神の子に祝福を
『随分と眠っていたようだね』
『ええ、そうみたい。今はいつ? 私の子供達は?』
『おっと、そう一斉に質問しないでおくれよ。僕だって、久し振りに君と会えて緊張しているんだ』
『その冗談は相変わらずなのね』
『それで、君の子供達だけど……残念ながら、あの女が支配しているよ』
『薄々感じてたけどね。わかったわ』
『あの魔王はどうするんだい?』
『そうねぇ、この子が初めて、私をここまで引きずり出してくれたんだもの。何かしてあげなきゃ。それに……』
『それに?』
『とっても美味しい物や、沢山の感情を、私に思い出させてくれたの。今までの子達は、殺して、殺されて、泣いて、笑って、単純な感情だけしか思い出せなかった。でもこの子は違う。心から笑っている。楽しんでる。だからこそ、この世界の母として、子供の幸せを守ってあげたいの』
『ははっ、君らしい答えだ……』
『そうかしら?』
『ああ。それなら、魔王と一緒に過ごせばいい。君と魔王が一つになればいい。多重人格ってヤツさ、きっと魔王の部下達も歓迎してくれるだろう。というか、そうしなければ、魔王は死んでしまうよ』
『貴方が言うなら、それが一番なのね。わかったわ、あの子と相談して、ちゃんと決めてくる』
『ああ、本当に君らしい。僕なら、問答無用で一体化するのに』
『じゃあ、行って来ます。私達のお父様』
『行ってらっしゃい。クレーエ』
何処だ……
俺は、死んだのか?
暗いし寒い。
光も無ければ命もいない。
『おまたせ』
ああ、待ってた。
何でだろう。何で待ってたんだろう。
まぁいいや、俺は死んだんだ。役目も終わった。思い残す事なんて無い。
『本当にそうなの?』
……。
『貴方は私だったのよ? 私が分からない筈ないでしょう?』
本当は……
本当は……!
もっとアイツらと一緒に居たかった。戦いたかった。それに、
『それに?』
まだクラスメート達と会っていない!
『そう……。貴方が望むなら、それを叶えることができる。だけど、貴方が前に出ることは出来ない。感じることも出来ないかもしれない。それでも、それでも! その願いを叶えたい?』
ああ。このまま死んで無くなるよりはよっぽどマシだ。
『わかったわ。創造神クレーエの名において命じる。その魂を我が魂と融合させ、我、現界せん』
吸い込まれていく……だけど、何故だか心地いい。
『まずは、貴方の子を止めないといけないわね』
そうだな……。
『じゃあ、向こうに行くまで暫しの間、ぐっすりと眠りなさい。私の可愛い子……』
おやすみなさい、母さん……
【ステータス変更しました。お帰りなさいませ。お母様】
「おやめなさい。ザンテーメ」
「っ!? 主様!」
「困惑してしまうのも仕方がないでしょう。ですが、貴方があの子の子だとしても、異世の子を虐めて言い訳ではありません。その子はあの女にただ呼ばれてしまっただけの幼き子。還してあげることが、一番の救いです」
「エルザ様?」「いや、でも、白い翼なんて」「綺麗……」「やはりエルザ様は女神だったのか!」「俺はエルザ教を作るぞ!」「じゃあ俺は大司教!」「私聖女!」
あの子は本当に慕われていたのですね……
「なあ! その通りだ! 俺はただ連れて来られただけだ! だから帰してくれ!」
「ええ、可哀想な子。元の世界に返すことはできませんが、この世界の一部として、還してあげましょう」
「え? どういうことだ?」
「ザンテーメ、貴方にはその心得がありましたね?」
「御意」
「おい! どういうことだよ! 還すってまさか!」
「そのまさかだ。安心しろ。痛くはしない」
「やめろ! やめろやめろやめろやめろやめろやめ」
スッ
一つの魂が還りましたか……
「皆様、残念ですが、今まであったことを忘れていただけ無ければいけません」
「それってどういう?」
「《無に帰せ》」
これでいいですかね。後は、片付けもしなければ……
「手伝ってくださいますか? ザンテーメ」
「勿論です。魔王、いえ、創造神クレーエ様」
「魔王でもいいのよ?」
決勝戦辺りがいいかしら……
「今大会優勝者は崩壊か、神速か! さあどうなる! 決勝戦、開始ぃぃぃ!」
「お主、つい先程まで、何があったか覚えておるか?」
「すまないが、分からないな」
「そうか、それは残念だ」
「では」
「「始めるとしようか!」」
弾く。己の心を込めて。
また弾く。己の技を込めて。
そして弾く。己の力を込めて。
ああ、楽しい。ここまで戦えるのは。
何があったか覚えていないが、そんな些細なことはどうでもいい。
この戦いが。この昂りが。この躍動が。この緊張感が。
全て味わう事が出来た。それで充分だった。
神速!
