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第一話

こんにちは。堀川士朗です。今週から六週にかけて、1666という作品をお届け致します。よろしくお願いいたします。


 「1666(シックスティーンシックスティシックス)」


         堀川士朗


第一話 杉作村すぎさくむら



1666年。

寛文六年。

八月の暑い盛り。

風が凪いでいる。


間垣富三まがきとみぞうは杉作村を訪れていた。

数えで三十になるでっぷりと肥えた男だ。

背丈は五尺七寸。目方は二十五貫ほどある。

この当時のヒノモトの男性としてはなかなかに堂々とした体躯だ。

『をどあける』と呼ばれる十六歳の奴隷少女たちを商うチェダ屋の商人である。主人はチェダ屋長兵衛。

間垣は大きな商いを任される大番頭だ。

ほら、ちょうど娘たちが間垣の前に集められた。

みな、怯えている。


これは杉作村から天外まで『をどあける』の少女たちを運ぶ旅の物語である。

最後までお付き合い頂きたい。


杉作村すぎさくむら尾古伊沢おこいざわ圧河あつかわ馬銜下はみしたぼん天外てんげの旅程でお届けする。


第一話 杉作村

第二話 尾古伊沢

第三話 圧河

第四話 馬銜下

第五話 梵

最終話 天外


の六話に別けて物語ろう。



集められた『をどあける』の娘たちは六人いた。


信乃。

久松。

美奈。

肥前。

たけ。

吉初。


みな十六歳の生娘だった。

少女たちの二の腕には、『をどあける』の証として丸に『を』の字が焼き印で捺されていた。

先ほど捺したばかりでまだ熱を持ち、痛々しい。

信乃は焼き印をさすりながら、どうして『をどあける』を排出するこの杉作村に生まれてしまったのだろうかと韜晦とうかいした。

いといやらしきぐらどるの写真をすまほの待ち受けにしている間垣。

すまほでチェダ屋長兵衛に『をどあける』の娘六人授受の件について連絡を入れている。

すまほは印多網いんたあねっとにも繋がれている。


間垣は一文銭をぴぃぃぃんと指で弾いて掌で蓋をした。

表か裏か。

今日の予定はこれで決まる。


チェダ屋所有の曳き車『玄武』。

六輪駆動で、動力は直噴たあぼのでぃいぜるえんじんである。

大きな木製の車体に、巨大で暴力的なえんじんが無骨に搭載されている。

車体側面の板張りにはチェダ屋の家紋である三つ椿が青くあしらわれている。

完全自動運転である。


間垣は煙草盆のい草を火打ち石で燃やして煙管に火をつけて一服し始めた。


杉作村の村人たちは哀しき『をどあける』の娘たちを見送ろうとして集まっていた。

数人の老婆が南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と拝んでいる。


間垣はそれを見てにやにやしている。


「ンじゃそろそろ行くぞ。信乃。久松。美奈。肥前。たけ。吉初。まなこに焼き付けとけよ、これがお前らの最後に見る杉作村だかンな」


間垣はそう言って娘たちに黒い首輪をつけた。

全員がその首輪を装着した。

鍵が掛かっていて自分では外せない仕掛けになっている。

間垣はたぶれっとで何かを打ち込んでいる。

何らかの設定をしているようだ。


「暑いな、しかし。そうだな……三十丈で良いか」


とかぶつくさ言いながら。


そして久松、肥前、吉初の順に曳き車に乱暴に乗せていった。

一人器量良しの美奈は丁重に車に乗せてやった。

残るはたけと信乃である。


「信乃、おら逃げるから」

「え?たけ」

「奴隷なんてまっぴら御免だ!売られちゃたまんないだよ!」


裾を尻っぱしょりにし、たけがその逞しい太い二本の脚で懸命に駆けて行く。

若い、若い肉体。

草鞋わらじに砂利が食い込むのをいとわず、たけは走り続ける。

ぎらついた太陽がたけの影を深く描き出す。

その影すらも速く移動する。

間垣は慌てるでもなく、その様を眺めている。

たけを頑張れ頑張れと見守る娘たち。

間垣が笑いながら娘たちに言った。


「ああ。言い忘れてたけど吾から三十丈(90メートル)以上離れると首輪が炸裂しておっ死ぬからな」


刹那、爆発音がして、たけの首がぽおおおおおおおおおんと二十尺ばかり吹き飛んだ。

ぼてんと地面に落ち、転がるたけの首。

血しぶき。

首を失った身体の方はまだしばらく走っていたが、やがて地面に倒れてじたばたと痙攣し、動かなくなった。

恨みがましい顔で虚空を仰いでいるたけの顔。

娘たちを全員乗せた曳き車玄武がたけの死体に追い付いた。

『をどあける』の娘たちは青い顔でそれを見つめていた。

手を合わせる事をすら忘れて。

誰も彼も、心臓が早鐘を打っていた。

間垣富三がほくそ笑んで言った。


「旅の始まりには相応しい花火だ。さあ、出発だ」



          つづく


ご覧頂きありがとうございました。間垣富三の旅は、まだ始まったばかり!これからもよろしくお願いいたします

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