食い逃げはいけないよ?
「おらおら! じゃんじゃん酒持って来いや!」
「おっ! 姉ちゃんいける口かい?」
「ママ! 麦酒三つとステーキお代わり!」
「はいはい、ちょっと待ってねぇ。クレーエちゃん、これをあのテーブルにお願いね」
「はいはーい」
どうして、こうなったんだ!
「「「「一気! 一気! 一気!」」」」
「ゴクッゴクッゴクッ、プハァ! じゃんじゃん持ってこーい!」
「「「「おおおおっ!」」」」
「待て、それ以上は明日の行動に支障が」
「なーにぃ? 私から酒をとるろぉ? さしゅがにうぃんででもだめぇー」
「そーだそーだ! ちょっとは嫁の羽を休めさせてやれよ、真面目な夫さんよ!」
「俺はコイツの伴侶ではない!」
「あぁ? 照れ隠しかぁ?」
「違う!」
「なぁ、嬢ちゃんもそう思うよなぁ?」
「ちょっ! 尻触んな!」
こちとら中身男だぞ!
「いいだろ? 減るもんじゃねーし」
「それなら、麦酒のお代わりはガラスコップ一杯だけな」
「そいつぁダメだ! すまんかったな、次からは胸の方揉むわ、でも、揉めるとこなさそうだなぁ」
「おい、表出ろ、テメェのブツ再起不能にしてやるよ」
「なんだ? 喧嘩か?」
「やれやれ! セクハラ親父に鉄槌を下してやれ!」
本当にどうしてこうなったのか……それは、少し前の事が発端だった。
「なぁ、倒したのはいいけど、これからどうするんだ? 元々、冒険者カードを作るためにここに来たんだろ?」
「ええ、ですがこの際、このまま人として過ごして、私達は安全、味方だと思わせておけば、後々のことが楽に進めることができる筈です」
最終目標は神の妨害だけど、具体的に何すればいいか知らないな……
「なぁ、神の妨害って何すれば良いんだ?」
「単純ですよ、ただ単に嫌がらせをするだけです」
ドユコト?
「まぁ、神の手駒の勇者に何やかんやするのが一番手っ取り早い方法ですがね」
「なら、どうにかして和解出来れば!」
「大きな一撃となるでしょう」
「それなら、勇者達と接触する必要があるだろ?」
「そこは、今回の様に冒険者として功績あげて、知名度広げて、信頼勝ち取って、国王に謁見、晴れては勇者達の師匠枠! というプランが妥当かなと思っているんですがね」
「功績をあげるためにはどうすればいいかな?」
やっぱり地道にコツコツとしていくしかないかぁ
「今ものすごい勢いでこっちに向かってくる人に取り入れば良いんですよ」
なんだ!? あの土煙は!
「ふっははははははは! 想像の遥か上を行ったな! お前達!」
この声はギルマスか……
「とうっ!」
スタッ
「あの蛇をまさか瞬殺するとは思っていなかったぞ! くくっ、思い出すだけで笑いが……! いやはや、世界とは広いものだ! こんな化け物のような奴らが名を馳せていないとは!」
「いえいえ、勇者様方には遠く及びませんよ」
「まぁ、アイツらの強さは別格だったからな。だとしてもだ、この街を救ってくれた事には変わりないだろう、俺たちにできることなら英雄様のためにするぞ?」
「そうですか、では、お言葉に甘さしていただいて……そうですね、私達の拠点となる住居を構えたいので、信頼できる不動産屋を紹介して貰えれば」
不動産屋ってこっちにあんの?
「なんだ、それだけで良いのかい?」
「あ、あと、夜に宴でも開いていただけますか? 仲間達を労ってやりたいので……」
「おう! それについては、心配いらねぇな、他の奴らがやってるとこだ!」
今なら、気になってたこと質問しても良いよな?
