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第二話 魔法

「………えぇと、つまり、お主らの話はつまり、棺に眠るワシの胸に刺さった剣を引き抜いたら、ワシ突然紫の竜巻が出現し、ワシが復活したというわけじゃな?」


「ええ、そういう事です」


 少女は、サマディとローザンと向かい合って、3人揃って地べたに直接座っていた。


「それで目覚めてみれば、ワシの体が少女の体になってしまっていたと…………?」


 少女は、まるで髭を触るかの様に、顎に手をやって顎を撫でた。


「どういう事じゃ?」


「さ、さぁ……?」


 2人にも、訳がわからなかった。

 目の前の少女はどう考えても女の子なのに、自らは男なのだと言って聞かないのだから。


「しかし、この体は扱いづらい事この上ないのぉ。手足は短いし、髪も長いし………まぁ、腰が痛くないのは良かったがの」


 がっはっは!と、少女は大口を開けて笑う。

 胡座をかいて肘をつき、豪快に笑うその姿は、確かに少女のものとは思えなかった。


「あ、あの………それで、結局貴女は誰なんですか?」


 ローザンが聞く。


「ワシか?なんじゃ、ワシのことも知らんのか?全く、世間知らずもほどほどにしといたほうがいいと思うぞ?」


「いや、貴女のこと知ってる人の方が少ないと思いますよ……」


「何を言っておるんじゃ?ワシは、泣く子も黙る大賢者、アルラウス・ルーシィ様じゃぞ!」


 立ち上がって、勇ましい顔つきで胸を叩いた。



「…………誰ですか?ローザン先生は知ってますか?」


「さ、さぁ………」


 だが、少女の名乗りは、空振り。

 聞いていた2人は、ぽかんと口を開けていた。


「でもローザン先生?彼女、大賢者だって言ってますよ?もしかしたら目的の大賢者って………」


「何を言ってるんだ、そんな訳ないだろう?言い伝えでは、大賢者は男らしいし、それに、大賢者が吸血鬼などと……」


「おい、待て若造」


「わ、若造?」


「大賢者が男だというのは正しいが、ワシは最初から吸血鬼じゃそ?お主が如何様な言い伝えを聞いて来たかは知らぬが、ワシは隠した覚えはないぞ?」


「大賢者が男だと言うならば、やはり貴女は大賢者ではないじゃないですか?」


「ぐっ………じゃから!ワシは男じゃと!………いや、今は少女の姿になっているのじゃが………」


 少女は、もどかしそうに頭を掻いた。



「とりあえず、ここから出ましょう?こんな薄暗い所にいたんじゃ、気持ちも落ち込んじゃいますしね。ローザン先生も、良いですか?」


 ここで議論をしていても話が進まないと思ったのか、サマディがそう提案した。


「あ、ああ………そうだな、ここにはこれ以上無さそうだしね」


「ワシも異論はない」


「じゃあ、早速!」


 サマディは、このなんとも不気味な薄暗い空間に辟易していたのか、元気よく立ち上がった。


 いざ学院へ帰ろう!と、元気よくサマディが一歩を踏み出した瞬間。



「本当にここに人が入っていくのを見たんだな?」


「え、ええ……男と女が1人ずつ……」


「しかし、なぜここが空いている………?」


 何者からが、祭壇の階段を降りて来た。


 そして、階段から降りてくる人間の顔が露わになる。



「あ、貴女達は……!」


「なんじゃ?知り合いか?」


 サマディと、ローザンが慄いた。


 少女だけがぽかんとしていたが、しかし、この場合、ローザンとサマディの2人の反応が正しかった。


「………この辺境の地を治める騎士団の、団長さんですよ」



「お前らだな……?この禁断の地の入り口を開けたのは」


 騎士団長は、後ろに背負っていた大剣を抜き放ち、サマディとローザンの方へ突きつける。


「む………?棺を開けたのか、お前たちは……」


「え、あ、はい………」


