お帰りなさいませ! ご主人様!
暗い道を進む。
にちゃにちゃと足が音を立てる。
「死ね! 魔王!」
飛び掛かって来る男の攻撃を躱す。
それの脳髄を引きずり出す。
「パパ? どうしたの? 返事してよ」
手をその少女の頭に近づけ
思い切り握り潰した。
『やぁ、新しい魔王。僕からのプレゼントはどうだい? 』
悪趣味だ。
『そうか、いらないものが憑いているのか』
おい、話を聞け!
『まぁ、初めてだからしょうがないかな』
何言っているんだ?
『おっと、もう時間だ、それじゃあ、さっきの感覚を忘れないようにね』
まだ話を
『しっかりと仕事をしてくれよ、クレーエ』
「待てっ!」
「どうしたんですか?」
「夢を、見て」
ん?
「あー、あーあー」
んん?
「我々は宇宙人だ」
んんん?
声が、高い!?
「なぁ、おい俺は今どんな感じになって、ってお前誰だ!?」
目の前に身長190ありそうなインテリヤクザが立ってる……!
「私ですよ、私、忘れてしまったんですか?」
「えっ! えぇ! あの? お姉さん?」
「はい、その、お姉さん」
「何で、何で男になるんだよぉぉぉ!」
ふざけんな! そこはもう美人なお姉さんのままでいて欲しかった……!
「こうなる事は仕方のない事でして、女性型用アバターも有りますが、あくまでも後方支援用。前線に出てサポートするにはこれが一番良いんです!」
「何で俺は支援されるんだ!? それってつまりは戦うって事だろ!」
戦うなんて真っ平御免だ! 魔物とかならまだしも人とは絶対に嫌だね!
「あなた、聞いていないんですか?」
聞く? 何を? 誰に?
「魔王になって、すべき事とか、命令された事とか」
「知りません」
いつ聞くんだよそれ
今のところ誰にも会ってないぞ? いや、一人夢の中で会ったか?
「えっ、本当に知らないんですか?」
「知らぬ、存ぜぬ」
「そうですか……。っとすいません、上から指示が来たので一度帰らせていただきます」
「え? 待って、俺まだ外見について知れてないんだけど」
「今のあなたは一糸まとわぬあられもない姿の烏の羽根が生えた可愛らしい女の子ですよ。戻ってくる時に服持って来ますね」
「あ、うん、ありがとう」
「ではさようならぁ」
消えた!?
というか、女かよ! 俺はTSなんて嫌だぞ! でも可愛らしい……可愛らしいか……
そうだ、ダンジョン作成で鏡とか作れないかな?
「ダンジョン作成!」
鏡、鏡ー? あった鏡!
どれ、置いて見るか!
(この時、俺は忘れていた……今、一糸まとわぬ姿だという事を……)
ジャーン!
あああああああああああああああああああ!
俺今素っ裸じゃん!
隠す物、隠す物! あっ羽根ならいいけんじゃね?
羽根って、どうやって動かすの?
知らねぇよぉ!
今までなかったし! 足使ってたし!
腕あるし! そうだ腕! 腕で隠そう!
ダメだ……逆に危険だ。
自分の顔が意外と整っているせいで際どい! 中身が高校二年生思春期真っ盛りのCherry boyには辛すぎる!
自分だとわかっていても意識してしまう! ダンジョン! ダンジョン作成で服作れないか!
宝箱とかのところに……あった!
どれにしようかな?
黒髪ロング、細めの顔、胸は……無し。背丈150辺り、ふむ。
ロングスカート黒メイド服! 君に決めたぁ!
ぽすっ
こ、これが! メイド服! ……どうやって着るんだ?
足を入れる? 違うな、上から着る? 違う。
そのあと、数十分の格闘の末……
「やっと着れた! やべっ、嬉しすぎて声に出ちゃった。それにしても美人だなぁ。もうちょい胸があればどストライクなんだけどなぁ」
もしや私は天才かもしれない。
目の前、鏡。自分、美少女。服装、メイド。
すぅぅぅぅぅっ
「お帰りなさいませ! ご主人様!」
「うっわ」
は? 嘘、見られた?
