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第十五話 潜入作戦:邸宅内

 少し離れた所で、大きな爆発音がしている。


 もくもくと煙が上がっているのを見て、まるで狼煙のようだとサマディは思った。


「あっちは大丈夫ですかね?」


「大丈夫だと、信じるしかないじゃろう」


 2人は今、邸宅の裏側の窓辺に来ていた。

 もちろん、潜入するためである。


「あれだけ玄関で派手にやってくれたんじゃ。生きてようがいまいが、中の警備は手薄になっているじゃろう」


「え、えぇ?ローザン先生達、死んじゃってるかもしれないってことですか?」


「たとえそうだとしても、ワシらは今成すべき事を成すべきだということじゃ」


 ルーシィはそう言って、窓ガラスの一枚を杖の先で叩く。


 と、中々の大きな音を立ててガラスが割れた。


「よし、入るぞ?」


「は、はい!」


 なるべく手を怪我しないように気をつけながらも、窓のさんに手を置いて邸宅の中に入る。



 中は、割と暗かった。


 ミョウオンの要望なのだろうか、それとも侵入者に対しての警戒心が薄いのか、屋敷の中の廊下は全て光が灯されていない。


 が、廊下中にある窓のお陰で、月明かりだけは差し込んでいた。



「良かった、中には誰もいないみたいですよ?」


「恐らく、突然の侵入者に混乱して、外のハナメ達に全員が行ってしまったんじゃろう」


「尚更、大丈夫ですかね?」


「まぁ、上手くやってくれれば、ワシの作った爆弾で大体の人間は殺せる」


「こ、怖ぁ……」


 ヒソヒソと話しながら、体勢を低くして歩く。


 窓に差し込む月明かりに照らされるたびに、心臓の鼓動が少しだけ速くなる。


「さて、部屋を探さなくてはいけないが………」


 適当に廊下を歩いた来たが、どれも同じような部屋ばかりで、一つ一つ検問しているんじゃキリがなかった。


 第一、屋敷全体が広すぎて、今ルーシィ達がいる区画にミョウオンの部屋があるのかもわからない。


「しらみ潰しで行くんじゃ、どうやっても見つからなさそうですよ?」


「そうじゃな………あまりにも広すぎる」


「まだ魔力探知はできないんですか?」


「あぁ……この辺りの魔力も乱されておるな……まるで、魔力探知される事を見越しているようじゃ」


「え……?てことは、ルーシィちゃんが来ることがあらかじめ分かってたってことですか?」


「………それも考えられるな。でなければ、魔法使いなど王国直属の部隊しかいない様なこの時代に、わざわざ大掛かりな魔力ジャミングを行う必要などないからな」


「そ、そんな………」


 ルーシィの事を知る者。その者により、ルーシィに対しての対策は取られている様だった。



 そんな時。


 箒で地面を掃くような音が聞こえた。



「………だよ……じで……ソが……」



「だ、誰かいますよ!」


 咄嗟に、ルーシィとサマディは壁際に隠れる。


 丁度曲がり角の先、広間のようになっている空間で、誰かが箒を掃いている様だった。



「………んだ………ねよ……スが………」



「何か、ぶつぶつ言ってますよ………?」


 耳をすませてみるが、よく聞こえない。

 暗がりでどんな格好をしている誰かさえも、よく分からなかった。


 どちらにせよ、誰にも会わない様に行った方がいい事は、分かっていた。


「どうしますか?避けて行きますか?」


 しかし、サマディがルーシィの方を見ると、避けて行くような顔には見えなかった。


「いや、これはチャンスじゃろう。あの者に、ミョウオンの居場所を聞こうではないか」


「え、えぇ?大丈夫なんですか?」


「大丈夫じゃ。ここにおるような警備の者に、遅れをとる様な大賢者ではない」


「な、なるほど………」


 ルーシィはそう言うと、素早い動きで飛び出した。

 どうやら、体全体に薄く魔力を通している様だった。


 広間へと続く道。

 その道の壁を蹴って空を舞い、音もなく近づく。


 着地の瞬間すら無音で事を済ませると、長い杖の宝玉をその者の頭につけた。


「………死にたくなければ、ワシの質問に答えろ」


「ひぃっ!?だ、誰だ!」


