表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『半径1メートルの日常』  作者: 八神 真哉
52/100

『SOS』

毎日毎日、蒸し暑い。この天候は当分続くという。

子ども用の日傘が昨年に比べ40倍売れているというニュースも飛び込んでくる。


わたしたちの世代。

男子が夏の日に一度は、やった遊びがある。

『サブマリン707(ななまるなな)』(※マンガが原作)のプラモデルにマブチ水中モーターを取り付けるのだ。

ちなみにこの「サブマリン707」とは潜水艦である。

ただの船と違い、一度沈んで浮き上がってくるその姿がなんとも魅力的で愛しい。


風呂の中で試して満足するような男子はいない。

近所の池や川でやってこそ面白い。

とは言え、これは危険極まりない行為であった。

浮き上がってこなかったり流されたりするからである。

うっかりすれば、わが身も危ない。


そこで、小学校の校庭の端にあった池を使うことにした。

幅3メートルほどの楕円形の池だ。真ん中に岩が積んである。

夏になれば藻が発生し、底など見えない。


その日、「サブマリン707」は浮き上がってこなかった。

SOSの連打である。頭の中で鳴り響く。

なにしろ、プラモデルとモーターで200円以上するのである。


買い直すお金などない。モーターはヤクルトかマミーの宅配のおまけ、プラモデルはおばあさんにもらったお金と小遣いをためて買った。お年玉は親が握っている。

1日10円の小遣いを握りしめて、5円の駄菓子か10円のアイスクリームかで悩んでいる子どもにとっては、泣きたくなるほどのダメージであった。

棒などで水をかき混ぜてやると浮き上がってくることもあるのだが、今回は反応がない。


やむなく、学校の用具倉庫からバケツを持ち出し、友と二人で池の水をかきだす。

半ズボンが濡れないぐらいまで減ると池に入り、さらにかきだす。

それでも、わが「サブマリン707」は姿を現さない。

コイを捕まえ、新たなバケツに移す。亀やザリガニも姿を現す。これは誰かが勝手に持ち込んだに違いない。


そこに新任の校長先生が通りかかった。

「偉いな。池をきれいにしているのか?」

結果としては、そうなるのである。

悪びれることなく「はい」と答える。


ホースからこぼれる水を飲み、頭からかぶる。指で押さえて飛ばし、ひと騒ぎ。「707」は岩の下から無事見つかった。

汗だくになった、そのあとの楽しみはなんといってもアイスクリームである。

当時10円だった「ホームランバー」。

スティック棒に「ホームラン」という焼き印があれば、ホームランバー1個と交換してもらえるという楽しみがあった。(あるいは「ヒット」3本で1個)


子どもの頃は、日傘どころか帽子もなしに炎天下で遊んでいた。

田んぼが多かったこともあり、今よりは涼しい風が吹いていたのだろう。


実家近辺は風景も人もすっかり様変わり。

かろうじて、小高い山にある神社だけは当時の面影を残している。


春になったら、思い出の場所を歩いてみよう。

一緒に山に登った友や、高校時代にスケ番になっていたあの子とすれ違っても、お互い、もうわからないだろうけれど。




※商品の息が長かった時代。プラモデルを買ったころには『サブマリン707』の漫画連載は何年も前に終了。また、アイスクリームもすぐに値上げ。

※拙作『ふしぎなえんぴつ』の「はずれ」シーンは「ホームランバー」をイメージ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