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SIDE:A カーシャ

 アンリさま主催「クーデレツンジレドンキュン」企画参加作品です。

 木の陰に身を潜めてミラーさんの戦いを見守るのが私の仕事みたいなものだ。

 だって、私には荷物持ちとミラーさんの身の周りのお世話をする以外、何もできないもの。

 今、ミラーさんは、オークの巣を潰す仕事を受けて、この森の奥深くにある巣を目指している最中。

 ミラーさん──ミラーク・ルーミットさんは、冒険者ギルドに所属する一匹狼の剣士だ。

 私──カーシャは、10歳の時、盗賊に襲われて両親を殺され、1人生き残ったのをミラーさんに拾ってもらった。

 以来6年半、付き人というかたちで養ってもらっている。

 助けてもらった日のことは、よく覚えていない。

 父さんが盗賊に斬り殺された時の悲鳴はよく覚えているけど、そのほかのことは──想いだそうとしても薄布でも掛けられたみたいにぼんやりとしている。

 誰か──多分盗賊──に追い詰められて背中が壁のようなものに当たっていて、私の方に手を伸ばしてきたところで、目の前が真っ白になって。

 気が付いたら、毛布の上に寝かされていて、近くでミラーさんが焚き火をしていた。

 たまたま近くにいたミラーさんが駆け付けて盗賊を退治してくれたらしい。

 そのお陰で、馬車も荷物も無事だったけど、天涯孤独になってしまった私が小金を持っていたら身ぐるみ剥がされるどころかどこかに売り飛ばされるのがオチだ。そう思って、ミラーさんにお願いして、一緒に行動させてもらって今に至る。


 目覚めた時、少し離れたところから見守ってくれていたミラーさんを見た時、私の中には安心感が広がった。この人の傍にいれば大丈夫って気がしたんだ。

 ミラーさんは、口は悪いし、私のことを雑に扱うけど、何ができるわけでもない私を養ってくれている。

 馬車とかを売ったお金は渡しちゃったけど、受け取る時、「じゃあ、2割だけ貰おう。残りは預かっとく」って言って、2割だけ財布に入れて、あとの全額をギルド貯金に預けてくれた。

 私はまだ幼くてギルドに加盟できなかったから、ミラーさんの名前で。

 私が15になった(成人した)時、ギルドに登録させてくれて、「あとは自分で管理しろ」って、ほんとに全部返してくれた。

 ギルドに登録したものの、私に出来ることなんてほとんどないから、ミラーさんのために少しでも役に立ちたくて、こうして荷物持ちとかしている。

 ミラーさんは、「行くぞ」「(めし)」「そこで待ってろ」くらいしか言ってくれないぶっきらぼうな人だけど、本当は優しいのを、私は知っている。

 ただ、その優しさが私に向くことが滅多にないだけ。

 危ない時は、ちゃんと助けてくれる。


 ──ミラーさんには言えないけど、私はミラーさんが好きだ。

 ほかの男の人は、怖くて近付きたくないのに、ミラーさんに頭を撫でてもらうととっても嬉しいもの。

 撫でるっていうか、子供をあやすみたいにポンって手を載せてくるだけだけど。

 成人してもいつまでも子供扱いなのは少しつまらないけど、でも大人扱いしてもらうってことは、独り立ちして、ミラーさんと一緒にいられなくなることだから、仕方ない。子供扱いでも、一緒にいられるだけマシだ。




 しばらくして、ミラーさんの動きが止まった。

 どうやらオークを倒し終わったみたい。でも、その割には、難しい顔をしてる。


 「お疲れ様でした。どうかしたんですか?」


 近付いて声を掛けると、ミラーさんは不機嫌そうな顔で

 「もう少し隠れてろ。なにかおかしい」

と言ってきた。

 隠れてろってことは、まだオークが残ってるってことだろうか。

 足を引っ張るわけにはいかないから、素直にまた隠れる。ミラーさんの邪魔になったら、もう一緒にはいられないんだから。




 しばらくすると、ミラーさんに手招きで呼ばれた。

 「気のせいとは思えないが、こうしていても埒が明かない。

  とりあえず、進むぞ」


 さっき何があったのか聞いてみたけど、

 「オークのくせに、妙に動きに統制が取れていた。

  統率する奴でもいるみたいにだ。

  だが、近くにはオークの気配はないし、しばらく待ってみても動きがなかった」


 近くにいないと、統率できないってことかな。よくわからないから、訊いてみた。

 「統率する奴っていうのがいると、まずいんですか?」


 「オークを率いるってことは、ただのオークじゃない。

  単なるオークの群れじゃなくて、オークの軍勢だったら、相当手強い」


 オークの群れと軍勢の違いはよくわからないけど、予定よりもだいぶ強い相手なんだってことだけはわかった。




 オークの巣と目される洞窟の前まで来ると、ミラーさんは

 「外で待っていろ。

  何か来たら身を隠せ。

  いいか、何があっても中には入ってくるなよ」

と言い残して、洞窟に入っていった。

 私が外に残されることは、これまでも何回もあった。

 敵がある程度強いと、私が近くにいるだけで邪魔になることがあるから。

 私を人質にしようなんて知恵のある魔物には遭ったことはないけど、流れ矢だの何かの破片だのが飛んできたら、それだけで私には脅威だ。

 それで、下手に私を気にすると、ミラーさんの集中が乱れるから、そういう時は私はなるべく離れているように言われる。

 今回も、危険な魔物が混じっているかもしれないからってことで、私は洞窟の外で待っているよう言われたわけだ。

 私にできるのは、ミラーさんの言いつけを守って邪魔にならないように待つことだけ。

 だから、言われたとおり、入口の穴の脇の壁に背中をもたれさせて外を向いた。こうすれば、後ろから襲われる心配はないし、前を警戒しているだけでいい。




 しばらくすると、周りの木がガサガサいいだした。まるで、誰かが枝に登っているみたい。

 見上げたのと、枝から誰かが振ってくるのと、同時だった。

 降ってきた人影は、私の目の前に着地した。

 人──じゃなくて、オーク! やけに小柄なオークだ。

 まずい、こいつ、私を狙ってるんだ!