「うるさい!騒ぐんじゃないぞ……騒げば、お主の口を頭ごと塞いでやる」


「な、なんだよ、それ………」


 よく見ると、箒で館内を掃除していたメイドの様だった。


 メイドは持っていた箒を捨てて、手を宙ぶらりんの状態にした。



「………ミョウオンの居場所を言え」


「お、お前、外にいる奴の仲間かよ!?」


「お主の質問に答える義理はない。さぁ、言え!」


「ん……?その声、その喋り方……まさか!」


 メイドは、何かに気づいた様だった。


 手を宙ぶらりんの状態にさせたまま、重々しい動きで首を捻って後ろを見る。


 と、ルーシィはメイドと目があった。


「………?お主、どこかで見た様な……」


 すると、ルーシィの一瞬の隙をついて、メイドの方はオーバー気味に飛びのいた。


「お前!やっぱり、武器屋で会ったクソガキ!」


「武器屋で会った………?あ、お主まさか、あの時の大男か?」


「テメェ……どのツラ下げてここに来たんだよ!」


 メイド服に身を包んだ女性は、どうやら今日の昼に武器屋で会った元青男、現メイドであったのだ。



「へぇ、お主、メイドになったのか。いい趣味をしておるではないか」


「好きでなったわけねぇだろうが!テメェのせいだよ!テメェが女なんかにするから、ここの警備から降ろされたんだよ!」


「女なんかって言うのは、聞き捨てならんな。まるで女ならば皆弱いみたいな言い方をするではないか。お主を女に変えたのは誰じゃ?」


「う、うるせぇ!そんな事はどうでもいいんだよ!」


 メイドは震える細い両腕で、必死に箒を構えている。

 大斧を軽々振り回すあの男の面影はどこにもなかった。



「戻せよ、男に戻せって!」


 メイドの要望は、ただ1つ。男に戻して欲しいということだけだった。


 そのお願いを聞き遂げたルーシィは、また何時ぞやかの様な悪い笑みを浮かべる。


「………どうやら、お願いする立場だという事を忘れておるのではないか?」


「は、はぁ?」


「今の物言いは、どうしてもお願いする立場の人間の台詞とは思えんがのう………どうじゃ?」


 ルーシィがそう言うと、メイドは顔を真っ赤にした。

 だが、それ以上何かを言うと自分に対して不利益しかないと思ったのか、唇をかみしめて息を荒くしていた。


「………なにすりゃいいんだよ」


「おお、思ったより物分かりが良いのじゃな」


「うるせぇよ!早く言え!」


「そう焦るな………取引をしようじゃないか」


「と、取引?」


「そうじゃ。お主も、ワシが先程聞いた事を覚えておるじゃろう?」


「………ミョウオン様の、居場所だろ?」


「分かっておるではないか。お主の今言った通りじゃ。教えてくれると助かるんじゃが………」


 そう言うと、メイドは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 が、そんな表情もすぐに引っ込んだ。


「………案内したら、オレを男に戻してくれるんだな?」


「………ん?ああ、まぁそうじゃな」


 メイドは、箒の構えを解いた。


 その上で、やれやれ、というような表情をした。


「分かった。案内してやるよ」


「………?やけにあっさりじゃな」


「あー………いや、オレもあのミョウオン様とやらには、辟易していたところなんだよ」


 メイドの発言は、とても信じるに値しないようなものであった。

 しかし、それを信じることによってミョウオンの元に辿り着ける可能性が少しでもあるならば、信じる価値はあった。


「ふむ、そんなものか。まぁ、連れて行ってくれると言うのならば、お主を信じるしかないじゃろうな」


 メイドは身を翻して歩き出した。

 一応、ルーシィも杖の先をメイドの頭に合わせながら、それについて行く。


 と、後ろから小走りでサマディが飛び出してついて来た。



「ちょ、ちょっと!ルーシィちゃん大丈夫なんですか?」


「ん?何がじゃ?」


「こんな奴について行ってですよ!」


「あぁ……まぁ、大丈夫じゃろう。ここで嘘をつくって事はミョウオンを庇っているようなものじゃ。逆にここでミョウオンの居場所を教えれば自分を庇っているようなもの。どちらを取るかは半々といったところじゃな」


