7 二人のステータス
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ファクト・アスコット
性別:男
種族:人間
年齢:5歳
クラス:--
レベル: 1/10
HP: 9/9
MP: 31/31
血統スキル
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手始めに近くにいるファクトを鑑定すると無事ウィンドウが開いた。
他人にも鑑定が可能なようだ。これは便利だ。
レベルは1だが、MPが非常に高い。
レベル3の凪よりも高い。その分、HPは低めだ。
ゲーム知識に倣うのならば、ファクトには魔法の才能があるということだろう。いかにも魔法使いのようなステータスだ。
あと年齢は五歳……見た目にそぐう歳だが、話し方が自分の知る幼い子供よりも相当しっかりしていたから、七歳で納得しつつあったので、本当に五歳児だとしたらその頭脳に驚きだ。果たしてどちらの年齢が正しいのだろうか。
所持スキルに、読み取りがレベル2、最大値は15。治癒魔法、聖魔法がそれぞれレベル1ずつ。最大値は20だ。
適正スキルは読み取りと執筆、どちらも最大値が15だ。雷魔法が最大値11。
ファクトは本を読むのが好きなようなので、納得のスキルだ。
加護神には伝達の神と光の神と二神の記述があった。
恩恵スキルは自在転移、光魔法、伝達魔法がレベル0で最大レベルが20。あとは前述した治癒魔法と聖魔法だ。
体格が出来上がっていない子供なせいか、ステータスは魔力以外は低い。
(ファクト様くらいの子供でこれって相当凄いんじゃないかな? ほかを知らないからなんとも言えないけど)
ついでネイヴァンを鑑定する。
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ネイヴァン・アスコット
性別:両性
種族:人間(神族・弱)
年齢:10歳
クラス:--
レベル: 2/10
HP: 35/35
MP: 0/0
血統スキル
封厄(0/1)
滅厄(0/3)
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(う、う~ん。なんか、いきなり見なかったほうがいい秘密を見てしまったような、なんというか。やばい、ゲーム感覚で仲間キャラクターのステータスを見るつもりだったのに、軽率にプライバシーの侵害をしてしまった猛烈な後悔が……)
凪のいた日本でも、性別の問題はなかなかデリケートだ。インターセックスの扱いはとても難しく、生まれたのときに診断された結果とは実際は違う性別だった、というのはままあるらしい。
どちらでもある性で生まれたとしても、それをそのまま登録できるかというとそうではなく、お役所には男か女かで登録しなければならない。この世界でもきっぱりと二分化し、曖昧な性では戸籍登録はできないのだろう。だから身分証明書のような洗礼札には男と書かれていたのかと凪は思った。
所詮は世界の詳しい事情など知らない凪の推測なので、事実とは異なるかもしれないが、真実などは正直どうでもいい。
触れてはいけないことなのかもしれないし、知らなかったままにしておこう。
それに、神族・弱の記載も気になる。
もしかしてこの世界の神様の血でも引いているのか。とても珍しい一大事ではないだろうか。
伝説の勇者にでもなりそうだ。
そして、ファクトは人間としか記載されていないのに、ネイヴァンは(神族・弱)なる表記がある。
あとは、血筋のつながりがあるものに継承されていそうな血統スキルとやらもネイヴァンは持っている。
もしかして三人の秘密とやらはこれなのだろうか、と凪は戸惑う。
うろうろと視線を彷徨わせると、開きっぱなしのウィンドウに、ずらずらと文字が流れていく。
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所持スキル
剣技能 (1/20) 盾技能(1/20) 色彩(1/15)
剣技能 (1/20)
小剣技能(0/20)
槍技能 (0/20)
斧技能 (0/20)
打撃技能(0/20)
弓技能 (0/20)
籠手技能(0/8)
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:
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限界値が高い武器の取り扱いに関するスキル。これだけ見ると脳筋の素質がある気がする。
しかし適正スキル欄には、すでにレベル1まであがっている色彩スキルをはじめ、画才や舞踏、歌唱や演奏といった芸術系のスキルが表示されてあった。
加護神にはふたつの名前、ひとつは武の神。名前からしてきっと戦いに関する神様だろう。その神が恩恵スキルで武器のスキルの最大レベルを20まであげていた。
驚いたことに、先ほど聞いた統一の神が記されていた。
恩恵スキルには、おそらく統一の神が与えたものだろう仰々しいスキル名が何個も並んでいる。
ネイヴァンは主神とやらの加護を得ているのだし、将来もしかしたら、勇者どころかもっとすごい方になるかもしれない。
凪としての意識では一回り年下だし、ナナギにとってもネイヴァンは年下だ。だが、偉い神様の加護を与えられているようだし、敬語になるのも仕方ないだろう。
とりあえず、プライバシーの侵害を打ち切る。
初めて見た時、ネイヴァンが男の子か女の子か分かりにくかったけれど、どちらでもあるからすぐに判別がつかなかったのかと納得した。
初対面での鑑定行為はなるべく控えよう。
知らないほうがい秘密を垣間見て罪悪感を抱くのはこれっきりにしておこう。
凪はそっと誓う。
だが、気に入らない者はバンバン鑑定してやろうとも思う。
性格の悪い人間はどこにでも一人や二人はいるだろう。
そういう奴のステータスなら、秘密を知ってしまっても痛痒はなんら感じ得ないはずだ。
悪ぶった思考で強がっても胸の中にむずむずするものが残って、いい大人がしでかしてしまったことにやりきれなくて落胆する。
子供達のくりっとした目が、案じるように凪を見つめていて、余計に居心地が悪くなる。
「俺は……これからどうすればいいんでしょうか」
意識が目覚めたときからずっと抱えていた見知らぬ場所の疎外感からくる不安だとか、短絡的な行為の後悔だとかで、凪の心のうちは重くなる。
こんな小さい子たちに弱音を吐くように泣きつくなんて、なんて格好悪いんだと再び湧き上がってくる悔恨。
「別に今まで通りでいいんだぞ? 十五になったら仕事を始めて、十七になるまでうちでお金を貯めるんだ」
「忘れてしまったことを思い出したり、もう一度いっしょに暮らして思い出を作ったり、知らないことを知っていけばいいんじゃないかな」
こともなげに明るく言い放つ兄弟に、凪の目頭がやや熱くなった。
知らない世界に放り出された不安と、孤独感。それを癒すような優しさが、じんと全身に染みた。
記憶喪失になったナナギという少年を拾った時も、こうやってこの兄弟は居場所を作ってくれたのだろうか。
「ありがとう、ございます」
感謝の言葉は、涙がにじんで掠れてしまった。