04 強面貧乏お嬢様、使用人を目指します(後)
「申し訳ないけれど、僕の妻になった人間をうちの邸で働かせることはできないよ?」
「そこを……なんとか!」
「ん~……」
ローレンツ様は、困った顔をして、腕を組んで、少し悩んだ後、新たな提案をしてくれました。
「では、婚約者として、うちでしばらくの間、住むのはどう?」
「ローレンツ様の邸でですか?」
ローレンツ様は微笑みながら答える。
「うん。 その間なら、妻よりも好き勝手出来るからね。
妻に使用人の真似事をさせるのは、外聞が悪いからなぁ。
「妻を使用人扱いしているひどい人間が経営している商会なんて、クズだ!」
なんて言われて、売り上げが落ちてしまうからね。
婚約者としてなら、使用人の立場の人がどんなことをやっているのか学びたいとか言っておけば、まだ、納得してくれるから。
申し訳ないけど、僕は経営者だから、悪評は命取りなんだ。」
はぁー……と私は目から鱗が落ちた。
「なるほど。 そう見る人もいるのですね。
でも、それだと、私は外聞が悪いですよ。『魔女』ですし」
「そこは、徐々に噂を変えていけば良い。 あなたの人柄なら、きっとうちの使用人達も気に入るだろう。
ただ……この契約書はお父上には見せたのかな?」
「いいえ。 昨日1人で考えたので、まだ言っておりません。」
「それはまずいな。 後日、改めてお父上とお会い出来る日を設定してもらいたい」
「今日、帰り次第、父に伝えます。」
「そうしてくれると助かる」
すると、ローレンツ様は「あ」っと言って、私に訪ねて来た。
「もし、学園に通いたいなら、結婚した後でも通うことは可能だよ?
周りから浮くかもしれないけど、学園を卒業したという資格は、得ることが出来ると思う」
「え……と」
通いたかったはずの私は、「本当ですか!?」と答えることが出来なかった。
「……正直、ローレンツ様の側にいた方が、勉強出来る気がします。
私は社交が苦手というのは嫌というほどわかりましたし……。
学園の資格だけ、もらうことは出来ないのでしょうか?」
ローレンツ様は「うーん」と頭に手を当てた。
「それは……難しいね。 お金を積めば可能かもしれないけど……」
「そうですか……なら、もし、ローレンツ様が私に愛想をつかしたら、ローレンツ様に推薦状を書いてもらうことにします」
「……君はそれでいいの?」
「はい。 夫に愛してもらうなど、私には程遠い夢みたいなものですから」
「君は、前向きなのか、後ろ向きなのかがわからないな」
「はい?」
「いや……何でも無い。 今日はこれで失礼させてもらうよ」
玄関に着くと、私はローレンツ様に感謝の気持ちを伝えた。
「本日はお越し頂きありがとうございました。」
「こちらこそ。 楽しい時間を過ごせて良かった。」
「やっぱり、ローレンツ様に頼んで、正解でした。」
「ん?」
「ローレンツ様なら、うちの子爵家を乗っ取ろうなんて、ひどいことをしない人だと思ったのです。
それ以外の人なら、きっと、お断りしておりました。」
すると、ローレンツはきょとんとした顔になった。
「そっ……か。 信じてくれて光栄だな。 だけど、僕みたいに優しい顔した人が、ひどいことをすることもあるんだよ。 用心に越したことはないからね。」
「もちろんです!」
「お父上にも、僕のことを調査した上で会ってほしいと、伝えておいてくれるかな?」
「調べられても良いのですか?」
「それで困ることはしていないつもりだからね」
互いに笑い合った後、私はローレンツ様の後ろ姿を見送った。




