表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/18

☆15 高等学院



気が付くと、あの日のマチルダの目を思いだす。

情熱的な強い意思をもった瞳。


私の心に盛大な爪痕を残して去った、あの魔女のことを考えると忌々しくて仕方がない。


リリーのことばかり考えていたいのに、どうしても心が納得できない。

なぜ、あの女は最後にあんな告白を残して消えたのか。


愛の言葉など似合わない。アイツは白の魔に通じていた女だ。

私とアイツは、気兼ねない友人同士であった。

気楽に話し合えて、相談事もできて、男の付き合いのように打ち解けていた。勝手に親友だと感じていた。


だからこそ、あれは地味にダメージが大きい。私はなにを間違えてしまったのだろうか。

しかしながら、これは当然の帰結であったようにも思う。

魔女と私は、呪いが解けるまでの間の契約だった。


結局、対価など要求されなかった。この時間は魔女の気まぐれだった。


楽しかった。とにかく、私はあの時間が楽しかったのだ。


子ども時代の、屈託のない思い出が。

私と魔女の、時の流れとの違い。私だけが成長して、マチルダを過去に置き去りにした。


残酷な結末。それが、決定的な別れの原因となった。






「ジークシオン様。もうじき着きますよ」


馬車の中でうたた寝をしていた。優しく穏やかなリリュカの声がした。

重だるい目を向けると、そこには麗しく成長した、百合の花が微笑んでいた。いつの間にか、自分は彼女の肩に寄りかかっていたらしい。


この期に及んで、私は彼女に好きだと告げたことがなかった。ずるい男だと分かっていたが、何故か踏み出せない自分がいた。


なにか、大事なことを思い出せなかった。

それはとても大切な心の小箱にしまった記憶のようで、奥底に沈んだそれは探してもどこにいったのか分からない。

ただ、時の流れに身を任せた。


私たちは、高等学院に進学をした。

そこは、きらびやかに装飾された伝統ある学び舎だ。その者に学業の才さえあれば、比較的門戸を広く開いていた。

だが、やはり内側で見渡すと貴族の生徒ばかりだ。


それもそうだ。この国で勉学を学べる人間は、生まれが良くないとその機会もない。

ホールにリリーと共に入ると、そこには綺麗な服を着た新入生が群れをなして、集まっていた。

皆の視線がこちらに向く。


「……まあ、あちらはノクターン公爵家のご子息だわ」

「ええ、とても素敵な方だわ。横にいるのは、どこのご令嬢かしら。とても不釣り合いな痩せぎすの身体をしている女ね」


女どものひそひそ声が聞こえてくる。

大半が嫉妬のこもった、やっかみだ。リリーは毅然と前を向く。亜麻色の滑らかな髪が翻る。

しかしながら、それが男子生徒となるとまるで女子と評価が正反対になる。烏合の衆の男らはリリーの白い肌や綺麗な瞳にぼうっと見惚れていた。


その中に、いつかの不愉快な男が混ざっているのを見つけた。カーズ・ルベルクだ。


「やあ、カーズ。貴様もこの学び舎に来たのか」

「へ、へえ……」

及び腰のこいつの肩を掴み、俺はニヤッと獰猛に笑う。


「お前は、この貴族社会の序列をよく分かっている奴だ。私こそが恐怖の権化として君臨することをその愚鈍な頭でよーく分かっている」

「……ひいっ」


がくがくと震えるカーズに、私はリリュカに聞こえない小さな声で呟く。


「お前は、私の為に働け」

「な、なにをお望みで……」


「逆らったら妹の身に何が起こるか理解しているな?」

……別になにもしない。面倒くさい。

ただ、この下卑た青年が勝手に勘違いをするのを観察していると、


「それだけはお許しください……公爵家の貴方様に睨まれては、妹は婚約をすることすらできなくなってしまいます」

「では、私の配下となると?」


「……世の誉れでございます、それはもしや、自分がジークシオン様のご友人となるということで?」


私が微笑して肯定すると、奴は明らかに顔を明るくした。


現金なやつだ。

私の友人になれば甘い汁を吸えるというわけだ。


力強く肩を叩く。この男は下種だが、意外と使いようのある奴だ。

ちょうど、下働きをする人間がいなくて困っていたところだ。前の人生で共に悪事を楽しんでいたから、カーズの性格は分かっている。


「ああ、これはローズレッド嬢! お久しゅうございます! 相変わらず麗しいお姿で!」

「え、ええ……」

彼女は眉をひそめた。


「どうして、あんな男に話しかけたの?」

小声で尋ねられ、俺は穏やかに告げた。


「懐かしくなったのさ」



……昔馴染みの縁だ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