場にいた令嬢たちがザワっと動揺した。
「あ、あの、ブレイク殿下。私もいつか殿下とゆっくりお話をさせて頂きたいと……」
媚びるような口調で言うスカーレット嬢を、その男はハッキリと無視した。
スカーレット嬢の顔がピクピクと引きつり、不穏な空気が広がっていく。
「アリシア以外の令嬢に興味はない」
美形はそのままアリシアの手を取った。
男に手を取られて引っ張っていかれると、背後から大きな喧噪が聞こえてきたがどうすることもできない。
キィーーーーーッという奇声や「なんであの子が!? 殿下! お待ちになって!」という声にも、男は一切反応せずにズンズンと歩き続けた。




