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第五話 弁明

 ルーシィと、サマディを背負ったローザンがモサカへ帰って来ると、街の人々が総出で出迎えていた。


 そして、その中でも代表者らしき、先程噴水の上で演説をしていた男の人が一歩前に出た。


「よくぞ、よくぞドラゴンを討伐して下さいました。さあ、今日は街の者達で宴を…………」


「少し聞きたい事があるんじゃが、いいか?」


「………はい、何でしょうか?」


 ルーシィが男の話を遮ると、男は怪訝な顔をする。



「最初ワシらを見た時から、お主らはワシらに討伐を頼もうとしていたのか?」


 ルーシィがそう聞くと、伝播するかのように村の人々全員が怪訝な顔をした。


 そして、ざわめきが沸き起こる。


 耳を澄ましても大体の言葉を言葉として聞き取る事は出来ないが、とても良いムードとは言えなかった。


「………なぜ、そうお思いに?」


「いやなに、ドラゴンの巣に行くと、騎士団の者どもの死体や旅人の死体のようなものが転がっておってなぁ………お主らは、騎士団はまだ来てないと言ってあったからのう」


 よく考えてみれば、単純な事であった。

 街の住民が、のちにすぐバレてしまうような嘘をついた事が良くなかったのだ。


 だが、いたって自分達が悪いわけではないと思っているモサカの住民達は、ルーシィの発言で気を悪くしている。


 ざわざわと、不愉快な不協和音が、ルーシィとローザンを包み込んでいた。



「おい君達、いくらなんでもその対応は失礼なのではないか?ルーシィ様は、君達の言う通りにドラゴンを討伐してきたのだぞ?」


 ローザンは耐えかねて、憤る。


 が、それを制したのは、ルーシィだった。


「よいよい。おそらく此奴らにも相応の理由があるのじゃろう。じゃが、ワシがドラゴンを討伐してきたのも事実。宴なぞ別になくて良いが、宿屋くらいには泊まらせてもらうぞ?」


 そう言って、ルーシィは宿屋の方へ歩いて行く。


 ルーシィが歩くと、道を塞いでいた民衆が避けて道ができた。

 ローザンも、それについて行く。




「ーーーーーちょっと待って下さい」



 と、今度は背中から声がかかった。


 その声を聞いて、2人は歩みを止めて振り向く。



「やはり、お話しておかなければなりません。このモサカの街の危機を救っていただいたのに、こんな無礼をしたままでお帰りいただくわけにはいきません」


 と、先程の男は言う。


「無礼?……なんじゃ、別に無理に話す必要はないぞ?特段ワシも興味はないからの」


「いえ、そういうわけにもいきません。少しの間だけですから、お時間を下さい」


「…………まぁ、そういうなら、別に良いが」


 ルーシィとローザンは、もう一度男の元へ戻る。



 男は仰々しく色を直し、正面に向き直った。


「………実を言うと、貴女方が王家の護る墓を荒らし、そこから逃げてきた人達である事は知っていたのです」


 その言葉に、流石のルーシィも目を丸くした。


「なんじゃ、知っておったのか………てっきり、ワシらを騙す方便として使っておるのかと思っておったわ」


「いえ、具体的に貴女方であるとは知らなかったんですが、格好の情報から、貴女方であるのだと推測いたしました」


「………そうか、確かにルーシィ様の格好は結構特徴的ですからね」


「そういうものか?」


 銀髪で赤い瞳の少女で、真っ白の清楚なワンピースを着ているとなると、一眼見たら間違えなさそうである。


「その上、墓から逃げた人間が、我々には到底太刀打ち出来ないほどの大魔術師であるという情報も入ってきていたので、貴女方がモサカに来てしまったので、いっそドラゴンを討伐してもらおうと考えたのです」


「………なるほど、最悪ワシがドラゴンに食われても、それならそれで報奨金が出るかもしれないというわけか」


「……………まぁ、端的に言えばそうなります」



 男は、気まずそうに俯いた。


 ローザンも、浮かない表情で何か言いたげである。


 が、ルーシィは特別表情を変えていなかった。



「そうか。まぁ、建設的な考えだと思うぞ。お主らが何人集まろうが、ワシには敵わないじゃろうからの」


 そう言って、豪快に笑った。


 歯を見せて胸を張って笑う姿は、とても住民に嵌められた人間のする姿とは思えなかった。


 ルーシィの笑い声が、暗く静まった群衆の中に吸い込まれて行く。



「…………ですが、私の考えは、先程変わりました。どうしても、貴女方が悪いお方々には見えないのです………!」


「そんな簡単に、考えを変えて良いのか?」


「分かりません。しかし、貴女は我々の危機を救って下さった上に、我々の行為を聞いても怒る事なく飄々としていらっしゃるではありませんか……!そんなお方を悪人だと決めつけるのは、あまりにも非道で………」


 男は、悔しそうに唇を噛み締めた。



「別にそこまでして考えを変える必要などないぞ?お主らが考えを変えたとて、何か変わるわけでもあるまい?」


 ルーシィが聞くと、俯いていた男は、顔を上げ、真摯な瞳でルーシィの事を見た。


「いや、我々にできる事はさせて戴きます!」


 そう言って、凛と胸を張って、


「皆の者!この者らを丁重にもてなすのだ!これは命令だ!宴の準備をするんだ!」


 と、大声をだして命令するのだった。




「ルーシィ様、良かったですね」


「あー………まぁ、そうじゃな。ずっと懐疑的に見られているよりかはずっと良い」


 ルーシィも少しだけ、笑っているようだった。

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