30 優男な成金子息、強面貧乏お嬢様に友人を紹介しました(中)
次は平民の知り合いでも、少し厄介者だ。
俺は予約していた下級貴族用の食事店に、カミラと入る。
知り合いはもう既に着いていた。
「遅かったじゃねぇか」
個室にいた男が、俺を少し睨んだ。
「悪かったよ」
ウェイターが俺とカミラの椅子を引き、丁寧な動作で座らせる。
俺は、男が目の前に来る席に着いた。
男は、髪をオールバックにし、上等そうなスーツに身を包んでいた。
茶の髪に、碧眼のがっちりした体型、どこか色気も漂う野生的な印象の男だった。
「大体なんで、この店なんだ!?
こんな窮屈な格好しなきゃ入れない店なんて、指定するんじゃねぇっての!」
「仕方ないだろう? 俺の大事な婚約者を紹介したかったんだ。
あんな危険な場所は、行かせたくないね。
それに、その服を贈ったろ? よく似合ってるぞ、ブルーノ」
「うっせ!」
カミラは確実に戸惑っていた。
「カミラ、こちらはブルーノ。 平民時代からの知り合いだよ。
ブルーノ、こちらはカミラ・アルベルツ子爵令嬢だ」
「カミラ・アルベルツと申します。 よろしくお願い致します」
「……ブルーノだ」
自己紹介が終わったので、本番に移った。
「カミラ、悪いけど、ここからは仕事の話があるんだ。
つまらないかもしれないけど、ごめんね」
俺はそう言って、この国とは別の言語で話す。
『ミーシェとベルクは、どうなってるんだ?』
『開戦した。 ミーシェが若干有利だな。
だが、食料の確保次第で、状況がひっくり返る可能性が高い』
『そうか、他は?』
『ドラッファルグで、貴重な肉が取れたという噂が流れているな。
なんでも、魔獣の中でも珍しい、S級のやつを倒した奴が居たらしい。』
『う~ん。……うちの事業とは合わないな』
『あとは、ワシューの王子がうちの国に興味をもっているだとか』
『ワシューか……あそこは視える国だったな』
『その王子もかなりの魔法を使えるらしい。 けど、まだ、10才だ。
来るとしても、あと4年後くらいだな』
『内部は?』
『ある貴族が国庫の金を擦ってるって話くらいか? よくある話だよな』
『誰か分かるか?』
『なんでも、鼻につく、いかにも傲慢なお貴族様らしい。 親子でやってるってよ。 ……あとは……今来てる、ミーシェの王女様か』
『何かやっているのか?』
『なんかコソコソ動いているらしいぞ。 あぁ…勧誘しているって言っていたな』
『誰を』
『貴族、商人中心に回っているらしい』
『そうなのですか』
『あぁ……は?』
バッと俺とブルーノはカミラの方へ顔を向けた。
『どうぞ、お話を続けてください』
『カ……カミラ、ミーシェ語を話せたのか?』
『はい。 この国のロザリファ語とミーシェ語とドラッファルグ語は、母から習いましたから。 母は学園に通っていた時は、才女と言われていたそうですよ。
私は学園に通えない代わりに、母から、学園で教わったことをしっかり学びましたから。姉妹全員三か国語は話せます』
カミラの意外な特技が分かったところで、食事が運ばれて来た。
食事を食べながら、ブルーノがカミラに聞いた。
「よく、三か国語を覚えたな」
「母が小さいうちから、三つの言葉で話しかけてきましたから。
頭も父似だったらダメだったそうですけど、幸い、私たち姉妹は全員母似だったので」
「その言葉さえ覚えていれば、どこへ行っても通じる」
「そうなのですか?」
「基本がその三か国語だ。 あとは鈍りとかあるが、なんとか通じる」
「お母様に感謝です」
「ってことは、さっきの話も聞いているよな?」
「はい! ブルーノ様は物知りですね」
「”様”付けはよしてくれ」
「では”ブルーノさん”で!」
すると、ブルーノはまた、ミーシェ語を使って話す。
『俺は王都の下町で、裏を仕切っている者だ。
そう言う話はいやでも自然に入って来る。
外で会っても緊急な時以外は話しかけてくれるなよ。
もし、俺みたいな荒くれ者とお貴族様がつながってたとわかれば、外聞が悪いからな』
『ブルーノさんはいい人なのに……』
『まぁ……俺にはローレンツ以外にも情報を渡している貴族はいる。
そうやって俺らは上手く付き合って、生き残っている訳だ。
こんな風にな』
ブルーノはローレンツに手の平を見せる。
ローレンツは、硬貨が入った袋を渡した。
『情報を金にしないと、俺らは生き残れないんでね』
ニッっとブルーノが笑った。
カミラはトイレに行くため席を立った。
すると、ブルーノが口を開く。
『あれがベルンの旦那の娘か』
『……知っていたのか』
『旦那には昔、助けられたことがあったんだ。 だから、旦那には無償で情報を渡している。 ……面立ちが旦那にそっくりだ』
『幼なじみからは取るのにか?』
『あそこの家のことは知っているだろ? 俺も何か役立ちたいと思ったんだよ。
……こんなんだけどな。取れるところから、ちゃんと取っているから問題ない』
『お前……』
『そう言えば旦那、熱心に王城から擦った奴のことを聞きたがっていたな』
『子爵が?』
『そいつの不正をどうしても暴きたいみたいだ。』
カミラが帰って来たので、食事会はこれでお開きになった。




