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第十二話 買い物

 サマディと共に服屋に入ると、中は程々に服がある程度であった。


「これがこの時代の服か……やはり、ワシの知っている物とは全く違うんじゃな」


「それはそうですよ。でも、そこまで変わってないでしょう、見た目的には?」


「まぁ、たしかにそうじゃな。見ただけで服と分かるくらいじゃから、そうそう変わってはおらんのじゃろうな」


「そうなんですよ。でも、繊維が最新の機織り魔法によって作られた魔力入りの繊維なんですよ」


「はぁ……なるほどな。恐らく、ワシの想像もつかん様な魔法なんじゃろうな」


「ルーシィちゃんも分からないんですか?」


「ワシの研究していた魔法のメインは対魔物魔法じゃ。その上、数千年も未来の魔法なぞ、複雑化しすぎているのではないじゃろうか?」


「そういうものなんですかね?」


 ふーん、とサマディは適当な相槌を打った。



「ていうか、はぐらかそうとしてもダメですよ?これからルーシィちゃんもこれ着るんですから」


「………やっぱり?」


「当たり前ですよ?そんな真っ白なワンピースをここまでずっと着てきて、今更女の子の服を着たくないなんて言うんじゃないですよね?」


「えっと、いや、その………嫌です、はい」


「でも、目立っちゃいますよ?」


「うっ……たしかに、それはそうなんじゃが……」


「じゃあ決まり!………はい、このコーディネートで!」


「え?全身あるのか?」


 サマディは押し付ける様に、服とブーツをルーシィに渡した。


「ほら、あそこで着てきて下さい!」


「う、うぅん……」


 渋々ルーシィは試着室に入っていく。



 〜〜〜〜〜



「ルーシィちゃん?もうそろそろ開けてもいいですか?」


「いや、うーん、いい、のか?」


「開けますね?」


「あ、ちょ―――」


 カーテンを開けると、中で赤くした頬と丸くした瞳で驚いた様な表情を見せるルーシィがいた。



「あ、あのぅ、これなんか、結構露出が………」


 ルーシィの着ていた服は、長袖ではあるものの肩は露出しており、スカートは太腿の中腹くらいまでしか無い。


 また、そのルーシィの細足を、膝くらいまであるようなブーツが覆っている。



「あ、あの?サマディさん?」


「―――うん、可愛い!すっごい可愛いです!」


「あ、え?」


「やっぱり、素の見た目が可愛いとこんなに似合うんですね!女の子の私が嫉妬しちゃいそうです!」


「そ、それって喜ぶべきなのか?」


「分かんないです!でも、可愛いです!」


「えっと、可愛さよりも機能性を………」


「すいませーん!これこのまま着て行っていいですか!?」


「あ、あのぅ………話を………」


 サマディは走って会計へ向かう。


 正に、押し付け。可愛いという言葉も、女の子女の子したような服装も、完全に押し付け。


 だけど、何故だか言い返せないし突っ返さない。そんな語気の強さがあって、ルーシィは完全にねじ込まれたのだ。


「こ、これじゃあ変態ジジイじゃよな………」


 ルーシィは自分の体を見る。


 背は縮み髪は伸び、手足はしなやかに伸びて、胸は慎ましやかにその存在を主張している。


 なんの因果でこんな体になってしまったのか。

 魔力がある程度抜けて幼くなってしまったのだろうが………少女になってしまったのは説明がつかない。


 だから、恐らく。

 人の作為によって、こうなってしまった。


 その人間とは、もうすでに分かっていた。


 全ての元凶の、ルーシィの妻である。




「ルーシィちゃん?何を考え込んでるんです?」


「あ、あぁ、すまない。少しだけ、別の事を……」


「さ、行きますよ?ハナメちゃんと、ローザン先生を待たせてますからね」