「まぁ、人それぞれですし、否定はしません。存分に楽しんでください。私はあっちの方に行って来るのでお気になさらず……」
「やめて……そんな目で見るなぁ!」
「新しい体に適応できているのは良い事だと思いますよ。それでは、私はこれで……」
「やめてくれぇぇぇぇぇ!」
「ほら、機嫌直して」
「うるさい」
「ごめんって、ちょっと弄りたくなっちゃってね、この通り」
「うるさい」
「向こうで貰った巫女用の服とか、魔王のドレスとかあるよ?」
「それ着せてまた笑う気だろ」
「そんな事しないよ、ほら、飴ちゃんいる?」
「……いる」
「それに、可愛いかったよ?」
「……本当?」
「本当本当、嘘じゃないよ」
「そっかぁ、そっかぁ」
可愛いか……なんか少しだけ嬉しいなぁ
って、なんだ今の感情! ヤバイ、心まで男から女に!?
「そういえば、あなたの名前を聞いてませんでしたね。ステータスに表示されているはずなので、確認して見てください」
名前は確か空欄だったはず……!?
= = = = =
名前:クレーエ
= = = = =
ここはどこだ?
僕たちはHRで出席確認して全員居たから始業式の為に体育館へ行こうとして、それで……
「なんだこれ!」
「嘘っ光ってる!? ちょっとドッキリとかやめてよ!」
「も、もしや、魔方陣でござるか? 嵐氏どうしましょうか?」
「異世界転移辺りか?」
「クソッ! ドアが開かない!」
「何!? どうなっちゃうの!?」
「向こうで何したい?」
「拙者、チートしたいでござる」
「沢山のエルフとか獣人の美少女とヤリてぇ」
「みっ皆さん! 落ち着いてください!」
「そうだよ! 皆、歩先生に従って!」
「竜堂君……」
「光が増して来たでござるな」
「もうすぐかなぁ?」
眩い光に包まれたんだ。
『皆様、本当に驚かせてしまい、誠に申し訳ございません』
誰だ? あの人は……
「ふほぉぉぉ! 女神様でござるか!」
『よくお分かりになりましたね。そう、私は、これからあなた方に行ってもらう世界の神です。私達の世界は、異界からの神達によって脅かされています。その神達は世界に軍を送り、私達の世界の人々を殺し、喰い、慰み者にしたりと好き勝手にしております。もう私は我慢が出来ません! 愛する者達が苦しんでいるのに、何もしないなんて』
女神様の世界はそんな事に……!
異界の神はなんて酷い事をするんだ!
『だから、貴方達を勇者として私達の世界に赴いてもらい、あの者達に一矢報いたいのです!』
「待ってくれ! そんな事を言われても、僕等に戦う術なんてないんだ! それに、神様と戦うなんて……」
『安心して下さい。私達からギフトを授けます。それは、元いる住人の数十倍強くなるので、戦う術が無いわけではありません。それに、貴方達に戦ってもらう相手は神ではなく、その存在に近い者、魔王という存在です』
魔王?
『魔王とは、神の代行者、神の手足のような存在です。奴を倒せば、神の手足を捥いだ事と同じぐらいの打撃を与えれます』
「なぁ、俺たちは、帰れるのか?」
『すみません。今は』
「嘘でしょ!? 明日彼氏とデートする筈なのに!」
『ですが、魔王を倒せば帰れる可能性があると思います』
「そう、ですか……」
『どうか、どうか! 私達の世界を救って下さい!』
こんなに願っているんだ。それなら僕は!
「僕は、女神様の世界を救う」
「正気かよ! 竜堂!」
「ああ、主人公枠取られましたなぁ」
「竜堂君が行くなら、私も行くよ」
「暁美!」
『ありがとうございます! それでは、貴方達に祝福を授けましょう!』