32 強面貧乏お嬢様、侍女終了を言い渡されました
今回は短いです。
街へのお出かけから数日後、私を含めた侍女見習いたちは1人ずつ、侍女長に朝から呼び出されました。
「え? 侍女終了ですか!?」
「はい。 もう、カミラはほぼマスターしたと言っても過言ではありませんので。
その代わり、貴族夫人教育はまだまだです。
以前泊まった客間に移動し、それを続けてもらいます。」
「けど……」
「これは、あなたの父君、アルベルツ子爵との決め事でもあります。」
カミラは二の句を告げられなかった。
侍女長室を出て、ビアンカと合流すると、嬉しそうな顔で私を出迎えた。
「カミラ! 私、本採用だって!」
「よかったね。 ビアンカ」
ビアンカは「ん?」という表情になった。
微笑んだつもりが真顔だったらしい。
「あれ? 喜んでくれないの?」
「私、侍女終了だって。 貴族夫人教育やれって言われた。」
「え? やった! やっとカミラにお仕えできる!!」
「え~……」
「不満そうにしないの! 元々お貴族様でしょ! これが普通だよ!!」
「侍女……楽しかったのに」
「そんなに楽しかった?」
「うん」
「でも、カミラは、ローレンツ様との結婚も控えているんだからね!
貴族夫人教育の方が重要でしょ! 私も手伝うから~!」
「……うん」
カミラはビアンカと別れ、とぼとぼと寝室へ帰り、荷物をまとめた。
今日は、本採用になった者は通常業務だが、終了を言い渡されたものは免除され、自室の片付けに追われる。
終了を言い渡された者は、明日には出て行かなければならないのだ。
コンコン
誰かが来たので、「はい」と答え、開けると、そこには同期のエルゼが立っていた。
「カミラ。 私、不採用になちゃって、明日には家に帰らなければならないの。
それでこうして一人ひとり、挨拶しようと思って」
「え!? なぜ、エルゼが!?」
「密偵が誰って噂、流したのが私だからだってさ。
たまたま聞いて、興味本位でそんな話をしたのがいけなかったのよね。
ねぇ、大事なもの渡したいから、中に入れてくれる?」
「どうぞ」
エルゼを招き入れ、私がドアが閉めると同時に、口を塞がれた。
「んー!!……んー!!」
布についている臭いを嗅がされながらも抵抗するが、どんどん力が抜けて来る。
私の目の前は、いつの間にか真っ暗になっていた。