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07 優男な成金子息、子爵邸でお話しを聞きました(前)



「契約結婚?」


俺はショックを受けた。


「と、言うことは、君には他に添い遂げたい相手がいると」

「いないですよ」


は?


「ちょっと……意味がわからないな。」


この話を聞いている人がいないか、俺は辺りを見回した。

見る限り、聞いている人はいない様だ。


「今日は人目もあるし、後日改めて話を聞くってことで……いいかな?」

「はい。 よろしくお願いします」


こんなやり取りがあった二日後。


俺は時間が空いたので、今日、子爵邸に行くことにした。


そういえば、手土産はどうしよう。


商会を出たところで悩んでいると、いいにおいが誘って来る。

いつの間にか、足がそこへ向かっていた。


「いらっしゃい!お!ローレンツか!」

「ディモ、久しいな」


そこはパン屋だった。

ディモは、俺が平民だった頃からの友人。


俺の家が男爵を賜ったのは、俺がまだ7つの時だった。

父の経営が国に貢献したとして、爵位を得たのだ。

突然のことで俺は戸惑ったが、ディモを始め、平民だった頃の友人はいつも通り接してくれる。

もちろん時と場所を考えて。


今は俺とディモの2人っきりだったので、ディモが名前で呼んでくれた。


「今日は何にしますか?」

「実はこれから会う人への土産にしようと思うんだ」

「それは平民? それとも貴族?」

「貴族。 だが、貧しくて有名な家だ。」

「ん~……なら、あまり食べ慣れないのはダメだな。

 シンプルにバゲットとかの方が、良いかも」

「なんで?」

「菓子パンでもいいんだけど、甘くてダメってやつもいるんだよ。

 きっと、その子だけじゃなく、家族で食べるなら、皆が食べれるものの方が喜ぶだろ」


ディモに適当に見繕ってもらい、確実に食べきれるだけの量のパンを購入した。

多くても良いが、パンが傷むのを避けるためだという。


それを持って、馬車に乗り、子爵邸に向かった。


子爵邸に着くと、出迎えてくれたのは、なんとカミラ本人だった。


「こんにちは、カミラ嬢。」

「ようこそ、いらっしゃいませ。 ローレンツ様」

「……なぜ、侍女の格好をしているのかな?」


今、彼女は侍女の制服を着用していた。


「私の家の普段着です。 恥ずかしながら、これが一番無難なので」


使用人が1人くらい居るだろうと思ったら、1人も居ないとは…。

思った以上に生活が困窮しているな。


「……そうか。 これ、知り合いがやっているパン屋のものなんだ。

 何種類か入っているから、後で食べて欲しい。」

「ありがとうございます。 ……わぁ!こんなにたくさん! いいんですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます! こんなに素敵なパン初めて見ました! ローレンツ様のそんなすごい人ともお知り合いなんですね!」

「喜んでくれてうれしいよ。」


満面の笑みがまた見れた。

俺は心の中で、悶えた。


客間に案内され、カミラは侍女の制服のまま、ソファーに腰を下ろした。

なんだか侍女と面接しているようだ。


「それで?どんな契約をしたいのかな?」

「まず、ローレンツ様は私との結婚には抵抗がないのですか?」

「契約次第……かな。 まずは聞かないとわからないことが多い」

「では」


一枚の紙を机に置いた。


「これが、私の契約結婚の条件になります」


要約すると、全部で3つだ。


・子爵家の負債を清算すること


・ローレンツにカミラとは別に好いている人が出来、カミラとの間に子どもが産まれていれば、その子に子爵家を継がせ、カミラは出て行く


 そのとき、妹達がまだ家にいる場合、養うことを条件とする


・カミラをベック男爵家の使用人として働きに出すこと


ナンダコレハ。


「……負債の清算はわかる。 だが、後の項目の意味がわからない。」

「どこがでしょうか?」


俺は紙に指を指しながら指摘した。


「まずは、僕に好きな人が出来た場合に君が出て行くことになっている。

 これはいくらなんでもおかしいだろう。」

「有能な人が残るのは、当然ではないのですか?」


なんで、彼女に不利な契約が書かれているのか、理解が出来なかったが、その言葉を聞いて、少し納得した。


「ここは君の家だ。 それに、僕には子爵の血が入ってはいない。

 この場合は僕が出て行くのが正しい。」


正論を言ったつもりだが、カミラは顔を強ばらせながら、動揺した。


「それでは子爵家が潰れてしまいます!

 私には経営の知識はありませんし、学園にも通っていなかったので、働き口が皆無に近いです。」


そう、カミラは学園に通っていない。


学園に通っていれば、誰でも得れるはずのものをカミラは持っていなかった。


「だから……君が困らないよう、僕が定期的にお金を支払うことを条件にすればいい。

 ……聞くけど、君は僕に振られることを最初から前提にしているよね?

 どうしてか、教えてくれるかな?」

「私はこんな容姿なので、いずれ捨てられることは目に見えております。

 なので、使用人スキルをマスターし、どこへ行ってもお金が稼げるようにしたいのです」

「だから、うちの使用人として働くことにつながるのか……」


俺はがっくりと肩を落とした。


なぜなら、俺の気持ちは少しも伝わっていなかったのだから。

いや、そもそも伝えていないが。


それに、カミラは思った以上に自分に価値がないと勘違いしている。

家の為なら自己犠牲もいとわない人なのだ。


どうすれば、この健気な人を救えるのか。

俺は必死に考えていた。


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