腹を括る
受け取った三枚の木札を、ファクトは宝物のように掲げたりぎゅっと握ったりで、忙しい帰路だった。
そんな弟を見ながら、ネイヴァンは言う。
「天の神の起動札と相性が良かったみたいだけど、ファクトが使えるのは雷魔法かな、妨害魔法かな」
天の神は、雷魔法と妨害魔法を司る。
起動札に色がつくだけの段階だと、その魔法のどちらの才能があるのかはわからない。
「ナナギがファクトに雷魔法を勧めていたからすっかりその気になっているし、雷魔法が使えるといいな。
あの子が使えるようになるのは、やっぱり雷魔法なのかな? それとも妨害魔法の才能の両方あるんだろうか。
どう思う、ナナギ」
確信を持ってファクトに勧め、事実天の神の魔法との相性の良さをみせたことが腑におちず物言いたげなネイヴァンである。
言葉選びがまるでこちらを探りにきているようで、どきどきして落ち着かない。
「ええと、雷魔法だと思います。妨害魔法はうんと頑張ればそこそこまで使えるようになるんじゃないでしょうか」
(嘘はいってない。今のところ、ファクト様の妨害魔法の限界レベルは6だし、でも、その気になれば俺の《限界突破》スキルでレベル上限を上げられるし)
なんと言ったものか、苦しいナナギだった。
ここは変に誤魔化さず、そろそろ鑑定スキルのことを告げたほうがいいかもしれないと目を泳がせた。
絶対に隠さなければならない理由はないし、知らないふりを続けるのは潮時かもしれない。
三人の目標達成のためにも、自分の力を開示して行動方針を決め、ガンガン成長していくのは必要だろう。
「不思議なんだ」
ネイヴァンはじっとナナギを見つめる。
「君がそういうのなら、そうなんだろうな。憶測というよりは、なにか最初から分かっている様子だよね。
それに、いきなり闇の神の起動札を欲しいなんて言うから、少し驚いたよ。いままで闇の神の魔法を使いたいなんて、言わなかったし。そのうえ、闇の神の魔法の才能があった。
なんというか、状況がちぐはぐな気がするんだ。
闇の神の魔法が使いたくて運よく使える才能があった、というよりは、闇の神の魔法の才能があると確信していたから使いたかった、というのが正しい気がする。
隠し事をされるのが嫌だと言うわけではないけれど、隠し事をするつもりならもっと上手くやってほしいかな。
隠しごとが嫌ってわけじゃないよ。ただ、すこし気にかかることがあって、その回数が重なると、どういうことなんだろうって、すごく気になってしまうんだ」
ナナギを責めているのではなく、最後の一言にネイヴァンの本音が集約されていた。
ナナギはそのつもりはないが、ネイヴァンの気になることを度々繰り返していたらしい。
「ええと、はい。すみません。
実は俺、あるスキルを持っていることに気付いたんです。
ここで話せることではないので、家についたらお二人にちゃんと話します」
ナナギが罪悪感とともに真剣に告げると、ネイヴァンはかぶりを振った。
「こんなふうに言っておいて、今更かもしれないけれど、別に私はナナギに無理に口を開いてほしいわけじゃないからね。ただ、隠したいのかわざと気付いてほしいのか分からない、あからさまなことを控えてもらえればいいよ。
父さんと母さんは私たちほど一緒にいないから気付かないし、ファクトは今は気にしていないみたいだけれど、そのうち気になるようになると思うよ」
(えー、変な行動をとったつもりはないけど、《鑑定》スキルのせいでなんかおかしなことしてたのか、俺)
自覚ないうちに、何かしでかしていたらしい。
ナナギは内心ひとしきり反省する。
「いえ、俺も知ってほしいんです。このことを話そうとずっと考えていたんですけれど、きっかけがなくて。これからのことを考えると、知ってもらったほうがいい」
ネイヴァンは、秘密を話すことでナナギが嫌な思いをしないかどうか気にしているようだった。
そんな彼に、ナナギはいやいや告げるわけではいことを主張する。
「そっか。なら、何を教えてもらえるのか、家につくまで楽しみにしているよ」
(楽しみか……楽しんでもらえる内容になるといいんだけど。鑑定で勝手に個人情報を見たことを、謝らなきゃな)
腹は括った。
しかし、気は重い。