 慌てて右に逃げようとすると、目の前を掠めるようにして、“ドン!”とオークの左手が壁に突き刺さった。

 なら左、と思えば、やはりオークの右手が刺さる。

 私は、壁を背に、両脇の壁に手をめり込ませたオークに追い詰められた格好だ。

 すぐ目の前に、オークの顔があって臭い息がかかる。

 オークの表情なんてわからないはずなのに、なぜだかニヤアァ…って感じで笑っているのがわかった。私を嬲る気なのか、それともまさか人質にしてミラーさんのところに連れて行こうとしてるのか…。

 それは、だめだ。

 ミラーさんの足を引っ張るなんて嫌だし、もし見捨てられたら、私は立ち直れない。

 あ。

 その時は、きっともう生きてないね。だったら安心だ。




 そんなことを考えてる間に、オークは左手を壁から抜いた。

 今なら右に逃げられるかも、という淡い期待は、あっさり砕け散った。

 オークが抜いた左手を私の顎に伸ばしてきたから。

 臭い涎をこぼしながら、オークが私の顎に指をかけた瞬間、目の前が真っ白になった。






 気が付くと、森の中で寝かされていた。

 近くには、ミラーさん。あの時と同じく、焚き火の脇から私を見ていた。

 「目が覚めたか。どこか痛むところはないか?」


 声を掛けられて、大丈夫ですと起き上がろうとしたけど、腰でも抜けたみたいに体が動かない。

 声は、出るみたいだ。

 「どこも痛くは。でも、ごめんなさい。起きるのは、ちょっと無理みたいです」


 「怪我がないなら、いい。

  あいつらは、オークリーダーが率いている群れだったようだ。それ以上の奴はいなかった。お前を襲った奴が俺達を監視してたようだな」


 「監視、ですか?」

 オークが私達を監視? そんなこともできるの? オークって。

 「気配を消して、どこかから俺達を見ていたんだ。

  だから、外に残ったお前を捕らえようとした。理由はわからないが、嬲り殺すつもりだったのかもしれないな。

  一撃で殺そうとせず、逃げられないようにして恐怖を煽ろうとしていたようだし。

  まあ、そのお陰でお前は助かったわけだが」


 私が気絶した後、ギリギリ間に合ったミラーさんが助けてくれたんだ…。

 私、ミラーさんにまた迷惑かけたんだ。

 「ごめんなさい、お仕事邪魔して。

  ごめんなさい。お願いですから、置いていかないで…」

 涙が止まらなかった。

 重たい腕は動いてくれなくて、私は仰向けのまま涙をこぼし続けた。それは、深い絶望の涙だ。


 「そんな心配はいらん」

 絶望を吹き飛ばしてくれる言葉に、涙が出そうになる。

 ミラーさんは、私の枕元にやってきて、私を見下ろすように見詰めてくる。

 頭を撫でてほしい。そんなこと、望んじゃいけないってわかってるけど。

 思うだけなら、いいよね。絶対、口にはしないから。

 そう思っていたら、頭…というより額だけど、ミラーさんが手を載せた。

 熱を計ってるわけじゃないよね?

 「お前を自由にしてやるわけにはいかない。

  このまま俺の傍にいろ。

  悪いが、お前に断る自由はない」


 傍にいて、いいの!?

 「うれ、しいです。

  ずっと傍にいます。いさせてください」


 思わず涙がこぼれた。

 ミラーさんは、少し呆れたような、困ったような顔をして、私の顔の脇に左手をついた。

 「泣くな。

  どんなに嫌がっても、逃がしてやる気はない」

 嫌がってなんか、いないのに。

 「ごめん、なさい。

  嬉しくて涙が、止まらないんです」


 「震えながら、そんなこと言われてもな。

  まあいい、どっちにしろ、結論は変わらん」


 ミラーさんの右手が、私の頬にかかる。

 いっそ、このままキスしてくれたらいいのに。

 ああ、そういえば、この体勢、オークにやられたのと同じだ。

 同じことをしても、相手によって全然違う。


 目の前に、ミラーさんの顔がある。

 ゆっくりと近付いてくるその顔に、思わず期待してしまう。もしかしたら、このままキスしてくれるんじゃないかって。

 「ミラーさん…」

 目を閉じて待つ。お願いだから、キスしてください。

 段々と近付いてきたミラーさんの気配だったけど、額にキスして遠ざかっていった。


 「ゆっくり寝ろ。

  明日もかなり歩くぞ」


 沈む意識の中、その声だけが耳に響いた。

 使ったワード:クーデレ、ジレジレ、壁ドン、床ドン、顎クイ、豚ドン


 ちゃんとできてるかしら?


 「SIDE B ミラー」は、24日(金)22時にアップします。

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