「えぇ……半分の確率で騙されるんですかぁ……?」


「………いや、騙される確率は、もっと低いじゃろう。まぁ、その理由も含めて、後にすぐ分かる」


「そ、そんなものなんですか………?」


 不安になりながらも、サマディ達は暗がりの邸宅を歩いて行く。



 ☆☆☆☆☆



 どれくらい歩いただろうか。

 張り付くような緊張感のせいで落ち着かないからか、サマディには何時間も時が経ったようにすら思えた。


 だが、そんな長い時は終わりを迎える。



「ほら、着いたぞ?」


 メイドは歩みを止め、廊下の突き当たりにある大きな扉を指さして言った。


 どこまで歩いてきたのかはよく分からないが、『いかにも大事な場所』と言いたげな扉だった。



「ナビゲート、ありがとうな。では、これで――」


「って、おいおい。ここまで来させといて、約束はおじゃんかよ?」


 ルーシィが扉の先に行こうとすると、メイドが眉を顰めて聞く。


「………約束、破ってもいいんじゃぞ?お主を片手間に倒せるほどには、力の差があるからの」


「はぁ?ま、そう言われちゃおしまいだが……どうせそんな気はさらさらないんだろ?」


「………敵に対して、なんとも寛容ではないか?」


「ふん、どうせ何やっても男に戻れないなら、お前に頼る以外道はねぇんだよ」


「そうか………たしかに、それもそうじゃな」


 メイドに言われて、ルーシィは真剣な表情というよりも少し柔らかい表情をしていた。


 真意の程は分からないが、恐らく悪感情が彼女の中に渦巻いているようではなかった。



「………まぁ、戻してやるさ。どうせここでミョウオンを殺せば、お主の後ろ盾など無くなるんじゃからな」


「そうかよ。じゃあ、さっさと戻してくれ」


「そう焦るな。じゃが、ここで戻してしまっては、大男になって暴れ出されては面倒じゃ。ほれ」


 ルーシィは喋りながら目を瞑る。

 そして光の粒子を指先に集めたかと思うと、さらさらと何か文字を書き出した。


 ルーシィは書いた文字を、弾くようにしてメイドに当てる。



「お主首元に、男に戻るための術式を彫り込んでやった。流石にここまでやれば、その辺にいるかもしれないレベルの魔術師でも男に戻せよう」


 ルーシィはそう言って、にこっと笑った。


 だが、その笑みの表情を浮かべたのは、ルーシィだけじゃなかった。



「へっ!かかったな!!」


 口の両端を吊り上げて歯を剥き出しにして笑顔の表情を露わにしたのは、他でもない、メイドだった。


 メイドはあろうことか、ルーシィ達に背を見せて駆け出し、大扉に向かって一直線。


 苦悶の表情を浮かべながらなんとか扉を開けると。


 そこには大きなシャンデリアのぶら下がる、高貴な様相の部屋があった。



「先生、先生!助けてください、侵入者です!」


 メイドは、大声で叫びながら部屋の中へ向かう。


 慌てて、ルーシィ達も駆け込んだ。


 と、メイドは部屋の奥の方へ向かっていく。


 部屋の奥の方に何があるのか、ルーシィ達の場所からは見えない。



「先生!こんなところにいらしてたんですか!?あの、まずオレのこの首元に書いてある術式で、男に戻してください!」


 メイドがその先生とやらに頼んでいるのを聞く限り、その先生とやらは件の魔法使いであることが容易に察せられた。


 だが、そんな事を見越していないほど、馬鹿なルーシィではない。


「ふむ、その術式とやらは、何処にあるのかい?」


「え?こ、ここに………って、ない!?」


「まぁ、お主のような下賤な人間が考えることなどワシにとっては手に取るようにわかるからのぅ……あらかじめ、ワシが回収出来るようにしておいたのじゃ」


「は、はぁ!?」


 メイドの顔はよく見えないが、顔を真っ赤にして暴れそうになっているのは、簡単に想像ができた。


「おやおや、君はまた客人にからかわれてしまったようだね……まぁ、君の仇は私がとるから、安心しておいてくれ給え」


「せ、先生……!」


「おい、ワシらは何を聞かされておるんじゃ?そこにおるなら、先生とやらもさっさと姿を現さんかい?」


「いえいえ、申し訳ございません。こちら側の不手際で、お客様を不快な思いさせてしまいました」


「全くじゃ。出来ることなら、お主が顔を出して謝罪して欲しいものじゃな……」


「確かに、そうですね……では、今そちらに行きますね?」


 ガサゴソと、先生が動いた音がする。

 どうやら立ち上がって、ルーシィ達の元へ近づいてきているようだった。


「お主に聞きたいんじゃが、本当にここにミョウオンはいるのか?」


「いいえ。ここにはミョウオン様はおりません」


「やはりな。まあよい。お主を倒して聞けば――」


 ルーシィの言葉は、そこで遮られた。


 勿論、物理的遮られたわけではない。


 先生と言われる男が奥から現れた時に、ルーシィの言葉は自然と止めざるを得なくなったのだ。



「そんな事、可能でしょうか?()()()()()()()()()()()?」


「お、お主は………!」


 月影に照らされる、薄灰色の髪。

 色白の、幸薄そうな顔立ち。


 どれをとっても、見覚えのある容貌だった。



「………ハナメとの話を、聞いておったからワシがここに来ることが分かったのか?」


「そうですね。そうなります」


「………なるほど。つまり、ずっとハナメのことを騙しておったんじゃな、お主は」


 ルーシィから、表情が消える。


 色を失った純白の肌が、吸血鬼特有の紅眼を強調している。



「………ワシはお主を殺してでも先に行く必要が出来たな」


 ルーシィの紅眼は、真っ直ぐ突き刺すように対した。


「……カサミカ!」

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