表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

第十六話 潜入作戦:魔法使い同士の戦闘

「………外でハナメがここの警備の者を駆逐してしまったようです」


 カサミカは、窓の外を見ながら言った。


「そのハナメを裏切ったのは誰じゃ?」


「まさか、裏切るだなんてそんなこと………」


 ルーシィはカサミカの返事を聞く前に飛び出した。


 右足だけ局所的に魔法をかけることによって、魔力を節約している。


「ハナメがミョウオンを憎んでおったのは、お主も知っておるじゃろう?」


 目と鼻の先にまで近づきルーシィの杖の宝玉が輝くと、一瞬にして火の玉が射出される!


「………」


 カサミカは、無言で受けた。


 後方へ吹っ飛んだかと思うと、今度はルーシィへ氷柱が数本飛んできた。


「ふん!」


 だがルーシィは、杖の一振りで全てを破壊した。


「………私にも、私なりの事情があるんですよ」


 部屋の奥から声が聞こえる。


 その声に耳を傾け――



 ――た時には、光を纏ったカサミカがルーシィに飛び込む。


 あまりのスピードに、ルーシィはなんとか横飛びをするのが精一杯であった。



「……っ!ぐぅ……!」


 カサミカのルーシィの脇腹を掠める。


 ルーシィは脇腹を押さえて、苦悶の表情を浮かべた。



「ワシが、切られた?」


 今日買ったばかりの女物の服に、血が滲む。



「………本当に、貴方にも効くんですね」


「………どう言うことじゃ」


「いえ、こちらの話です」


 カサミカは静かな足音でルーシィに近づく。


 と、暗がりでよく見えなかったカサミカの武器が月明かりに晒される。



「………!それは!」


 カサミカが右手に持っていた物は、剣。


 だがそれは、月光を銀に煌めかす美しい刀身の剣。


「それ、銀の剣じゃないですか!?なんで!?」


 思わずサマディもそう叫んだ。


「大方、彼奴と繋がっておるのじゃろう」


「………彼奴?」


「ほう、アルラウス様には全てお見通しなのですね」


 サマディだけが分かっていないようであったが、どうやら何者かがカサミカに銀の剣を渡したようであった。


「この銀の剣は、ただの銀の剣じゃないんですよ。これは、()()()()()()()()()()()()()()剣なんですよ?」


「………なるほどな、じゃから、掠めただけでこの威力か……」


 依然として、ルーシィの体からどくどくと血は流れている。

 元々白かったルーシィの顔色も、なんだか生気を失ったようだった。



「では、行きますね」


 カサミカが消える。


「後ろです」


 カサミカは横薙ぎに剣を振るう!


 が、間一髪の前転でルーシィは避ける。


「危ないのぅ……」


 振り向いたルーシィとカサミカが対峙すると、まるで睨みあいだけで攻防が繰り広げられているようだった。


「ふん!」


 ルーシィは光の球を杖の先に作り、吹き飛ばす!


