06 優男な成金子息、強面貧乏お嬢様に興味を持ちました(後)
俺が近づくと、アルベルツ子爵令嬢が俺の顔を真っ直ぐ見て、口を開いた。
「なんでしょう?」
「君、アルベルツ子爵令嬢だよね?」
俺は鈴が鳴るような可愛らしい声に驚いた。
「はい。」
「僕はローレンツ。 ベック男爵の次男だ。 良かったら、僕と踊ってくれますか?」
「……私でよければ」
表情が変わらないので、何を思っているのか全く分からない。
俺が差し出した手に彼女の手を添え、ダンスホールへ向かう。
ダンスが始まると、早速話しかけることにした。
「君にちょっと興味があって誘ったんだ。」
「興味?」
「なぜ君は、そんな無表情なのかな?」
「……これは、緊張から来る顔の強ばりです。
外に出ると、どうしてもこうなってしまって……」
「なんだ、つまらないからじゃないのか」
「つまらないと言えばつまらないです。 ……1人でいることが多いので」
「つまり君は、単なる社交下手なのかな?」
「よくわかりましたね。 その通りです」
「それなら、もっと早く話しかければよかったな」
「え?」
「僕は次男だからね。 婿にとってくれる令嬢を捜しているんだ」
勢いで、つい言ってしまった。
後悔しても、もう遅い。
これじゃ、身分目当てで近づいてきたと勘違いされるし、警戒されるじゃないか!
この発言で、アルベルツ子爵令嬢が引いたかビクビクしていたが、相手には好感触だったらしい。
「今、お仕事は何をされているのですか?」
さっきとは少し表情が違う。
こちらに興味を持ってくれているようだ。
「自分の事業を興してね、今、紡績や織物の会社を経営しているんだ。
それにうちは元々成金の男爵家だからね。
次期当主の兄も経営者だし、弟も先日事業を興したよ」
「すごいですね!」
その言葉と、その表情に、俺はノックアウトされた。
なぜなら、見たことも無いような綺麗な顔立ちが、さらにキラキラ輝きながら、満面の笑みを浮かべて俺を見たから。
「そんな顔もできるんだね」
「ん?」
「あぁ……いや、とっても魅力的な顔だったから」
「? そうですか。」
すると、アルベルツ子爵令嬢の顔は、百面相を始めた。
きっと、どんな顔していたのか、思案しているに違いない。
先ほどは、考えていることすら分からなかったのに、いつの間にか、思っていることが手に取るように分かる顔に変わっていた。
「とってもすてきな笑顔だったよ」
「あ! そうでしたか……よく分かりましたね。 私が考えてること」
「君は案外素直だよね?」
「家族からはよく言われます。 だから、笑顔ではなく表情を出さない練習をしていたら…」
「こうなったと。 面白いなぁ。 そういえば、家名だけで、名前を聞くのを失念していた。」
「カミラと申します。 こちらこそ、言うのが遅くなってごめんなさい」
「いや、こちらから早く聞くべきだった。 お互い様だね」
カミラか。
可愛い名前だ。
その名前を心に刻んでいると、カミラの方から、誘って来た。
「ローレンツ様。 この後お時間頂いてもよろしいでしょうか?」
「ダンスの申し込みはしていないから、構わないよ。」
そう言ったところで、ダンスの曲が終わった。
「では、こちらに」
俺は人気のないところへ誘導された。
そして、カミラは俺と見つめ合うように立って、口を開いた。
「ローレンツ様」
「なんだい?」
「私と契約結婚してくださいませんか?」
「は?」




