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第十話 新・吸血鬼

「あ、おかえりなさい。2人とも………って、その子はどちら様ですか?」


 2人が宿屋に着くと、受付の前の椅子にローザンが座っていた。


「此奴は、盗人じゃ。お主のカバンのな」


「え?じゃあなぜ連れてこられたのですか?」


「まぁ、色々あってな」


 色々?と、ローザンは思案する。



「取り敢えず、部屋に入りましょう?」


 サマディは、そう提案しながら受付に行く。


 すると、受付にいた若いけれども何故か威厳のある、灰色の髪の青年が、目を丸くして驚いた。


「お、お客様?その娘は、どちらで?」


「あーえっと、どこでしょう?」


 サマディは振り向いてルーシィに視線で聞く。


「まぁ、会ったのは街の入り口じゃな。尤も、カバンを盗んで逃走した挙句、ワシにこうして捕まったがな」


 ルーシィは豪快に笑う。



「………そうですか。それはそれは、お客様に大変申し訳ない事を致しました。その子に代わって謝らせていただきます」


「え?なんで宿屋さんが謝るんですか?」


 サマディは心底不思議そうに聞いた。


 が、どうやらルーシィは何かに気づいているようで。


「………お主か。其奴の保護者は」


「はい、その通りでございます」


 サマディは今度は心底驚いていた。


「え、えぇ!?な、なんで!?てか、なんでルーシィちゃん分かっちゃうんですか!?」


 サマディは大声で叫びながら、視線を宿屋とルーシィを行き来させる。


 だが、ルーシィはそんなサマディを無視しながら話を続けた。


「その髪色、そしてその女子の発言………お主には聞きたいことがあるんじゃが」


「分かりました。お部屋にご案内致します」


「え?ちょ、え?何が起こったんですか?」


 宿屋の主人に連れられて、階段を上がっていくローザンとルーシィに、訳もわからずサマディはついて行く。



 ☆☆☆☆☆



「まず、自己紹介をさせていただきます」


 宿屋の主人は、ルーシィ達を部屋に通すとそう言った。



「私は、カサミカと申します。あの子を数年前に拾ってから、保護者の代わりをしています」


 カサミカは、ルーシィが先程ベッドに寝かせた少女の方を見た。


「拾った………って、この街ではよくあることなんですか?」


「はい。ここは城下町で住む事の出来なくなった者や、この領土での浮浪者が最後の最後に集まってくるような場所です。捨て子も、珍しくはありません」


「ちなみにあの子の名前はなんていうんですか?」


「ハナメ、と私が名付けました」


 ハナメ。そう言われて少女を見ると、そんなような気がしないでも無いというものだ。


 と、そんな時に、ルーシィが真剣な面持ちで口を開く。



「………本題に移っても良いか?」


「はい、大丈夫です」


「あのハナメという女子は、ワシを見た時に吸血鬼だとすぐに当ててきたのじゃが………お主を見て合点がいった。お主、吸血鬼じゃな?」


「…………はい、その通りです」


 と、サマディが目を丸くした。


「え?ていう事は、ルーシィちゃんとカサミカさんは、もしかしたら知り合いとかっていうこともあり得るんですか?たしか、吸血鬼って寿命はないんじゃ無いんでしたっけ?」


「あぁ。じゃが、カサミカは髪の色からして、ワシよりも後に吸血鬼になったんじゃろう」


()()()()()()()?」


「まあの。元々吸血鬼の始祖がいて、そこから眷属を増やしていった結果、各地に吸血鬼が点在するようになったんじゃ」


「………ですが、その吸血鬼達も、アルラウス・ルーシィという大賢者の吸血鬼が封印されてから、各地の吸血鬼達は皆討伐されてしまいましたがね。尤も、私が生まれる数百年程前の話ですが」


「え………それって………」


 サマディは思わず、ルーシィを見る。


「そういえば、お客様も『ルーシィ』と大賢者と同じ苗字をされていますね?何かご関係など、聞いて良いものでしょうか?」


「あ、えっと、それは………」


「遠い遠い親戚のようなものじゃよ。名字が一緒なだけで、ほとんどなんの関係もない」


「あぁ、そうでしたか」


 カサミカに嘘を告げたルーシィに、サマディは近づいて小声で聞く。


「あの、なんで嘘を………?」


「大賢者だという事を、みだりに話すべきでは無いんじゃ無いか?別に権力を誇るほどのことでも無いからの」


「あ、意外ですね。割と大賢者様、大賢者様ーって言われないのかと思ってました」


「それはワシが全ての柵を除ききってからじゃ」



「あの、どうかされましたか?」


 カサミカが2人の間に割り込んで聞いてくる。


「いや何でもない、話を続けようか。お主は、血を誰から吸っておるんじゃ?」


「血は………かつては、宿屋に泊めた旅人の血を吸って、腹を満たしておりました」


 カサミカが苦々しい顔でそう言う。


「そんな………良いんですか?そんなこと」


「まぁ、仕方がないと言えるな。サマディも血を吸われて分かったと思うが、血を吸われるとそのまま眠ってしまうじゃろう?眠っている者ならば、起きる危険性はないのじゃ」


「いや、でも………」


「言いたい事は分かるが、生きる為には仕方のない事じゃ。吸われた客人が気づかないならば、寧ろ悪い点など見つからないと思うが」


「うーん……そういうものなんですか?」


「はい。おっしゃる通りでございます。ですが、私としても大変申し訳なかったので、一泊の値段を格安で旅人の方々に提供していたのです」


「なるほど………吸血鬼にも色々あるんですね」


 サマディは、感心しているようだった。



「ですが、数年前にハナメに見つかってから………彼女の血を吸わせてもらっています」


「なるほどな。じゃからハナメの血から濁ったような味がしたんじゃな?」


「え?ちょ、それどういう事ですか?」


「実を言うと、他の吸血鬼がよく血を吸う人間からは、濁ったような味がするんじゃよ」


「へぇ………一生知る事のないような話ですね」


 サマディは感心しているのか、それとも無関心なのか分からないような曖昧な顔をした。


 とその直後、もぞもぞ、と後ろで寝ているハナメが起き上がったような音がしたので、皆がそちらを見る。


「あれ………ここは、家?てか、宿屋の部屋?ナンでだ?ってうわぁ!お前、ナンでここに!?」


「すまんな。泊まらせてもらうことにしたぞ」


「こらハナメ。彼女達は、れっきとしたお客様だ。無礼な物言いはやめないか」


「え、あぁ………す、すんません」


 どうやらカサミカに言われると、ハナメは弱いようだった。


「てか、そのチビのお嬢ちゃんは、どっから来た誰なのか、カサミカは聞いたのか?」


「いや、お客様の個人情報を聞くなど、言語道断だと思うがね」


「うーん、そうかな………」



(こうして見ると、普通の女の子ですね?)


(ああ。この街の人々も、心までは落ちぶれてはおらんのじゃろう?)


 2人はヒソヒソとまた秘密裏に話し合った。



「てか、疲れたからもう寝るわ」


「あ、ちょっと!そこはお客様の―――」


「よいよい。ワシはもう寝る予定はない。元々吸血鬼は、夜行型じゃからな」


「そういえばそうですね!なんで昼に活動したり出来るんですか?」


「あーまぁ、それはそう言うものじゃからな」


「曖昧なんだ、吸血鬼って」


 お客様のベッドのはずなのに大の字で眠るハナメであった。

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