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悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで  作者: 渡里あずま


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誘引

「本当に君は、嘘をつかないね」

「ええ、それが私のこだわりですから」


 その日の夜、夜着姿で寝台に座った九歳のアデライトに、宙に浮いたノヴァーリスが笑って声をかけてきた。

 それにアデライトも笑って答えると、ノヴァーリスは笑みを深めて言葉を続けた。


「アデライトの言葉に、嘘はない……だけどそれは、相手が聞いてこないからでもあるよね?」

「そうですね。聞かれたら、可能な限りで答えますけど」

「今日の彼も、君の優しさだと思って何も聞いてこなかったね。まあ、学園に通えるのは事実だけど」

「ええ。それに、話を聞きたいと思うの『も』事実ですよ?」


 言いながらおかしくなり、アデライトはクスクスと声を上げて笑った。そんなアデライトに近付いてきたかと思うと、ノヴァーリスが尋ねてきた。


「ねぇ、触れていい?」

「えっ……はい」

 

 唐突な言葉に戸惑ったが、ノヴァーリスを拒む理由はないので頷いた。そんなアデライトの頬を、ノヴァーリスは両手でそっと包み込んで上向かせた。

 他の者には見えないし、触れることも出来ないが――アデライトにだけはノヴァーリスは見えるし、こうして触れることも出来るのだと知った。そして触れられこそするが温もりはなく、陶器のようにひんやりしているのだと。


「彼に、どうしてほしいんだい?」

「復讐するのに、王都に行かせたいですし……あと、一回目同様に新聞記者にもなってほしいんです。平民にも慈悲を与えられるベレス領と違い、王都では貧富の差が激しいですから。きっと、国に憤ってくれるでしょう」


 一回目のエセルは、奨学生となって優秀な成績で学園を卒業し、少しでも恩人に返したいからと、手伝っていた新聞社に就職して送金していた。巻き戻った今回も、受けるまでは支援をお願いしたいが奨学生希望で受験すると言われている。アデライトの負担を考えればそうなるだろうし、今回も一回目と同じように新聞社で仕事を手伝うと思われる。

 一回目の時は、領地は貧しくこそないがここまで栄えていなかった。けれど、巻き戻った今は違う。それこそ平民も、ベレス領では働いて学んだ分だけ豊かになる。

 そんなエセルが王都に行って、貴族と平民との差を見たら――貴族の腐敗により嫌悪を覚え、一回目の時以上に民衆を煽ってくれそうだ。


(奉仕活動に取材に来なかったところを見ると、一回目では私も憎むべき貴族だったのかしら……一回目の私の斬首も、記事にしたかもしれないわね)


 そう心の中で呟いたアデライトに、ノヴァーリスがふと思いついたように言う。


「ああ、そうか……こうして私を慕うように、彼らもアデライトを慕っているから素直に従うんだね」

「……ええ、そう思います」

「辛いならやめても、やりたいことを変えてもいいよ? 同じではないかもしれないけれど、私も君を気に入っている」

「ノヴァーリス……」


 自分を慕ってくれている相手を、利用する。どうやらノヴァーリスは、そんなアデライトを気にかけてくれたらしい。

 けれどアデライトは笑みを消し、真っ直に紫色の瞳を見返して言った。


「私は王族と、王都にいて私と父を殺した民に復讐します。その為なら、誰だって利用します」

「そう……アデライトに心酔しているなら王族もだけど、王太子の婚約者みたいな子は許せないだろうね」

「そうでしょうね。まあ、在学期間は違いますが、サブリナは私の同級生になりますし。嫌いなら余計に気になって色々、教えてくれそうです」


 見つめ合いながらそう話を締め括ると、アデライトとノヴァーリスはにっこりと笑い合った。

 これからもアデライトは、復讐の為には可能な限り何だってする。それこそエセルも、一回目では王都にいたので復讐対象なのだ。巻き戻った今は何もしていないとしても、いくら自分を慕っていても関係ない。彼が悲しもうが、傷つこうが構わない。

 ……神であるノヴァーリスが、復讐者であり悪女であるアデライトを厭わず、こうして綺麗に笑って寄り添ってくれるだけで十分だ。

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