05 優男な成金子息、強面貧乏お嬢様に興味を持ちました(前)
ここから、ローレンツ視点が続きます。
「魔女」とささやかれている令嬢が、壁の花になっている。
以前、王族主催のパーティーに出席した時も、彼女は壁を背に立っていた。
「ローレンツ!」
「あぁ!久しぶり。 クリスト」
ストレートの金髪にグレーの瞳、20才にしては幼い顔の男が軽く手を挙げ、近寄って来た。
すると、俺の首に片手を回し、耳元に口を近づけ、にやけた顔した。
「大分儲かっているらしいな?」
「それほどでも」
「うわ~……しれっと言うところがむかつくなぁ」
「今日は久々のパーティーなんだぞ。 そんな話題をするなよ」
学園時代の旧友と再会して、つい言葉遣いが緩んでしまった。
俺は最初、平民として産まれた。
7才になったとき、商会を経営していた父が、ロザリファ国王から爵位を賜り、今は、ベック男爵の次男として、社交界にいる。
しかし、爵位を父から譲られるのは、嫡男である兄だ。
俺は今、紡績や織物を販売する商会を経営しており、その仕事に追われ、ここ最近は貴族のパーティーに出れずにいた。
本来なら、意地でもパーティーに出ないと行けないのだが、それでも儲かっているし、宣伝にはあまり支障がなかったので、経営の方に目を向けただけだ。
それもやっと落ち着き、久々にパーティーに出席できた。
「クリスト。 何か面白い話でも手に入ったのか?」
「い~や。 女の子の話題くらい?」
「今年の感じは?」
「目玉はあの子だな。 エラ・アサモア侯爵令嬢。
うまく人から情報を引き出すのがうまい。
清楚な容姿だから、人気も高いと思う。
彼女が伯爵令嬢だったら、もっと殺到してたかな?」
「そっか。」
「まぁ……俺らには高嶺の花すぎるな」
クリストは、パリッシュ子爵の嫡男だ。
「確かに」
笑っていると、1人の男が近づいて来た。
「よ!2人とも。 楽しそうだな、何の話?」
ウェーブがかった銀髪に碧眼の、柔和な雰囲気を持つ男。
クリストと同じく、旧友のエリク・カーフェン伯爵子息だ。
「アサモア侯爵令嬢は高嶺の花すぎるって話」
「あぁ、そうだな。 俺らには関係ない。」
「エリク、聞きたいのだが、ミーシェ大陸との交易を一時休止するという話は本当か?」
「あぁ、残念ながら」
「え?もしかして、戦争?」
「ミーシェとベルクが一触即発状態らしい。
うちの国は、ミーシェと交易する関係で、食料や日用品の支援をするそうだ。」
「依頼がうちにも来そうだな。」
「ローレンツ! 来そうじゃなくて絶対だ!! さすがに船は王家が出す」
「良かった。 それが聞けただけでも大きな収穫だ」
話が一息つくと、嫌なささやきが聞こえて来た。
「見ろよ。 また突っ立てる」
「あぁ……『魔女』な」
「いい加減飽きないかね。」
「パートナーが決まるまでは無理だな。」
「あの『魔女』に求婚する奴なんているのかよ」
ハハハと笑い合う中心にいるのは、ダンクマール・ブレンターノ。ブレンターノ伯爵の孫だ。
ダンクマールは、緩いウェーブの茶髪にグレーの瞳。
いかにも傲慢そうな地味な顔立ちの男だった。
俺が眉を潜めていると、エリクが意外なことを口にした。
「ダンクマールか……相変わらずうるさいな。従姉妹なのに、いいのか? あの態度で」
「え?あいつと『魔女』って従姉妹なの!?」
「確かそのはずだ。」
思わず見比べるが…似ているところが一つもない。
髪色等もそうだが、顔つきも全く似ていなかった。
「ブレンターノ伯爵夫妻は良い人柄なんだが、孫はそれを引き継がなかったんだな」
「はぁ……」とエリクがため息をつく。
「ダンクマールと何かあったのか?」
「あいつ、王城で働いているから、いやでも目につくんだよ。」
エリクは王城で働いているので、王城内の情報に聡い。
ああいう奴が嫌いなので、うんざりしているようだ。
「なぁ。 アルベルツ子爵令嬢の話は『魔女』ってことしかないのか?」
「お! ローレンツの口から女の話題が出るなんて!」
クリスタが冗談混じりに言うと、エリクが困り眉にしながら答える。
「他はあまり……あぁ。 ローレンツには朗報かもしれない。
彼女の家が困窮しているのは明らかだろう?」
「まぁ……そうだな。」
ちらりと彼女を見てしまう。
ドレスは型落ちしている上に、ほつれを糸で直してある跡も見て取れる。
「彼女は三姉妹の長女だ。 早急に婿を取りたいらしい。」
確かに、俺には得がある。
俺は男爵も継げない立場だが、婿に入れば別だ。
子爵と言う地位が手に入る。
幸い金はあるし、彼女が受け入れれば、互いに良い関係が保てる。
「ローレンツ。 そうじゃなくても、声かけたいんだろ?」
「それは……」
「分かるぞ、なんたって、彼女は美人だからな」
そう、彼女は美人なのだ。
整っている顔立ち。
碧眼に淡い金髪のストレートヘア。
つり目の目すら可愛いと思うんだから、重症だ。
だが、誰も彼女の笑った表情を見たことが無い。
いつも、鉄仮面かと思うくらいの真顔で、壁に佇んでいる。
彼女が笑っているところを見てみたい。 ……けれど
「俺が……声かけていいと思うか?」
「また、容姿批判か? いい加減、兄貴と比べるのはよせ!」
「俺は、ローレンツの方がいい。 ベック家の嫡男て、綺麗だけど、なんか苦手だ」
俺には兄と弟がいる。
兄は、母親譲りの綺麗な顔立ち。
一方俺と弟は、父親似。
地味な顔立ちだ。
茶の髪に、茶の瞳もこの国では平凡中の平凡だ。
どうしても兄と比べられる機会が多いので、いつの間にか、卑屈になってしまった。
「そんなの気にするな!! 行ってこい!!」
2人の友に背中を押され、俺はアルベルツ令嬢の元へ向かった。




