喜ぶ夫婦
涼しげな風と、やわらかな秋の日の光を受けたネイヴァンは言いたいことを告げただけで、それだけですっきりとしたいい顔をしていた。
一方でナナギといえば、後ろめたさから気まずい表情を隠せない。
家までの道行は、兄弟の機嫌が目に見えてよく、ナナギだけがぎこちない。
スキルを使って勝手に個人情報を盗み見て、あまつさえ悪いことをしているとは思いつつ、常習的に繰り返していたのだ。罪悪感があったとしても、押し寄せる好奇心の波にそれを流し続けていたのだから、後悔に苛まれたとしても今さらである。
「父さん、母さん、これ見て」
家に着くなり、興奮冷めやらぬ様子で、アトリエから出てきた父親と機織りの合間に昼食の支度をすませた母親に胸を張る。
昼飯どきにファクトは誇らしげにギルドでの出来事を説明し、食べ終わると待ちかねたとばかりに二人の目の前で起動札の模様の色を塗り替えた。
「まさか、ファクトとナナギに魔法の才能があるなんて!」
アスコット家の女主人アーシアは嬉しそうに声をあげた。夫のマリシンとともに驚きながらも息子の才能を歓迎していた。
「魔法が使えるのならば、ファクトが学校で学べることに幅が増えるね。今の時点でわかるなんてすごく幸運なことだわ」
「まさかファクトに魔法の才能があるとは思ってなかったよ。学校に行く前に知り合いに頼んで魔法の基礎を学べるようにしてやったほうがいいかな。
ナナギも、せっかく魔法が使えるのなら、より深く学んだほうがいいだろう。
なにせ闇の神と相性がいいなら、真贋魔法が使えるかもしれない」
マリシンとアーシアはずいぶんともりあがっている。
夫の考えにアーシアはうんうんと興奮気味にうなずく。そういった仕草は、息子のファクトとそっくりだった。
「真贋魔法を覚えていれば、難関の専用職の役人になれなくてもいろんな可能性が広がるのよ。人に対してだけじゃなくて、数に対しての正否を一瞬で調べられる魔法もあるから、書類仕事のある仕事でも役立つらしいの。
その魔法を持っているひとは、大きなお店やギルドでは引っ張りだこなんですって」
一般人から、真贋魔法は人気だ。
絶対にそんなことはないと分かっているが、真贋魔法の適正はなかったと告げたらがっくりと肩を落とされそうなくらいの勢いだ。
真贋魔法は、有用だが取得が難しい資格のようなものなのだとナナギは改めて思う。
「それにしても起動札を買うなんて、高かったんじゃないか? よく思いきったよ」
「中古が安くバラ売りされていたので、つい買ってしまいました」
「それでも、けっこうな額だろう。未来のために貯めているお小遣いなんだから、ここは僕が出しておこう。魔法が使えるようになったお祝いだ」
マリシンは親心で提案するが、ファクトがふんと息をあらげて断った。
「大丈夫なんだぞ! 俺たちパーティーの未来のための買い物だから。これからのために、俺たち三人で初めて買ったんだ。父さんでも、仲間に入れないんだぞ」
子供たちだけで決めたことに、善意であろうと親がしゃしゃり出て欲しくない、独立心旺盛なファクトであった。
そんな息子にマリシンは笑う。
「そうか、パーティーのための買い物か。それじゃあ、僕は仲間にはいれないね」
何かを懐かしむかのようにファクトの言葉を噛み締め、マリシンはファクトの頭をやさしくなでた。




