表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/73

旗手

 一回目の時、飢饉の後の新聞でアデライトはある記事に目を止めた。


「これは……」


 その記事は、飢饉の後の民の苦労を書いていた。そして直接にではないが、暗に民にばかり働かせて、国王が動かないことを指摘していた。

 気になったが、国王批判をする者のことを王宮では調べられない。

 しかし、その頃は奉仕活動で王宮の外に出られたので、記事を書いた記者について聞いてみた。そうすると平民の代弁者として、更に彼自身が成功者として有名なのだと聞かされた。何でも地方役人の父を失い、母も子供の頃に亡くなっていた為、孤児になったそうだ。けれどその優秀さを評価され、故郷の領主代行の推薦と援助を受けて、王都の王立学園に入学。卒業後、新聞記者となったと言う。

 ……そんな彼の名前は。


「アデライト様! お越し頂き、ありがとうございます!」

「エセル。あなたこそ、皆の先生になってくれてありがとう」

「とんでもない! 僕の勉強にもなりますから」


 集合室に行くと、まだ働けない小さな子達に一人の少年が絵本を読んであげていた。そしてアデライトの姿を見ると、パッと顔を輝かせて姿勢を正した。

 少し癖のある、薄茶の髪と瞳。今のアデライトより五歳年上だが、屈託なく笑いかけてくる様子は子犬を連想させる。

 エセル・テイラー、十四歳。

 目の前の彼が、一回目の時にアデライトが目を留めた記事を書いた新聞記者だ。



 エセルについて調べた時、故郷がベレス領――つまり、父・ウィリアムの領地だと知って驚いた。しかし奉仕活動中に、たまたま通りがかったのを遠目に見たことはあったが、一回目では直接話したことはなかった。

 だが、巻き戻った今は違う。

 ベレス領に、孤児院は一つ。そしてアデライトが領地に戻り、孤児達に読み書きを教えるようになった頃、父を亡くしたエセルが孤児院にやってきた。平民ではあるが、役人の息子だった彼は読み書きも計算も出来たので、アデライト達が行けない時は孤児達に勉強を教えてくれた。

 勿論、孤児としての労働も行っていたが――エセルはアデライトにひどく感謝していて、事あるごとに言う。


「父が亡くなり、親戚も頼れずに孤児院に入るしかなかった時……大げさかもしれませんが、未来が閉ざされたと思いました。ですが、アデライト様のおかげで勉強を続けることが出来ました」

「そう言ってくれると、嬉しいわ……ねぇ、エセル? 実はあなたに、お願いがあるの」

「っ! 何なりとっ」

「ありがとう……あのね? 来年、エセルには王立学園に入学して欲しいの。勿論、推薦状は出すし、その為の支援もさせて貰うわ」

「……えっ?」


 そんな彼に、そう切り出すと――予想外だったのか、エセルは薄茶の瞳をまん丸くしてアデライトを見返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