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夜の会話と残りの時間

 夫妻との会話を終え子供用の寝室に音をたてずにと戻ると、暗闇の中からひっそりとネイヴァンに声をかけられた。寝たのだとばかりおもっていたが、まだ起きていたらしい。


「ナナギ、私たち全員がレベル10になったら、森の中のほこらに行くってファクトと約束したんだって?」


 眠りにおちる前にファクトから聞いたのか、ネイヴァンがどこか面白そうに言った。


「はい。勝手に話に巻き込んでしまったの、お嫌でしたか?」

「ううん。ファクトが喜んでたし、私ではあんなふうにあの子を納得させて諦めさせられなかったから、お礼を言いたくて」


 諦める、という言葉選びに、達成できないままうやむやになるといわれている気がして、ナナギにしては珍しく強いことばで否定した。


「諦めてはいませんよ、目的達成のために目標ができただけです」


「目標……」


「やっぱり、ネイヴァン様も絶対に無理だっておもってますか?」


 だとしたら、悔しいし、悲しい。ファクトにもっとも近い位置にいる兄のネイヴァンには、彼の幼くも純粋な本気を、少しでも信じてあげてほしかった。

 ネイヴァンは少し間をおいて答える。


「……うーん。そうだな、昔の僕なら、絶対に無理だなっていっただろうけど、今は、ふしぎなんだ。実をいうと、なんとなくだけど、ほんの少しだけ可能な気がするんだ。ただの思い上がりで、身の程知らずなだけなのかもしれないけど」


 自身のことばを、噛み締めるようにネイヴァンはいう。


「それに、ちょっとだけ、わくわくする」


 どこか達観して大人びたところのあった少年が、年相応に声を弾ませていた。


「やりたいこと、今も全然見つからなくて、自分の好きなことがはっきりしているファクトと違って、僕の中には何かが足りない空っぽみたいな場所があったんだ。でも、今は少し違う、最近、前まではなかった難しいことでも出来るかもしれないっていう自信があるんだ。その自信のおかげで、以前よりも見通しがないことに対する不安みたいなものが、減った気がするんだ

 だから、僕自身のためにも、三人でレベル10になりたいな。目標を達成した事実は、きっと僕の心の糧になって、僕の中に足りない何かを埋めてくれる」


 ファクトの底抜けに明るい決意とは違う、ネイヴァンの静かな意気込みに、ナナギはじいんとなる。


「それに、父さんと母さんは絶対に無理だろうとおもっているだろうから、実現してびっくりさせるのも楽しそうだしね」


「はい、そうですね。俺たちがレベル10になったら、お二人は絶対に驚きますよ」


 ネイヴァンが人知れず抱えていた小さな不安の芽に触れたナナギは、もう一度決意を新たにした。

 いずれ冒険者になるネイヴァンにとって、レベルをあげて見習いクラスを得ることは彼の助けになり、また心の支えと余裕になるだろう。

 大切な兄弟のためにも、絶対に、三人でレベル10になるのだ。


(十五歳になったら、この辺りの常識だと見習いといえど俺は働きにでなきゃならないからスライム叩きに集中して使える時間はもう一年もない。気張ってやらなきゃな)


 この世界の年齢は数え年で、母親のお腹に命が生まれた時から一歳、生まれたときにすでに二歳というふうに数える。

 ナナギの《鑑定》だと満年齢が表示されるから、最初はその数字の違いに戸惑ったものだった。

 そして、誕生日に年齢が加算されるのではなく、だいたい生まれた季節によって一歳年をとる。今は秋、そろそろ収穫の季節だ。

 ナナギは冬が終わり、春になったら十五歳になる。満年齢にしてまだ十三歳。日本だったら中学校に入学している学生で、まだ子供だ。

 しかしこの世界ではほとんどのものが大人の仲間入りをして、働きはじめる。

 

 ナナギは危険のない安全な場所で料理人になりたい。夢を本当に叶えるためなら、今から行商に同行させてもらって町に何度も赴いて、飲食店に直接掛け合うか、町のギルドで就職活動をしなければならないだろう。

 しかし、今はそんな暇はない。


(別に今すぐ料理人にならなきゃダメってわけじゃない。春からの仕事先は村の中で出来ることをすることにしよう。半年後の仕事先は《薬学》と《錬金術》スキルを活かして村の薬師の手伝いをさせてもらうってのが一番いい落とし所か)


 暇を見て、村に住む薬師の老婆に話を聞きにいかねば、と心のメモに付け加えておく。


(探索系スキルフル活用でスライムをガンガン見つけられるようにしないとな。これからは《索敵》スキルももっと意識して使わないと。

《成長支援》スキルがレベルアップしてもっと効果も上がってほしいな)


 時間はいくらあっても足りない。

 《索敵》スキルはレベルがまだ1だった。これでは心もとない。

 隠れていたり、見つけにくいところにいるスライムを全部見つけられるくらいの鋭さが今すぐ欲しい。


(スキルはまだ頼りにならないけど、その代わりに時期がいいな。農作業の手伝いに駆り出されて、同年代の子供がスライム叩きをできなくなる分、俺たちがポンポン出てくるスライムを占有できて、経験値を稼げる。これは、多分、けっこう大きいはず)


 いつの間にか寝落ちしたネイヴァンの寝息を聞きながら、ナナギはこれからの計画を頭の中で描いていた。

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