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日常と常識と2

 今日も今日とて、三人でスライム叩きだ。

 ここで目覚めてから、ナナギの習慣のひとつに加わったものだ。

 スライム叩きは、この村の子供にとって小遣い稼ぎに最適だった。


 小遣い稼ぎの割には命がけだったりするが、あんまり裕福でない家の生まれの子供にとっては、大事な現金収入源。

 近くに安全な森があるなら薪集めや薬草集め、山菜集めのほうが安全だし安定した稼ぎになるのだろう。しかし、ナナギたちの住む村はの森は魔物が多い。なので、スライムと戦うよりも危険で、子供の小遣い稼ぎにはあまりにも割に合わない。

 それならスライムを相手にしたほうがいい、となる。


 スライムの外皮は下級のHP回復アイテムヒールボールの材料として、一定の需要がある。

 好奇心……あるいはもっと切羽詰まった生活のために危険に首を突っ込んでダンジョンで稼ぐ冒険者はもちろん、普通の生活をしている者達も保険のために何個か持っておきたいものなのだ。


 スライムの核も等級が低くても魔石のため、大した額で取引されることがなくても、自分たちの家で消費する魔石として丁度いい。

 その辺にぽこぽこ湧いてでる下級スライムの魔石は、水属性だ。水瓶に少量の水とともに魔石を何個かいれて一晩おくと水が湧いてでて、水汲みの作業をしなくてもすむ。不純物の入っていない綺麗な水だから、飲んで腹を下す心配もない。

 安全な飲み水は村に井戸があるけれど、あれは使うのに少量ながら金が必要だから、できれば節約して使うのは避けたいものだ。

 井戸を使わないとなると川水があるが、川上で洗濯や行水なんかに使っていたりするから、綺麗ではない。

 それに、川と家の往復の水汲みもなかなかの労力だ。

 大人たちには、生活のための仕事がある。ならば、水汲みの仕事は子供の仕事となるだろう。


 川の往復にかかる時間がスライム叩きと同じくらいかかるならば、スライム叩きで小遣い稼ぎをしつつ日用の消耗品である魔石を手に入れたほうがいい、となる。


 農耕地帯と森の合間にある原っぱでスライムを見つけては、三人でスライムにそれぞれの武器を使い攻撃した。

 周りにはナナギたちと同じように子供たちが数人のグループを作ってスライムを探したり、見つけたスライムを袋叩きにしたりしている。


 ファクトが見つけたスライムの進行方向をネイヴァンがさっと塞ぐ。

 ナナギは横あいからスクラップ寸前のゴミ槍でべしべしとスライムを突いた。

 才能があるのは槍だと鑑定で知ることができたので、ナナギは早い段階で冒険者ギルドで装備を槍に切り替えた。

 ギルドで見つけたのは、穂先の刃部分が欠けて柄が折れた槍だった。

 縄で折れた部分をがっちりと固定して、かろうじて使える状態にしている程度の甚だ頼りない武器である。

 ナナギには不安しかないのだが、アスコット兄弟もギルド員もスライム叩きにはこれで十分と太鼓判を推され、以降恐る恐る使い続けているナナギの相棒だ。


 弾力のあるスライムへの致命傷にならず、なかなか膜が破れない。

 ナナギの攻撃が効いているのか怪しい。

 むきになって攻撃しつつも、木の板をつなぎ合わせた盾を構えて、スライムが反撃のために弾くように飛ぶのを警戒する。

 こいつらはぷよぷよと柔らかそうな見た目をしているくせに、速球がぶつかってくるように攻撃してきて危険なのは、ナナギは身をもって知っている。

 頭に直撃すると、下手をすると死んでもおかしくないような衝撃がある。

 なにせ頭を強く打った衝撃で、この世界で生きていたナナギという少年から、二十一世紀を生きていた柳凪という男の精神に切り替わってしまったのだ。

 そんな過去があるため、弱い部類の魔物とされているスライムでも一切油断しない。

 世間一般では最下級モンスターとされているスライムだが、ナナギたちにはまだまだ手こずる強敵だった。


「ナナギ! ファクト! あんまり傷だらけにすると売れなくなるから気をつけて! それと分裂すると危険だから!」


 ネイヴァンが隣で指示をする。

 ファクトは危なっかしい動作でぽこぽこと剣をぶつけている。

 ネイヴァンはボロ剣と木の盾を構え、スライムを叩いていた。ナナギよりも力があるのか、与える攻撃はガンガンといった感じだった。

 同じような場所を何度も叩き、外皮にあんまり傷が残らないようにしている。彼は武器の扱いに関して実に器用だった。


「わかってますよ! てえいっ」


 ナナギは目一杯力を込めてスライムを突いた。

 スライムのHPが高いのか、皮が硬いのかあまり効果のない打撃にしかならない。いや、そもそもナナギたちのレベルが弱くなおかつ武器の品質が低いのが原因かもしれないが。

 

「やあ!」


 ネイヴァンの気合の入った掛け声とともに下された一撃で、ついにスライムの外皮に穴があいた。

 どろ、とした液体が切り口から溢れる。

 

「やった。さすがネイヴァン様。やっととどめを刺せましたね!」

「やったー! さすが兄ちゃん!」


 スライム核の色が濁り、袋から水が溢れるようにスライムがしぼんでいく。


 スライムの外皮に包まれた液体は、加工すれば治癒薬(ポーション)の材料になるらしいが、治癒薬(ポーション)を作れるような腕のいい薬師なんて近辺にはいないから、引き取り手がいない。

 回収たところでギルドでも換金してくれないから、集めるのは手間がかかるだけで無駄になる。ナナギたちはスライムからただの透明な袋になった皮をひっくり返し、液体を出し切って捨てる。スライムの核を回収するのは忘れない。

 ネイヴァンはスライムの外皮と核を腰に下げた袋に突っ込む。


 ナナギたち三人は、きょろきょろと辺りを見合わしてスライムを探す。

 否応がなしにスライムを囲み、叩いている同年代の子供たちが目に入る。

 あちらには四人。スライムを叩き始めた直後なのか、ぶるぶると激しい動きで反撃する機会を伺っていた。ぐるぐるとその場で円を描くように回転したかと思うと、突如打ち上げられるように跳ね上がった。

 子供達は悲鳴をあげながらスライムの暴投めいた攻撃を避け、彼方に飛んで行ったスライムを追いかける。


「頑張れよーウルズー」


 ネイヴァンは少年の背中に応援をかける。

 ナナギたち三人は特に親しい仲だが、ずっと一緒にいるわけではない。

 年の近いものたちや、趣味のあうものと遊ぶときもある。

 ウルズはネイヴァンと親しい少年だった。

 こちらの存在に気づいたのか、ウルズ少年はさっと振り返りおう、とだけ返事をした。

 ナナギたちは手製の木の盾めいたものを使っているが、あちらは家から持ってきたらしい鍋の蓋に取っ手をつけて加工したものを構えている。

 持っている武器は鉈やら棍棒やらだ。


「僕たちも頑張ろうか、ナナギ、ファクト」


「うん! いっぱいスライム叩くぞ」


「そうですね。あと二、三匹は倒したいですね」

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