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悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで  作者: 渡里あずま


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存外 ※エルマ視点※

 エルマの望みは、幼い頃からただ一つだった。

 今の王妃が王太子妃として嫁いだ時、子供だったのでパーティーなどには出られなかったが、絵姿でその気高く美しい姿を見て憧れた。それ故、父に頼んで王立学園卒業後に王妃の侍女となった。

 けれど、当の王妃は没落貴族の娘であるミレーヌを可愛がり、自ら息子の家庭教師にと雇い入れた。


(あんな顔だけの頼りない女の、どこがいいんだか)


 見ているだけで腹が立ったが、苛立ちを口にすればエルマが王妃に嫌われてしまう。

 だからこそエルマはミレーヌの母への送金を奪い、気づいていない彼女を内心で嘲笑っていた。更に、国王のお手付きになった時は噂を流し、結果、王妃の怒りを買ってミレーヌは解雇された。

 これで、邪魔者はいなくなった――そう思ったが一年後、新たな邪魔者が現れた。リカルドの婚約者として、王宮で妃教育を受けることになったサブリナである。

 サブリナのせいで、エルマは王妃付きからサブリナ付きの侍女へと異動させられた。甘やかされて育った我儘娘は、良いのは見た目だけだった。妃教育を嫌がり、理由をつけてはさぼろうとする。だから、リカルドの婚約者になるまでは可愛がっていたが、王宮に来てからは王妃は冷めた目でサブリナを見つめていた。


(王妃様に、あの子は相応しくない)


 それ故、王妃の気持ちをくみ取ってエルマは妃教育の進まないサブリナに嫌味を言ったり、ため息をついて見せた。それで、真面目に妃教育に取り組めば良し。駄目なら、婚約者を辞退すると思ったからだ。

 しかし、エルマの思った以上にサブリナは愚かだった。


「リカルド様ぁ。あの侍女が、私を虐めますぅ」


 よりによってリカルドに告げ口し、エルマを解雇させたのである。多少は厳しく当たったが、王太子妃として相応しくなってほしいからだ。そう訴えたが聞き入れては貰えず、エルマは王宮を追い出されてしまった。王妃は何も言わなかったが、おそらくサブリナの癇癪が煩わしかったのだろう。


(こんな……こんな筈じゃあ)


 適齢期を過ぎての、突然の解雇。家は兄が後を継いで妻子もいるのでエルマの居場所はなく、何より王都を出て王妃と離れるのは嫌だった。

 そんな彼女を救うように、ベレス侯爵令嬢の侍女へと募集があった。

 侯爵家でこそあるが、十年近く領地から出て来なかった田舎娘だ。適当に勤めていれば、王都にいられる。そう思っていたがアデライトと会った瞬間、エルマは衝撃を受けた。


(王妃様のような淑女が、もう一人いるなんて!)


 あんな甘ったれサブリナなんかより、目の前のアデライトの方がずっと王太子妃に相応しい。それに、アデライトが見初められればエルマは彼女付きの侍女として、王宮に戻ることが出来る。

 エルマの期待を裏切らず、アデライトはいつも美しく完璧な淑女だった。入学したらいずれ話題になるだろうが、一番に王妃に伝えたくてエルマは元同僚に手紙を送り、アデライトのことを書いた。元同僚もサブリナを嫌っているので、絶対に王妃に話すだろう。

 そして、今朝。昔、自分も着た王立学園の制服(紺色のワンピースと同色のボレロ)を着せ、美しく波打つ白銀の髪を梳って、エルマはアデライトを見送った。

 校舎まで送ろうとしたが学生寮と同じ敷地内であり危険はなく、逆に朝晩仕えているエルマに、少しは息抜きするよう言われては断れない。


(それに一人で動いてくれた方が、殿下に見初められる確率が高くなる)


 悔しいが、今のエルマがリカルドの目に入ると、上手くいくものもいかなくなる――そう結論付けて、エルマは自室へと戻った。

 ……学園でのアデライトの姿を見られないよう、誘導されていることにエルマは気づいていなかった。

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