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第十四話 潜入作戦:玄関前

辺りが闇に包まれ、重たい空気が肌に纏わりつくような夜中。

ルーシィ達は、草むらに隠れて様子を伺っていた。


「大きいですね……これ全部ミョウオンとかいう貴族の所有してる土地なんですか?」


「そうだ。だけど、これだけ広いせいでどこにミョウオンがいるかわからないんだ」


「あれ?ルーシィちゃんの力で、魔力を探知しちゃえばいいんじゃないですか?」


「いや、ワシもやっては見たが………向こう側にも魔法使いがおるようでな。上手く魔力を乱されておるのじゃ」


「な、なるほど………」


恐らくこの邸宅の中にいる魔法使いの数は1人だろうが、その1人は相当な手練れのようだった。


「出来る事なら会いたくないの」


「だけど、多分ミョウオンの護衛をしてるんだろう?確実に戦うことになりそうだな」


「あぁ。だから、なるべくその魔法使いのみに焦点を当てたいのじゃ。協力してくれるな?」


「もちろん。元はと言えば、アタシがお前達に協力してもらおうとしてたんだからな」


「すまない。では、サマディはワシと、ローザンはハナメと組んで作戦決行といこう」


「了解です!」


サマディが元気よく返事をした。


そして、2人1組になって、ばらばらの場所へ向かう。



☆☆☆☆☆



「あー、だりぃなー……なんで夜まで警備しなきゃいけないんだ?今更叛逆を企てるような奴なんていねぇだろ?」


「それでも仕方ないさ。『アイツ』らみたいに、()()()()()()()ような輩にであってしまったらおしまいだからな」


「はは、ちげぇねぇ」


男達は、2人で門の柱によりかかって座っている。


どちらも格好は似たように布のローブを被っていて、腰には長剣を帯刀していた。


いつもと同じように、誰も来ることのない平和に胡座を描くように、夜中の睡魔に微睡む2人。


平和な夜の最大の敵は、睡魔だった。


「ふぁ……ったく、ねみぃ……」


「本当だ……早いとこ夜が明けてくれればいいが……」


男の1人が欠伸をして、目に涙を溜めた時。



ヒュルルルルル………



風を切って何かが飛んでくる音。


そしてそれが途切れたと思うと―――



―――爆発音。



「うわぁぁっ!?な、なんだ!?」


男達の目の先には、もくもくと煙が立ち上る。


「て、敵襲ー!敵襲ー!」


「ちょっと待て!?あそこ、誰かいないか!?」


煙が徐々に消えていく。


そしてそこから現れたのは、1人の人影。


「だ、誰だ!?」


「……ナンだよ?誰かに名前を聞くときは、まず自分からだろ?」


人影は、両手を広げて大の字で立っている。


広げられた両手には、小さな火の玉が2つ。


「さっきのルーシィ特製爆弾には遠く及ばないが……くらえ!」


ハナメは火の玉を振りかぶって、投げる!


