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魔法について


 この世界で柳凪の意識が覚醒したとき、ナナギのレベルは3だった。

 覚醒から二ヶ月。スキルの力を借りて、今は5まで上昇している。ネイヴァンとファクトもレベル4になっている。

 おそらく、とてつもなく経験値が低いであろうスライムのみでレベルを上げていたことを考えれば、上々の出来だ。


 ネイヴァンと同年代の他の子供たちのレベルを盗み見たが、レベル2が多い。ナナギと同じ成人間際か、狩人だったり木こりの父親について森の中にまで出入りしている子供たちでやっとレベル4という程度だ。

 大人たちも、農業関係者はノービスのままレベル6、7で止まっている者がほとんど。たぶん、ただでさえレベルがあがりにくいノービスは8あたりからさらに上昇が鈍くなるのだろうとナナギはあたりをつけた。


 村の中で高レベルなのは、意外にも、アスコット兄弟の父マリシンだった。下級クラスについていて、腕に自信がないと言っておきながらレベル12があり、戦闘向きクラスではないにしろ、レベル相応にステータスも良かった。もしかしたら見習いクラスを経由してレベルアップしているのかもしれない。クラスは、なんのひねりもなく生業としている画家である。

 ただ、体を動かし慣れていないのは如実に感じ取れるので、数値上ステータスが高いだけで、それを十全に発揮できるかは別なのかもしれない。


(旦那様とネイヴァン様は、他の国からこの国に来たんだよな。昔は何していたんだろ。

 下級クラスでそこまでレベルが上がってるってことは、それなりに魔物と戦ったことがあるってことだから、旦那様も結構やんちゃしてたのかな。それか強いやつについてパワーレベリングする機会でもあったのか。……考えてもわからん)


 《鑑定》のことは結局まだ秘密にしているので、そこをつっこむわけにもいかない。

 

(旦那様が暇しているときに、森の中のほこらとまではいかないけれど、スライムよりも強い魔物とエンカウントできないものかな。旦那様には潤沢なHPで壁になってもらって……いや、俺たち三人だけで強くなることに意義があるから、それはなしだ)


 近道を考えすぎて、思考が変な方向に飛びそうになっている。ナナギは首をゆるく振って考えを改めた。


 レベル10になることを目標に決めてから数日、ナナギの槍レベルはやっと2になり、ネイヴァンの剣レベルは3のままだが、盾レベルは3にまであがった。

 武器の技力にてんで才能がないファクトだが、剣を使った時間と本人のやる気と努力と、ナナギのスキルの恩恵もあってか、剣レベルがようやく1になった。

 その手応えを本人はしっかりと感じ取っていて、「俺も強くなったぞ!」とご機嫌だ。

 ネイヴァンは弟の以前との差異を感じている様子はないが、正直な感想を告げて喜びに水を差すようなな野暮な真似はしない。機嫌のいい弟を「そうだね、頼もしくなったね」と微笑ましげに見ている。ナナギもまた、似たようなもので、《鑑定》がなければファクトの小さな変化に気づかなかっただろう。


 しかしながら、剣レベルがあがったことで喜んでいるファクトに対し、ナナギは名残惜しさを込めて嘆息する。


(ファクト様の魔法が使えるようになればなあ)


 剣レベルが上がるよりももっと強くなれそうな道があるのに、もったいない。


 以前からスライム叩きの成果を届けがてら、ギルドで情報収集をしていたが(ナナギがものを知らなさすぎて、情報収集というほど大げさな成果でもないが)、結論としてナナギが早々に得たのは「魔法というのは、気軽に使えるものではない」ということだ。

 才能でつまづくよりも先に、魔法の行使のための道具の有無が、魔法を使えるか否かを分ける。

 才能さえあればゲームのように呪文ひとつで魔法を使えるようになるわけではないのだ。かといって、日本で読んでいた物語にはポピュラーだった、杖によって魔法を使うわけでもない。一度手に入れたらずっと使い続けられる杖のようなものであったらファクトのためにそれを入手できるようにお金を貯めたが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「魔法の起動札って、アホみたいに高いですよね。使い捨てなのに」


