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第十一話 貧民街の実情

 朝。


 夜眠らなくても特段支障はないルーシィと違って、ローザンとサマディはハナメと別のベッドで眠っていたが、外の喧騒のせいで目が覚めた。


 眠たい目を擦りながら窓の外をよく見ると、貧民街の大通りを大勢の兵隊が闊歩していた。



「……あれ?あれって、この国の兵士?」


 今いる国は、ルーシィの眠っていた祭壇があった領土の中なので、街を行進する兵士の鎧を見るのは、数日ぶりである。



「起きたか、サマディ。おそらく、昨日のワシの大魔法を見た兵士達が、ワシを探しに来たのじゃろう」


「いや、冷静に言ってて大丈夫なんですか?」


「まぁ、恐らくはな。貧民街は中々の広さがある上に、今朝お主が起きる前に聞いてみれば、カサミカはワシらのことを隠してくれるらしい」


「という事は、出ない方がいいって事ですか?」


「そういう事じゃ」


 言われて、サマディも納得。


 確かに無闇矢鱈に外を出回るよりは、ほとぼりが冷めるまでこの宿屋にいた方がマシだろう。



 ――――しかし。


 サマディにはやはり、解せない事があった。


「でも、それは分かるんですけど、今日は実は城下町に行こうと思ってたんですよね」


「うん?何故じゃ?」


「いや、そろそろお風呂に入りたいし、服だって着替えた方がいいでしょう?」


「あぁ、確かに言われてみれば、ワシのこの格好も着の身着のままじゃからのう」


「ですよね?だからやっぱり、隠れて出ていきましょうよ?」


「うーん……それもそうなんじゃがのう。恐らく、路地を通った所で、見たところ城下町の入り口は大きな門が1つあるのみのようじゃからな………果たしてどうするか」


「あ……たしかに」


 サマディは言われてから気づく。


 この貧民街は、外に出る小さな入り口と、城下町へと繋がる閉ざされた門以外に出入り口はない。


 たとえ門まで行けても、そこで捕まってしまうだろう。



「うーん、どうしたものか………」



「ナンだお前ら。城下町の方に行きたいのか?」



「なんじゃ?ハナメか」


 ハナメがドアを開けてきた。

 ハナメの格好を見ると、冒険者が皆着ているような服に、ダガーのようなものを拵えていた。



「お主の口ぶりだと、城下町への行き方をしている様じゃが?」


「ああ。知ってるさ」


「あ、じゃあ、教えて下さい!」


「あん。分かった」


 と、ハナメは頷く。



「あれ?やったぁ!教えてくれ―――」



「――だけど、条件があるんだ」



「条件じゃと?」


 もう一度、ハナメは頷いた。


 そして顔を上げたハナメの表情は、真剣で、切羽詰まっている様に見えた。



「ルーシィ、だったか?お前に、この貧民街から搾取を続けてるミョウオンとかいうクソ貴族をぶっ飛ばすのを、手伝って欲しいんだよ」


「搾取?この貧民街は、貧乏人が自由に暮らしておるのではないのか?」


「………表向きは。だけど、この街に来るところまで落ちぶれたが最後。ミョウオンは自分の享楽の為に、アタシ達貧乏人の中で何人かあたりをつけて、そいつを徹底的に潰すんだ」


「潰す?例えば、どんな事をされるんじゃ?」


「………家に住もうと思えばその家は燃やされ、逃げようと思えば私兵によって消され、取り入ろうと思えば死ぬまでおもちゃにされる。アタシはそんな人間を、何人も見てきた」