小さな火の玉でも、十分な火力。

ローブの男達2人に当たると、ローブが燃え上がる。


「熱!?熱ぅっ!?」


「燃え、燃えてる!?」


「はっはっは!!愉快愉快!」


ハナメは腰に手を当てて喜ぶが。


正面玄関の大きなドアが開いたと思うと、中から何人もの剣士が押し出されるように飛び出して来た。


「ハナメ!前、前ー!」


「うん?……やば、やばぁぁい!」


「「「「うぉぉぉぉお!!!」」」」


ドタドタと男達がけたたましい雄叫びと共に一目散にハナメ目掛けて走って来る。


それを見たハナメが一瞬目を瞑ったと思うと、両足が魔力によって光らされる。


「ついて来れるならついて来い!」


ハナメは振り返って一歩を踏み出す―――



―――と、一瞬にして数メートルの距離を空ける。


その一歩が二歩、三歩と続けば、その数メートルが数十メートルへと長くなっていく。


「な、なんだよアイツ……!」「早すぎる!」


狼狽える兵士たち。だが、追うのは辞めない。


十数人の男達が、ミョウオンの邸宅の玄関前の直線を走る。

ハナメには永遠に追いつくことのない、いたちごっこだが……


不意に、その道の途中にコロコロと小さな球が転がる。



「あ?なんだ、コレ?」「球?なんでこんなとこに?」


十数人の内先頭が止まって、一瞥。


その刹那。



「さようなら、皆さん」


ローザンの声と共に、爆発。



と、草むらからローザンが出てくる。


「……ルーシィ様が作られた爆弾、ちょっと強すぎやしないかな?」


立ち上る煙は、大きな邸宅の最上階よりも高く立ち上った。


そこへ、ハナメが戻ってきた。


「ローザン、ちょっとやりすぎナンじゃ?」


「………いや、ワタシがやったわけじゃないんだけど……」


「………強すぎるよな」


「………ああ。ちょっと強すぎるような……」




「うぉぉぉお!!」



「危ない!?」


煙の中から、残党が1人、剣を振りかぶってローザンへかかる!


ハナメは魔力のこもった右足を踏み込み、ローザンを間一髪で引っ張って飛び退く。


ぐるんと回って草むらに飛び込むと、体を強く打ち付けながら転がる。


「ローザンはここで待ってろ!」


だがハナメは飛び起きて、真っ直ぐ残党へ向かう。


草むらから道に出ると、残党が剣を構えて待っていた。


「律儀に待ちやがって……」


「てめぇら侵入者を排除するなら、真っ直ぐ立ち向かっても負けやしねぇよ」


「黙れ!」


ハナメは腰には帯びていた短剣を引き抜いて振る。


一気に間合いを詰めて放った一撃は、軽く後ろに飛んで躱される。


「ふん!」


と、張り切ってガラ空きになった脇腹へ、残党の長剣が振りかざされ、ぎりぎりを掠めた。


「うぐっ!」


よろけながら、再度間を詰めて、回し蹴り――


――も、外れる。


「ふん、弱いな」


残党はすっかり余裕と分かったのか、長剣を使う事なく単なる蹴りを傷ついた脇腹に叩き込む。


「ぐ、ぁあッ!?」


流石のハナメも、痛みで転がる。


「は、ハナメ!?」


草むらからローザンが駆け寄った。


「ハナメ、逃げよう!別に1人ならルーシィ様の方に行っても倒してくれる!」


ローザンの言い分ももっともだった。


ルーシィから伝えられた作戦とは単純なもので、2人で派手に玄関で暴れて、陽動してくれという話だった。


その陽動の裏でルーシィとサマディが2人で潜入する。

その手筈なのだ。


だから、流石にもうルーシィは潜入しているだろうから、ハナメがここで躍起になる必要はない。


しかし、ハナメは言う事を聞きそうになかった。


「うるさい、下がってろ、よ……」


震える腕でなんとかハナメは起き上がる。


「お?なんだ?まだやんのか?」


一方で残党の方は余裕そうだ。

何人もの仲間の屍の横を素通りして来ている。


「黙れ、アタシも本気で、行くからな!」


ハナメは、両手両足に魔力を貯めたのか、拳と足が淡い光に包まれた。


「すごい、そんな魔法も使えたのか……」


「行くぞ!」


ハナメはもう一度踏み込むと、先程とは比べ物にならないスピードで間合いを詰める。


と、光る拳でぶん殴る!


「うがぁっ!?」


咄嗟のことで避けることのできなかった残党は、もろに顔にパンチを喰らう。


「まだまだぁ!」


吹き飛んだ残党が宙に浮いている間に真下に入り込み、蹴り上げ。


そして高く跳躍し、地に叩きつける。



「燃えろ!」


ハナメは空に浮いた状態のまま、右手を突き出し小さな火の玉を作り出す。


現れた火の玉は、吸い込まれるように残党の方へ飛んでいく。



「ぐわぁぁっ!?あちぃぃ!?」


来ていた服が燃え、地面を転がるように悶え出したかと思うと。

いつのまにか息絶えた。



「ふぁ……かっ、た……」


と、ハナメは安堵からか、空から降って来た。


「は、ハナメ!?」


ハナメの落下地点に、ローザンは急いで駆け寄った。


「大丈夫かい、ハナメ!?」


「へへ……魔力、切れた……」


ハナメはローザンの顔を見ると、笑ってそう答えた。


どうやら、連続して使用した火の魔法と、両手両足に対する付与魔法エンチャントのせいで未熟なハナメの魔力は尽きてしまったようだった。


ハナメは、呑気な顔をして眠っている。


「はは……ありがとうね、守ってくれて」


眠るハナメに、ローザンは感謝を伝える。

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