「終わりだ」
「おう、降参だ!」
「ここでゾンマーが降参! よって、今大会優勝者は、神速ぅぅぅぅ! さて優勝者にインタビューといきましょう!」
「今の気持ちは?」
「とてもいい戦いだった」
「何か言いたいことなどはありませんか?」
「そうだな……。俺はとあるクランに参加している。そのクランには、俺と同じ、いや、俺よりも強いヤツがいる。そいつらは今、世界中に散らばっているが、近々集まる気だ。もし、手合わせしたい奴がいるなら、俺達の前に来るといい」
「神速より強いって!」「マジかよ、勇者より強いんじゃん!」「イケメンいるかなぁ」
「では、こちら、賞金とトロフィーです!」
「ああ」
「この後のご予定は?」
「連れに聞かないと分からないな」
『ギルド近くで待ってるわよ』
届いたかしら?
「では、説明してくださいますか?」
「そんな堅苦しくしなくていいのよ? 貴方を生み出した存在の皮を被った、同じで違う魂が入っているのだから」
まぁ、説明するというのは、少し難しいんだけどね
「分かった。だが、一つだけ聞かせて欲しい」
「何かしら?」
「主様は、本当の主様は……あの時死んだのか?」
「残念ながらそうよ。彼の体は、実際には、私をあの女から隠し、解放する為に作られた物。とても脆く、そして儚い、神を降ろす器。私が出る時点でもう彼の体は役目を終えてしまった。だけど、彼にはまだ思い残す事があった、やりたい事があった、会いたい人々がいた。だから、私は彼の体が壊れ、崩れてしまわないように、この体に入った。それが全ての事よ。ちょっとだけ省いちゃったけどね」
「いや、充分だ……」
「そう……」
「この後、何をするか聞きたい。何をするんだ?」
そうねぇ、ミーちゃんは学園に入学しなさい! って言ってたけど……そうね
「ちょっとだけ、遊んじゃおっかな!」
「何をする気だ?」
聞いて驚きなさいよ……!
「学園の先生になります!」
「……どういう事だ?」
「ミーちゃんらしく説明するとね」
1,私の権能で新しい私を作る。
2,それに私を入れる。
3,試験を受ける。
4,先生になる!
「どう? 分かりやすいでしょ?」
「分からん。そして、冒険者の方はどうする?」
「そこはなんとなくでやるわよ」
「そうか……」
そうとなったら、直ぐに取り掛かるわよ!
「じゃあ、転移で人目の無いところに行ってくるわね」
「な、ちょっと待て」
「さようならぁ」
この辺りが良さそうね!
「「がるるるるるっ!」」
あら、襲う気満々ね。そうねぇ、肩慣らしついでに遊んであげましょうか
「がぁぁっ!」
邪魔にならないようにサイコロにでもしておきましょうか……
「それっ!」
コトンコトン
これでよし!
それじゃあ、取り掛かりましょうか!