「………ひどい、ひどすぎます……」


「………なるほどな。泣き寝入りをするしかないお前達に代わって、ワシが出ろと」


「ちょ、ちょっと!ルーシィちゃん、言葉が………」


「いや良いんだ、今は。でも、もしもミョウオンをぶっ飛ばせなかったら、お前は絶対に許さないからな」


「………まだワシはやるとは言ってないが?」


「城下町に行きたいんだろう?」


「別に?待てばいつかは行けるからな。なんなら、今あの兵士達を全員一撃で葬り去れば、城下町に逃げ込む事はできよう?」


 ルーシィがそう言うと、途端にハナメはバツが悪そうな、悲しそうな表情を見せる。



「………悪い。今の話は忘れてくれ。よく考えてみれば、確かにお前の言う通り泣き寝入りをするしかないし、盗みをしたアタシが対等に取引しようとした事自体間違いだった」


「ハナメちゃん……」


 寂寥感の溢れるハナメの表情は、サマディの心を暗くした。

 そしてサマディも、寂しそうな表情を見せる。


 その上、静かに話を聞いていたローザンまでが、じとっとルーシィの方を見つめていた。


 ルーシィにとっては、完全アウェーである。



「………分かったよ。まぁ、最初から断る気なんて無かったから、そんな悲しい表情をするな。ワシなら、その貴族を家ごと破壊する事ができるじゃろうからな」


「る、ルーシィちゃん!」


 むぎゅうぅぅぅっ!とサマディがルーシィを抱きしめた。


「ちょ、キツイ、キツイって!」


「もう、優しいんだからぁ!」


 ぎりぎりと締まっていく首元は、ルーシィの意識を奪いかけた。



「すまない。本当にすまない。そして、ありがとう」


 ハナメも珍しく、深々とお礼をしていた。




 ☆☆☆☆☆




「ここが、抜け道だ」


「なんじゃ?ただの壁にしか見えんが………」


 ハナメに連れられ路地の先に行くと、少し広まった所に出た。


 が、周りは家に囲まれている上に、城下町と貧民街を隔てる壁によって行手を阻まれていた。



「上、見てみろよ」


「上?何かあるんですか?」


 言われて見上げると、何も見えない。



「……なるほどな。この辺りは上に配備されている兵士の数が少ないから、向こう側に出ても大丈夫というわけか」


「そういう事。ほら、ここの壁のレンガが少し崩れてるところがあるから、そこから出れるんだ」


 ハナメは、隅の方に駆け寄って行って、少しだけレンガが崩れている場所を指差した。


「うむ、ぎりぎり通れそうじゃ」


 人1人がやっと通れるほどの大きさの穴だった。


「これ、ワタシ通れますかね?」


 が、この4人の中で唯一体が成人男性のローザンは出れるのか危惧していた。


「挟まったらその時はその時じゃろう」


「え、えぇ………」



 まず、ハナメが這いつくばって穴を通る。


 通り慣れているのか、スッと通った。


 次に、ルーシィ。

 こちらも体が小さいから、すぐに通れる様だった。


 そして、サマディ。

 これも、大丈夫。


 最後に、ローザン。



「い、いけるかなこれ……ふん!うん!うーん……あれ?結構狭い?あ、あれ?挟まってる?ま、まずい、まずいこれ……」


 穴に挟まってしまった。



「なんじゃ、引っ張ってやろうか?」


「お、お願いします……」


 するとルーシィはローザンの手を取り、全力で引っ張る!



「うわぁぁあ!?」


 すぽーん、とローザンの体が吹き飛んだ。


「ローザン先生大丈夫ですか?」


「う、うぅ……結構飛んだね……」


 ソーサク城下町側のこちら側も、少し広まっただけの路地のような場所になっていた。



「ほら、行くぞお前ら」


「そうじゃな。ここにいては、いつ見つかるかも分からん」


「ちょ、ワタシは結構歳行ってるんですけど……」


 4人中3人が若い女の子なので、ローザンの気持ちは誰も理解してくれなかった。



 そうして路地を歩いていく。


 路地である事には変わりないが、貧民街と比べると、明らかに建物の質が違った。


 向こうは木造なのに、こちらは煉瓦造り。

 路地の中まである程度生活に保たれている所も、貧民街と違う。


 路地の先は、光になっている。

 その光に向かって、直進していくと―――




「こ、ここが、ソーサク城下町ですかぁ!?」



 かなりの人が通り、露店が立ち並ぶ、メインストリートへと出た。



「あ、あの料理見た事ない!あっちには服屋が!こっちには本屋さんもありますよぉ!」


「サマディ君、そうはしゃいでは目立ってしまうよ?」


「あ………すいませんでした」


「良い、別にここではしゃいだ所で、この人通りじゃワシらをピンポイントで見つけるなぞ不可能じゃろう」


「お前ら、どこに行きたいんだ?」


 ハナメに聞かれて、サマディが答える。



「まずは、服屋です!ルーシィちゃんの服を変えないと、目立っちゃいますから!」


 サマディはそう言って、服屋を指さした。


「じゃあアタシは、武器屋に居るから。終わったら声かけて」


「なら、ワタシもハナメについて行こうかな。女の子の買い物に付き添うのは、おじさんの体に響きそうだからね」




「お、女の子……」


「アタシも女の子なんだけどな」


 ルーシィとハナメが同時に反応した。



「じゃあ、行きましょうかルーシィちゃん」


「え?あ、えーっと、行きたくないなんて選択肢は……」


「ありません」


「え、ちょ、あー!」


 ルーシィはサマディに引きずられて、服屋へと消えていった。

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