 今日も今日とて、スライムの皮をギルドに届けにきて、ナナギはぼやく。

 彼の恨めしげな視線の先には、魔法の発動に必要な木製板の綴りがある。単語帳ほどの大きさのそれの表面には、魔法を司る属性神が持っているとされる器物が描かれている。

 魔法の起動札は、この世界で魔法を使うために必要な触媒。よくある杖の代わりだ。ただし使い捨て。

 

 この大陸の魔法は、属性神と呼ばれる存在と密接に関わる。

 ゲームでもよくある属性や種類ごとにカテゴリ分けされていて、魔法使いといえど全ての魔法が使えるようになるわけではない。

 

 光の神 光魔法、治癒魔法、伝達魔法、聖魔法

 闇の神 闇魔法、精神魔法、真偽魔法 

 火の神 火魔法、支援魔法

 水の神 水魔法、守護魔法

 風の神、風魔法、指針魔法

 土の神、土魔法、促進魔法

 天の神、雷魔法、妨害魔法

 氷の神、氷魔法、停滞魔法

 

 と、このように神々がそれぞれの魔法を司り、人間が持つMPマジックポイントを魔法に変化させるには、神々が司る魔法の属性と同じものにしなければならない。

 人間が持つ魔力とは本来無属性で、 属性を持つ魔力に変化させるのに必要なのが、起動札だ。

 熟練の魔法使いは起動札がなくても属性を変化させられるらしいが、闇の神の加護を持っているナナギでも今の段階ではそれは不可能だった。


 神ごとにそれぞれ札があり、ファクトが才能を持つ雷の魔法が使えるようになる天の神の起動札もギルドの売店にひっそりと売られていた。

 十枚一組で500ギム。属性魔法一回使うたびに一枚使用して、二度と使用できなくなる。

 そこそこに鍛えた冒険者なら端金だろうが、スライム叩きしか稼ぎの手段がない子供には賄えるものではない。


 以前ナナギに雷魔法を使うのはどうだとけしかけれたファクトはキラキラとした目でそれを見ていた。物欲しそうではあるが、彼が本に向ける情熱とはまた違う。絵に描いたお菓子でも見るような距離のある目で、いいなあ、とは時折こぼすが、魔法の起動札が欲しいとおねだりをすることはなかった。

 お金の価値を理解しているファクトが、それが手を伸ばしずらい価値のあるものだと知っているし、それを手に入れるよりは本を読むことのほうが彼の中で欲求が強いのだろう。

 ネイヴァンやナナギのように強くなりと願っているファクトだが、それは魔法を使うこととイコールではない。手に入れることが難しい起動札に執着しなくとも、上二人のように物理的な力を手に入れればいいとおもっているようだ。ナナギは《鑑定》でそれが難しいということがわかっているから、ちょっともどかしい。だが、魔法に強く憧れて魔法の起動札がほしいと訴えられても今すぐは困るので、助かるといえば助かるのだが。


「長持ちする金属製のものもあるし、それよりももっと長く使える起動札があるらしいけど、魔法を使うひと自体があんまりいない小さな村だから売ってないね」


「例えあったとしても、俺たちのお小遣いじゃあ絶対に買えませんね」


 ナナギは肩を落とした。

 せっかくのファクトの才能を腐らせるのはもったいなかった。

 魔法といえばナナギもまた闇魔法と精神魔法と真贋魔法を使えるようになるらしいが、それを披露する機会はそうそう訪れないだろう。先立つものがほとんどない。

 

 ギルドの売店には闇、火、水、風、土、天、氷の属性神の起動札が売られている。

 ファクトに加護を与えている、光の神の札は店にない。

 光の神の札は、基本的に神殿において管理・取引されていて、それ以外の場所では表立って売られないという。そして、それ以外の属性神の起動札よりも割高だ。神殿を介さずにてにいれたいのならば、製造している職人と直接交渉で手に入れるしかないらしい。

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