「やっぱり、ワシはこの格好で外に出るのか………?」


「ルーシィちゃんは多分、自分の事を変態おじいちゃんとか思ってるかもしれないですけど、外から見たらただの美少女にしか見えないですよ!」


「そ、そういうものか?」


「………逆に目立っちゃうかもしれないですけど」


「意味ないじゃろうがそれじゃぁ……」


 ルーシィの言うことなど殆ど聞いてないようなサマディに、(なんか扱いに慣れておるな)と思うルーシィであった。



 ☆☆☆☆☆



「ハナメちゃん、ローザン先生!お待たせしました、新生ルーシィちゃんです!」


「ど、どうも」


 ルーシィはスカートを抑えながら、恥ずかしそうに俯いている。



「ナンだよ、可愛いじゃねえか」


「ルーシィ様。大変お似合いです」


「え、えぇ………うぅん、喜ぶべきなのか否か………」


 大変うんざりしているようだった。



「2人は何を見ていたんですか?」


「アタシは、この短剣と対になる短剣を探していたんだ」


「対になる短剣?」


「二刀流ということかの?」


「そういうこと」


 ハナメはここで買ったと思われるような短剣を片手で投げながら話していた。



「ワシも何か、杖のようなものがあると良いが……」


「杖を使うんですか?使わなくても良さそうなのに」


「いや、何かを触媒にして魔法を発動すれば、魔力効率が上がる上に魔力の消耗も減るんじゃ」


「昔も使ってたんですか?杖」


「使っておらんかったなぁ。ある程度研究を進めて行ってからはなくても尽きないほどの魔力を持ってたからのう。まぁ、途中までは使っておったがな」


 ルーシィは言いながら、武器屋の店の中を見回る。


 やはり、魔法が禁止されているだけあって、置いてあるものは斧や剣、弓など、物理攻撃のものばかりであった。


 魔法が使えないならば、杖を使う必要などない。



 と、ルーシィが歩いていると、1つ、とある物を見つけた。


「なんじゃ、これ?」


 1つだけ、店の端っこに立てかけてある。



「おい店の者、誰かおらんか?」


 サマディが声をかけると、店の奥からゆっくりと店主が出てくる。


「はい……何か、お困りでしょうか……?」


 奥から出てきたのは、腰の折れ曲がった、ヨボヨボの老人だった。


「お主がこの店の店主か?」


「はい、左様で御座います」


 ゆっくりと確かめるような足取りで、ルーシィの元へやってくる。


「これ、売り物かの?」


 ルーシィは、使い古されて全く使い物にならなさそうなボロの棒切れを指差して聞く。


「はい、売り物ですが………恐らく、いつかの杖かと思しき物なのですが、誰が使ってもただの棒としての機能しか果たさないのです……」


「なるほどな……」


 ルーシィは、顎に手を当てて悩む素振りをする。


「よし、これを―――」




「おい!ここの店主はいるか!?」



 突然、来客。


 入って来たのは顔に傷のある大男と、その手下と思われる男達が数人。


「はい、ただいまそちらへ……」


「なんじゃ?まだワシとの会話は終わっておらんぞ?」


「いえ、ですが………」



「早く来いよ!誰のおかげでお前らが平和に………って、あん?なんだ嬢ちゃん?その目はまさか、オレらに楯突こうってか?」


「いや、そんなつもりはないんじゃがな。ただ、順番待ちも出来んようなお子ちゃまに、年甲斐もなく不快感を露わにしておっただけじゃよ」


「なんだテメェ……あん?よく見りゃ、めちゃくちゃ可愛いじゃねぇかよ嬢ちゃん?……そうだ、今ならオレの女になるってんなら許してやってもいいぜ?」


「………女とか可愛いとか、ごちゃごちゃと煩く喚くガキじゃのう………ワシも、今ここから居なくなるなら許してやらんでもないぞ?」


「あぁ……?クソ生意気な女は嫌いなんだよなぁ俺は……」


 男はそう言うと、背中に背負っている大斧を持って振り下ろす!