 光の球はカサミカへ飛んでいくが、銀の剣の一振りによってかき消されてしまう。


「その程度ですか?」


 カサミカは間合いを詰めて、両手で持った銀の剣を何度も振りかざし、その度にルーシィは掠めるギリギリで避けていた。


 ルーシィの服も、所々切れてしまっている。


 ひゅうひゅうと風をも切る音が、ルーシィが劣勢であることを示していた。


「………くっ!」


 堪らずルーシィは魔法によって空に浮かび上がり、、カサミカから一気に距離を取った。


「アルラウス様。お逃げなさるのですか?」


 カサミカの挑発に、ルーシィは乗る気配はないが……


「………全く、馬鹿の一つ覚えのように銀の剣を振りかざしおって………」


 苛立ちを露わにして魔力消費の大きい飛行魔法を発動するルーシィには、焦りが見えていた。



「魔法使いならば、魔法勝負をしようではないか」


「魔法勝負ですか?」


 カサミカは、逡巡する。

 が、すぐに答えは出たようで、


「………いいでしょう。私は飛行魔法を使えませんからね。貴方の消耗を待つと言う手もありますが、こちらから仕掛けさせていただきましょう」


 と、静かな微笑みを浮かべながらそう言った。


 そしてカサミカは、言ったそばから両手を前に構えて力を込める。手のひらに、魔力を集めているようだった。


 光は集められ、やがて魔力は無数の氷柱となってルーシィに対した。


「突き刺され!」


 カサミカが叫ぶと、一斉にルーシィに吸い込まれるように飛んでゆく。


 ルーシィはそれを全て、杖で攻撃して割っていった。


 氷柱が飛んできては割り、飛んできては割り。

 カサミカが氷柱を矢継ぎ早に繰り出すために、ルーシィが休む暇はなかった。


 と、途中で氷柱の供給は止まる。


「………流石ですね。しかし、一度も攻撃してこないのでは、私を倒す事など出来ませんよ?」


「はぁ、はぁ……分かっておるわそんな事……はぁ、はぁ」


 ルーシィの息も絶え絶えで、憔悴している。


 そんな時、ルーシィは小さな火の玉をカサミカに飛ばした。



「………なんですか?こんな小さな火の玉」


 カサミカはふい、と軽く手でいなした。


「………それは、ハナメがワシに最初に会った時に撃ってきおった初級魔法じゃ。教えたのは、お主か?」


「そうですが、何か?」


「………なんのために魔法など教えた?ハナメが普通に生活するには、必要のないものであろう?」


「………それは」


 カサミカは言おうとして、辞めた。

 だが、口は言おうとした時のまま、中途半端な形で止まっていた。


 カサミカは諦めたような表情で、ふぅ、と息を吐く。


「………あの子には、せめてもの自衛の方法を教えておきたかったんです」


「なぜじゃ?」


「………それは、言えません」


「なるほど。なるほどな。そこから先は言えぬか」


 ルーシィはそれだけ言うと、少しの間押し黙った。

 そして数秒後、では、と切り出す。


「お主を、倒してでも………話を、聞かねば……」


 ぶつ切りの言葉を口から吐き出しながら、ルーシィの瞳から色が失われていった。


 そして、落ちる。



「る、ルーシィちゃん!?」


 どさ、とルーシィの軽い体が地面に落ちた瞬間に、それまで静観していたサマディはルーシィの元に駆け寄ってきた。


 カサミカも、それを攻撃する事はなかった。



「ルーシィちゃん、ルーシィちゃん!?」


 サマディはルーシィの体を少しだけ起こして、必死に呼びかける。

 と、それが功を奏したのかそうでないのか、ルーシィは重そうに瞼を上げた。


「すまん、血を……血をくれんか?」


「血ですか!?はい、はいどうぞ!」


 サマディは迷わず肩を晒した。


 ルーシィはそれに、ゆっくりを口をつける。



「いたっ……うぅ、今回は麻酔みたいなの、無いんですね?」


 ルーシィがサマディの肩に噛み付いている間、カサミカは余裕の表情でそれを見守っていた。


 たとえ血を吸った所でルーシィには勝てない事を分かっているかのような表情であった。


 ルーシィは長い間、サマディの肩にへばりついている。



「き、今日は長いですね……」


 サマディとしても、血を吸われ切っては倒れてしまって迷惑をかけてしまうからなるべく倒れないように踏ん張りながら。


 と、ルーシィはぷはぁ、とサマディ肩から口を離した。


「………すまないサマディ。もうよいぞ?」


「あえ?……長い事吸ってたのに―――」


 ルーシィはサマディの事をどかすように押し飛ばした。


 そしてルーシィは、立ち上がってもう一度カサミカに相対する。


「もういいのですか?私としても、全盛期の頃のアルラウス様の様な強いお方と、戦ってみたい思いがありますが……」


「すまないな、カサミカ。ワシ自身も力の衰えに驚愕しておるのじゃよ。じゃから、お主が応えてくれると信じて、提案があるのじゃ」


「なんですか?」


 カサミカはなんとも言えない表情で聞く。



「お主の全力と、ワシの全力をぶつけ合って欲しいのじゃよ。それしか、今のワシに勝つ方法はない」


「………本気1発勝負という事ですか?」


「そうじゃ」


「………それは私に応える利点は全く無いのでは?」


「そうじゃな。じゃが、お主も分かっておると思うが、勝つ確率はお主の方が圧倒的に高い。そして、本気勝負をしてワシに勝ったとなれば、お主はあの偉大な大賢者を超えた事になる」


「偉大だと、今の姿でも言えるんですか?」


「………ふん、確かにな。じゃが、ワシが大賢者であるという事は、()()()()()()()()()()()()()()


「そうですね。そこに確証はあります」


「では、受けても良いのでは無いか?」


 ルーシィがあくまでも大賢者として、図々しくも頼む。

 カサミカはいつ頃からか困ったような顔をしていたが――



 ――その表情は少し柔らかくなり、カサミカは頷いた。



「いいでしょう。もし貴方に勝てば、()()()()()()()()()()()()


「ふん……分かったか」


 ルーシィも少しだけニヤついた。



「では、私、本気で行きますからね」


「うむ、手加減なしで来い」


 カサミカは地面に置いてあった銀の剣を拾い、ルーシィに向かって構えた。


 そしてルーシィといえば、自分の杖の先端を、地面に差し込んで突っ立てている。



「………武器を置いても、大丈夫なんですか?」


「人の心配をするより、その一撃が完璧になるように精々気を練るんじゃな」


 ルーシィは地面に突き刺した杖に向かって両手を翳し、目を瞑って集中している。


 カサミカが目を鋭くしてルーシィを見つめていると、部屋の中が静寂に包まれる。


 カサミカの背中から差し込む月明かりがカサミカの影を伸ばし、今にもルーシィの元に届きそうであった。



 ちゃき、とカサミカが剣を構え直す。



「行きます」



 一瞬の静寂。


 その後遅れて訪れる爆発音。


 カサミカが全身に付与魔法をかけて地面を蹴った音だった。



 間合いは瞬きの間に詰められる。


 その刹那、カサミカが剣を振り上げた時。



 ルーシィは開眼し、()()()()()()()()()()()を解放し、全力で()()()()()()



 カサミカは容赦なく剣を叩き込む。



 ルーシィの張った防壁は、一撃の元に粉砕され、剣は勢いそのままルーシィの脳天目掛けて振り下ろされる――



「【錬金】」



 気づけば、決着が着くまでに数秒といらなかった。



「ぐ、はぁぁッ……….」



 血を吐き出したは、カサミカだった。


 カサミカの背中は、()()()によって突き破られ、その剣はルーシィの手の中にあった。


 カサミカの剣が、からん、と転がって、ルーシィは銀の剣ごとカサミカを押し飛ばした。


 と、ルーシィの持っていた銀の剣は、光の粒子となって消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