 サマディがそう返事をすると、唐突に騎士団長は地面に剣を突き立てて、


「おいお前ら!こいつらを囲え!」


 そう叫ぶと、後ろから10人ほどの兵士がぞろぞろとこの狭い祭壇の空間の中に入ってきて、サマディ達を囲んだ。


 そして、その中の1人が、棺の元へ駆けつけて、中を覗く。



「棺の中に、何もありません!」


「何……?お前ら、まさかその中にあるはずの物を盗んだのか?」


「その中にある物って………物って言われても、何も入ってなかったですよ?物に限っては」


「何を言う……まあ、貴様らの話は、牢獄の中でしっかり聞こうではないか。その者らを捕らえよ!」


「「「「ハッ」」」」


 円形にサマディ達を囲っていた兵士達が、じりじりとにじり寄ってくる。

 それに押し込められる様に、ローザンとサマディは背中合わせで縮こまった。



 が、少女はただ1人、どっしりと構えていた。



「おい、騎士団長とやら。お主はあの棺に入っている物の内容を聞かされていたのか?」


「何を言う?その棺の中身を知る者はただ王族のみ。我々騎士団に課せられた使命は、この祭壇をお前たちの様な賊から守ることだけだ!」


「なるほどな………それなら、良いことを教えてやろう」


 少女は、不敵な笑みを浮かべる。


「あの棺に眠っていたのは、物ではなく、大賢者様の骸じゃ。じゃが、その大賢者様は、実は死んだおらんかったんじゃ」


「………なんの話をしているんだ?」


「じゃあ、察しの悪い若造にもわかる様に優しく教えてやろう」


 俯いている少女から、不敵な笑いが漏れ出る。

 堪えていた物が、爆発する寸前の様だった。


 そして少女は、顔を上げる。


 顔を上げた少女の口は三日月に歪み、その瞳は妖しく赤く光っていた。



「大賢者様をとらえるにはのう、この人数の兵士じゃ圧倒的に足りんと言うことじゃ!!」


 少女がそう叫ぶと、辺りに衝撃波が巻き起こる。


 少女の髪は逆立ち、少女の気迫が衝撃波となって辺りへと巻き起こった様だった。


 こぉぉぉ、と少女が深く息を吐く。


 少女は、手を魔力の球を捏ねる様に動かす。


 魔力の球から発せられるとんでもない乱気流には、その場で立つことすら容易ではなかった。



「そういえばワシはこの女子に、血を飲ませてもらった借りがあってのう………」


 少女が眼光を強めると、それに伴って魔力の球が一回り大きくなり、辺りに立ち込める暴風は、怒る様に吹き荒れる。


「その借りを返すまでは、気持ち悪くて寝付けんのじゃ」


 そう言って、少女は笑う。


 ふぅぅぅ、と、少女は再度、深く息を吐いた。



「ハァッ!!」



 少女は魔力の球を両腕で天井へぶん投げた。



 刹那、爆発にも、竜巻にも似た、この世のものとは思えぬ威力の魔力によって、天井はおろか、空に浮かぶ雲まで風穴が空いた。


 辺りを包む光は、人々の瞳には眩しすぎるほどで、渦中にいる少女の以外の人間は全て腕によって視界を覆った。


 そして、次に視力を働かせたときにはーーーーー



「…………いない?」



 先程までサマディ達がいた場所は、その周辺にクレーターが出来上がっているのみで、肝心の3人はどこにもいなくなっていた。



「………な、なんなんだ?今のは………」


 唯一立っていた騎士団長も、驚きのあまり膝から崩れ落ちる。


「………あれは、まさか……魔法?だが、あの威力は……」


 ありえない。その言葉は、口からついぞ出ることはなかった。


 目の当たりにしたのは、圧倒的なまでの力。

 それも、未知の、莫大なまでの魔力でゴリ押された、この時代にはありえないほどの大魔法。


 残された騎士団の人々は、暫く言葉を発することが出来なかった。

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