 バン!と、地響きのような音と同時に斧は地面に突き刺さる。


「この斧の鯖になりたくなけりゃぁ、オレの女になるんだな嬢ちゃん」


「はぁ……店の中で暴れるのは良くないことだと、親から教わらなかったのか青二才」


「ちょっとルーシィちゃん!あんまり煽らないで下さいよ!」


 と、サマディが大男の後ろからやって来ようとして。



「あん?テメェこの嬢ちゃんの仲間か?」


「え?はい」


「じゃあ――」


 と、大男がひょい、とサマディを持ち上げた。


「この女が返して欲しけりゃ………」


「オレの女になれ、じゃろ?」


「そういうこった」


 はぁ、とルーシィは1つ、溜息。



「キャー、タスケテー」


 そしてサマディは、大男の腕の中で棒読みの悲鳴を上げる。

 ルーシィが助けてくれる事を信じて疑っていない。


 ルーシィは面倒くさそうな表情をしながら、店主の方を向く。


「あの、この杖、借りても良いか?」


「え?あ、は、はい……」


 ルーシィの考えている通りなら、この棒はこの時代の人間に、ひいてはルーシィ以外の人間とってはただの棒切れに過ぎないが、ルーシィにとってはそうじゃない。


 ボロボロに朽ち果てた()をルーシィは手に取る。


 この杖には、一見するとただのしょぼくれた杖に見えるように加工が施されている。


 そしてそれは、ルーシィがかつて、()()()()()()()()()に作った、自分の杖を誰にも使わせないための加工。



「あん?テメェ、そんなしみったれた棒切れで、何が出来るってんだ?」


「まぁ、見てるといい」


 ルーシィは、自分の身長よりも少し短いくらいの杖の先を、大男に向ける。


 そしてルーシィの両目は閉じられた。


 魔力を使うための、集中するための表情。



 するとすぐに、魔力は形を持ってルーシィの体から溢れ出した。

 淡い光の粒子がルーシィの体から現れては消え、現れては消え……否、消えているわけではない。


 消えていったと思われるような魔力が、杖に吸い込まれているのだ。



「これは、お主らにはただの棒切れにしか見えないかもしれない。じゃが、恐らくワシにとっては―――ここにあるどの武器よりも価値がある」


 ルーシィの発言を、大男は静かに聞いている。

 ように見えるが、その実、大男の視線はルーシィの持つ杖に向けられていた。


 ルーシィの杖には魔力が集まっていき、杖には亀裂が入っていく。


 ヒビからは光が溢れ、杖の()()()と思われるものがボロボロと落ちていく。


「お主らには一生かかっても使うことのできないほどの最上級の杖じゃ。とくと見るがいい」


 ルーシィがふっと笑みをこぼすと、最後に爆発的な光が店の中を包み込み。


 その杖のカバーが、全て落とされる。



「す、すごぉい、すごいです!」



 サマディが、大男の腕の上で感動していた。



 それもそのはず。露わになった杖の姿は、ルーシィの髪の色にも似た、白銀で出来ている。


 そしてそのシンプルな刀身の先には、これまたルーシィの瞳の色のような美しい紅色の宝玉がはめられている。



「ほう……確かに、ここのどの武器よりも高そうだな……よし、お前ごとその杖を手に入れてやるぜ」


「ふふ、ぬかせ」


 ルーシィはいつかのような嫌らしい笑みを浮かべる。


 恐らく、良いことは考えていない。とても声に出すのも憚られるような事を考えているかもしれない。


 そう思えるほどに、邪悪で、無邪気な笑みだった。



「どうせ忘れるだろうが特別に教えてやる。この杖の先にはめられている宝玉は、()()()()()()()()()()()()()()()()じゃ。もっと言えば、凝固させられるような魔力は、純粋で膨大でなくてはならないのじゃよ」


「なにをごちゃごちゃ言ってる?早くかかってこいよ」


「あーそれも良いが………ここでお前に攻撃してしまっては、店の迷惑になる。すぐに終わらせてやろうではないか」


「………なにか、嫌な予感がします」


 ルーシィがニヤつくと、杖が光る。


 しかしその光は今までとは違い、統制の取れた動きで紅色の宝玉へ集まっていく。



「さぁ、おねんねの時間じゃ」


 とんでもない爆発的な光が、もう一度店中に広がっていく――

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