「あの」
「なんだ? メイドの嬢ちゃん」
「口調が変わっていることが気になってて……」
「ん? ああ、あれは外行き用だ、嬢ちゃんもあるだろ? 少しでも丁寧な対応された方が好意的に見えるやつだ。まぁ、他の冒険者には荒っぽい口調の方がいいけどな!」
そういう事も気にしないといけないのか……ギルマスって大変なんだな
「嬢ちゃん口減らしだったんだろ? まだまだ俺達みたいに暮らせる人がいるわけじゃねぇからな、冒険者ってのは、ただ金を稼いで終わりじゃないんだぜ」
「そうなの?」
「ああ、ウチでは査定やらで入った金の二割を近隣の村に寄付してるんだ。農村とかが無くなっちまったら街の名物のパンが作れねぇからな!」
そうだったのか……てっきり、稼いだ金は俺の物だ! みたいな感じだと思ってた。
「パンが有名なんですか?」
「ありゃ美味いぜ、婆さんの作るパンでみんな育ってきたからな! そのパンのために遠くから来るやつも少なくねぇぐらい美味い!」
食ってみたいな、そのパン……
「で? どんな家にするんだ?」
「そうですね……とりあえず大きめの家がいいですけど」
「宿とかじゃダメなのか?」
「ここには観光客も少なくないないそうなので、ずっと取っていてはいけないでしょう?」
それはそうだな……
「他の人達にも聞いてみたんですが、どこでもいいそうで、今は自由行動していますよ」
「なぁ、お前って、金持ってんのか?」
「ありますよ」
は?
「まぁ、金貨も銀貨も銅貨も多いわけじゃないですがね」
「円じゃなかったの!?」
「あなた馬鹿ですか? そんな都合良く単位が一緒なはずないでしょう!」
そんなに怒んなくていいじゃん……
「ああ、そうでした……あなたはこの世界について全く知らないんですね、後で話はするので、あまり突っ込まないようにしてくださいね」
「はーい」
「っと、話をしている間に着きましたね」
ここが不動産屋か……壁に間取りの描いた絵が貼られてて、あんまり大差ないかな?
「いらっしゃい、アンタがギルマスの言っていた若造かね?」
「はい、私達の拠点となる住居を構えたいと相談したところ、ここが一番信頼できると」
「はっ、上手いこと人を煽てるね、いいじゃないか、そういう奴は嫌いじゃない。乗ってやるよ」
「ありがとうございます」
何!? 今の一瞬で何があったんだ!?
「で? 賃貸物件にするのか、購入するのか、どっちにするんだい?」
賃貸? 購入? ダメだ分からん
「クレーエ、あなたも街を回ってきてもいいんですよ? パンが買えるくらいのお小遣いはあげますから」
「いいのか?」
「勿論、いってらっしゃい」
「行ってきまーす」
パンがどこに売ってるか聞き忘れた……
「あの、すみません」
「何ですか?」
「有名なパンがあると聞いたんですけど、どこに売っているんですか?」
「冒険者ギルドの食事処にありますよ。お使いですか?」
「いや、休憩を貰ったので、街を散策しようかなと」
「それなら、気をつけて下さいね、最近ひったくりがいるそうなので」
「お心遣い感謝します。ありがとうございました」
冒険者ギルドは確か向こう側だよな、なら、あの道を通れば近道じゃないか?
それにしても、この道は細いし薄暗い
「んぶっ!?」
「おっとすまねぇな! ちゃんと前向いて歩けよ!」
何だよアイツ……
もう着いたのか、やっぱりあの道で正解だったな!
「いらっしゃい、ご注文は?」
厳つい! 怒ったら怖そうなおじさんだ……!
「えっと、パンを一つ下さい」
「少々お待ちを……」
どんなパンが来るのかなぁ? 楽しみだなぁ!
「こちら、当店人気のパン、シュタットでございます」
「わぁ……!」
見た目はパンにチーズとベーコンがのっていて、その下に多分トマトソースが塗ってあるのかな?
この距離でも分かるバターの香り!
「いただきます!」
ん!? チーズのしょっぱさと生地の甘みが絶妙にマッチして、上のベーコンの旨味とトマトソースの酸味を引き立たせてる!
「美味しぃぃ……!」
ダメだ、手が止まらない!
もう無くなっちゃった……
「ごちそうさまでした!」
お会計、お会計……あれ?
金が、無い!?
ちゃんとミステルに貰って……あ! あんのやろうひったくりか!
「どうなさいましたか?」
ヤバイヤバイヤバイ!
どうしよう、事実を述べて謝るべきか? それとも、ステータス任せに食い逃げ? ああああ!ダメだ!
「その! すいません! 来る途中にひったくりにあってしまって……お、お金がないです……」
「そうでしたか、それはそれは災難でしたね」
「なら!」
「ですがね、もう腹の中に入ってるでしょう?」
「……はい」
「それじゃあ、そうだな、体で払ってもらうしか」
か、体!? いや、だけど、食べちゃったし……
「はい、分かりました……ですが、乱暴にはしないでくださいね?」
「嬢ちゃんは口答えできる立場か?」
「いえ……違います」
不味ぃぃ! 貞操の危険が!
「それじゃ、店の中に来てもらおうか……」
あああああっ! 嫌だぁぁぁぁ!